サイキックチーム出動

文字数 2,331文字

御影純一と宮下真奈美による本格的な捜査は翌朝から開始した。
探偵でもある御影の捜査手順は、意外にもいたって真っ当なものであった。

※作者注:捜査とは通常は警察による調査を指すので、私立探偵である御影の場合は調査と呼ぶのが正しい。しかし本件は警察の内部組織である科捜研の関わる事件のため、捜査という用語を使用した。

まずは容疑者である東心悟のプロファイルを読み込んだ。
現在45歳の東心悟はもともと証券会社に勤める平凡な会社員だった。
35歳のとき同僚であった植山千里(うえやまちさと)と結婚し、2年後に息子である学が生まれた。
40歳を過ぎてから投資家としての非凡な才能を発揮し始めた東心悟は、瞬く間に巨額の資産を築き上げ43歳で会社を退職した。

「おそらくこの頃、サイキックとしての能力に目覚めたんだろうね。しかしこんなに遅咲きなのは珍しい。普通は子供のうちに能力に目覚めるものなんだけどね」

会社を退職した東心悟は間もなく『自分が投資で成功したのは宇宙の声が聞こえるからである』と公言しはじめ、宗教法人コスモエナジー救世会の教主となる。
それとほぼ同時期に、妻であった千里と離婚。学の親権は悟が取得した。

「例のオウル事件以降、宗教法人格を取得するのは難しくなったんだけど、闇では高額で売買されているのさ。コスモエナジー救世会も東心悟が有り余る資産に物を言わせて買い取ったものだ」

御影はS.S.R.I本部のデスク=ちゃぶ台に東心悟のプロファイルが綴じられたファイルケースを置いた。

「彼を知り己を知れば百戦危うからずだからね、まずはとりあえずえず宮下君、離婚した東心悟の元妻・植山千里にでも話を聞きに行こうかな」

「わかりました。すぐに植山千里の所在を調べます」

真奈美はそう答えると、ノートパソコンを広げた。

「それから田村君に確認だ」

「なんだい?御影君」

「二人の被害者の死亡時の東心悟のアリバイは不確かなんだよね?」

「本部にある瞑想室で瞑想していたらしい。一応、本部の職員の証言はあるが、東心悟の側近みたいな連中だからね、信用できない」

「二人目の被害者の家山は公園でジョギング中に死亡したそうだが、最初の被害者の牧野が死亡したのは、たしか**デパートで家族と買い物をしていたところだったよね?防犯カメラに決定的瞬間が残ってるんじゃないかな」

「なるほど、牧野のときは事件性が無いと判断されていたから、そこまで調べてなかったかもな。警察に掛け合うけど、それが参考になるのか?」

田村が尋ねると、御影は少し思案顔のまま考えを述べた。

「もしもだけど、僕が誰かの心臓の血管を捻じ曲げるとしたら、少なくとも標的(ターゲット)が肉眼で見える場所に居る必要がある。つまり上手くすれば防犯カメラに東心悟が映っているかもしれない」

「映っていたら東心悟が犯人にほぼ間違いないってことだな」

「そういうことだ。しかしもし映ってなかったらややこしいよ」

「というと?」

「映ってなければ考えられる可能性は3つ。東心悟はカメラの死角に居た、東心悟は犯人ではなかった・・・そしてもうひとつ」

御影は深呼吸をするように大きく息を吐きだしてから話を続けた。

「東心悟は遠隔から他人の心臓の血管を捻じ曲げることができる・・・僕を凌ぐ力を持つサイキックだということだ」

パソコンを操作していた真奈美は一瞬、息を呑んだ。


それから数十分後、宮下真奈美と御影純一の新生捜査チームは真奈美の運転する乗用車で、植山千里がパート勤務しているスーパーマーケットに向かっていた。
運転している真奈美が、助手席の御影に話しかける。

「あの、御影さん。個人的な事なんですが、質問していいですか?捜査チームのパートナーとして御影さんの事をもう少し知っておきたいんです」

「ん?ああどうぞ。話せる範囲でいいなら答えるよ」

「今回の事件って、御影さんには直接関係ないですよね?どうしてこんなに積極的に協力してくれるのですか?」

「うーん・・それは説明するのが難しいんだけど、僕の過去に対する清算というか、けじめというか・・・とにかくこの種の事件は看過できないんだ」

「あまり詳しくは話したくなさそうですね。では別の質問にします。所長は御影さんが稀代のサイキックだと言ってましたが、どんな能力をお持ちなんですか?」

「いちばん強いのは念動力(サイコキネシス)だね。他には精神感応(テレパシー)、透視と千里眼(クレヤボヤンス)、あまり強くはないが軽い予知ができることもある・・そんなところかな」

「そんなに・・?驚いた。。」

「驚くことはないさ。むしろサイキックの能力がひとつだけということはまず無いんだ。宮下君だって気づいてないだけで、念動力(サイコキネシス)が使える可能性は高い。今度訓練してみよう」

「はい、お願いします」

「あとね、君の『サトリ』の能力は精神感応(テレパシー)の受信能力が強すぎて暴走している状態なんだ。訓練すれば発信もできるようになるから、僕たち携帯電話も無線も不要になるよ」

