超能力少年44年目の再会

文字数 1,109文字

田村と真奈美が**署に到着すると、山科警部補が入り口で出迎えていた。

「山科さん、御影君・・・御影純一はどんな様子ですか?」

「危険な男だと聞いていたから警戒していたんだが、いたって大人しく連行されて来たよ。留置所でも大人しくしている」

「そうですか。いったい何の容疑で逮捕したんですか?」

「御影は有名なゴト師だったから、わりと簡単に捕まえられたんだ」

「ゴト師?」

「パチプロの一種だよ。パチンコ台を不正操作して玉を抜く稼業だ。店から何度か通報を受けていたんだが、手口が不明だったので逮捕をためらっていたんだ。今回は無理して逮捕状を取った」

なるほど、どうやら御影純一の能力は健在のようだ・・田村は思った。

「早速ですが、御影純一に会わせていただけますか?」

「もちろんだ。ついてきてくれ」

田村と真奈美は山科に先導されて、署内にある留置所に向かった。

留置所の牢内の片隅に座っている男は、身長175cmくらい。
やせ形で手足が長い。安っぽいグレーのスーツにノーネクタイのワイシャツを着ている。
髪は刈り込まれているが無造作であまり整えられていない。
無精ひげの生えている顔は、なかなかに彫が深く整っていてハンサムといえるだろう。
しかし全体的な印象は、リストラされた元会社員といった風体だ。

「御影純一君か?」

田村が声を掛けると、その男は顔を上げて田村の顔を見て、人懐っこそうな笑みを浮かべて応えた。

「おお、田村貴仁君だ・・・懐かしいな」

御影純一は田村と同年齢のはずだが、どう見ても10歳以上は若く見える。
いや、30代と言っても通用するだろう。

「こんなに歳を取ったのに、よく私が分かったな」

「分かるさ。この世ではめったに出会えない、数少ない『同類』だからな。一目で分かるよ」

次に御影は真奈美の方に目を向けた。

「これは驚いた。そちらのお嬢さんも『同類』なのか。複数人の『同類』と対面するなんて、T大学の実験以来だな・・」

急に話題を向けられた真奈美は驚いて、御影の顔を見つめた。
御影の思考は、田村や東心悟と同じくまったく読めない。御影は確かに『同類』らしい。

「こんなところで鉄格子越しに話すのもなんだから、場所を変えよう。山科さん、いいでしょうね?」

「田村さんが言うのならいいだろう。しかし御影純一、お前が聞いているとおりの男なら、この牢屋を自力で抜け出すことも出来たんじゃないのか?」

御影はまた人懐っこそうな笑みを浮かべた。

「もちろんやろうと思えば出来ますよ。でもあとあと面倒はご免ですからね。それにどうせすぐに釈放されると思ってたから」
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登場人物紹介

宮下真奈美(みやしたまなみ)

超科学捜査研究所=S.S.R.I所員。他人の思考が読める「サトリ」の能力を持つサイキック。

ドラマ「科捜研の女」の沢口靖子に憧れて科学捜査研究所の求人に応募するも、この能力ゆえに不本意にもS.S.R.Iなる秘密部署に配属されてしまった。

男性の下心まで見えてしまうため恋愛が出来ないのが密かな悩み。

田村貴仁(たむらたかひと)

超科学捜査研究所=S.S.R.I所長。現在は閑職に甘んじているが、かつて某宗教団体による毒ガステロ事件の際、サイキックチームを率いて事件を解決に導いた実績を持つ。S.S.R.Iは警察の通常捜査や科捜研の科学捜査技術では手に負えない特殊な事件を秘密裡に捜査・解決する表向きは存在しない組織である。

山科一郎(やましないちろう)

捜査一課の中年警部補。昔気質の地道な捜査で多くの事件を解決してきたベテラン刑事。怪力乱神を語らずが信条だが「コスモエナジー救世会事件」が通常捜査では手に負えない不可能犯罪であると判断すると、S.S.R.Iに捜査協力を依頼するあたり、けっして石頭ではない。

御影純一(みかげじゅんいち)

かつて驚異の超能力少年としてマスコミの寵児となった稀代のサイキック。その能力は底が知れない。表の職業は私立探偵であるがそちらの実入りが少ないためパチンコとマージャンで稼いでいる。

異常に若く見えるが田村と同年齢。

牧野聡(まきのさとし)

「コスモエナジー救世会事件」最初の被害者。マキエス商事株式会社の代表者。


家山実(いえやまみのる)

「コスモエナジー救世会事件」二人目の被害者。ビエブロホールディングスカンパニーの代表者。

福成欣也(ふくなりきんや)

「コスモエナジー救世会事件」において、死を予告されながらも生き延びた初めての人物。IT産業の寵児として若くして日本屈指の資産家に登り