「私、自分の能力がそんなに実用的なものだなんて、考えたこともありませんでした。あと瞬間移動(テレポーテーション)はどうですか?出来たら便利そうですけど」

瞬間移動(テレポーテーション)は出来ないなあ。出来るって人を見たこともない。あれはたぶん、架空の能力なんじゃないかと思うよ」

「そうですか・・ちょっと残念。あ、目的地に着きました。このスーパーです」

ふたりを乗せた乗用車は、スーパーマーケットの駐車場に滑り込んだ。
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登場人物紹介

宮下真奈美(みやしたまなみ)

超科学捜査研究所=S.S.R.I所員。他人の思考が読める「サトリ」の能力を持つサイキック。

ドラマ「科捜研の女」の沢口靖子に憧れて科学捜査研究所の求人に応募するも、この能力ゆえに不本意にもS.S.R.Iなる秘密部署に配属されてしまった。

男性の下心まで見えてしまうため恋愛が出来ないのが密かな悩み。

田村貴仁(たむらたかひと)

超科学捜査研究所=S.S.R.I所長。現在は閑職に甘んじているが、かつて某宗教団体による毒ガステロ事件の際、サイキックチームを率いて事件を解決に導いた実績を持つ。S.S.R.Iは警察の通常捜査や科捜研の科学捜査技術では手に負えない特殊な事件を秘密裡に捜査・解決する表向きは存在しない組織である。

山科一郎(やましないちろう)

捜査一課の中年警部補。昔気質の地道な捜査で多くの事件を解決してきたベテラン刑事。怪力乱神を語らずが信条だが「コスモエナジー救世会事件」が通常捜査では手に負えない不可能犯罪であると判断すると、S.S.R.Iに捜査協力を依頼するあたり、けっして石頭ではない。

御影純一(みかげじゅんいち)

かつて驚異の超能力少年としてマスコミの寵児となった稀代のサイキック。その能力は底が知れない。表の職業は私立探偵であるがそちらの実入りが少ないためパチンコとマージャンで稼いでいる。

異常に若く見えるが田村と同年齢。

牧野聡(まきのさとし)

「コスモエナジー救世会事件」最初の被害者。マキエス商事株式会社の代表者。


家山実(いえやまみのる)

「コスモエナジー救世会事件」二人目の被害者。ビエブロホールディングスカンパニーの代表者。

福成欣也(ふくなりきんや)

「コスモエナジー救世会事件」において、死を予告されながらも生き延びた初めての人物。IT産業の寵児として若くして日本屈指の資産家に登り詰めた、ハッピーヘブン株式会社の社長。

安田平八(やすだへいはち)

内閣総理大臣。コスモエナジー救世会より死の予言を受けている。彼の命を守ることがS.S.R.Iの目下の任務である。

東心悟(とうしんさとる)

コスモエナジー救世会・教主。元証券会社の社員だが、40歳を過ぎて突然「宇宙の声」が聞こえるようになり、投資で巨額の資産を築き上げる。その資産を元にコスモエナジー救世会を立ち上げた。真奈美の能力をもってしても思考を読むことができない底知れぬ人物であるが、息子の学に対しては非常に子煩悩な一面を見せる。

東心学(とうしんまなぶ)

東心悟と別れた妻である植山千里の間に生まれた8歳の長男。親権は悟が取得した。ゲームとアニメに夢中なごく普通の小学生だが、いつも一人で遊んでいるあたり孤独な影がうかがえる。

植山千里(うえやまちさと)

東心悟の元妻で学の母親。40歳を過ぎて「怪物」と化した悟を恐れ離婚したが、親権を奪われた学が悟とともにいるのは危険であるため、悟が逮捕されることを望んでいると真奈美たちに訴える。

穂積恵子(ほづみけいこ)

御影純一の探偵秘書。5年前のある事件で御影純一に命を救われたことがきっかけで秘書になった。純一に密かに思いを寄せている。


鮫島亮(さめじまりょう)

内閣調査室の調査員。上司に命じられS.S.R.Iと御影純一にある依頼をするが、本人はサイキックの存在に懐疑的である。

真壁俊太郎(まかべしゅんたろう)

T大学の研究者で医学と物理学と心理学の博士号を持つ。1970年代には「超心理学研究室」に所属し、御影や田村たち超能力少年を研究していた。現在はかなりの高齢者だが「脳量子力学研究所」という名称で研究を継続している。日本における超能力研究の第一人者。

冨井春義(とみいはるよし)

作者。幕間に度々登場する。この小説を執筆したのは身の程知らずにもエラリー・クイーンを真似て「読者への挑戦」付きのミステリイを書きたい!と思い立ったからなのだが、案の定緻密で論理的なトリックなどまったく思いつかず、メイントリックが超能力という身も蓋もなくアンフェアな物語を書いてしまった。それを作者得意のハッタリと卑怯と詭弁でいかに本格推理風に仕上げるかが本作品のすべてであると言って過言ではない。

雨宮信一郎(あまみやしんいちろう)

コスモエナジー救世会事務長。元プロボクサーであり、鋭いパンチを持つ。

谷本伸二(たにもとしんじ)

刑事。山科警部補の部下として登場する刑事は他にも居るが、入院中の御影純一の警護役を言いつけられたおかげでザコキャラ刑事の中では唯一名前とアイコンが貰えた。

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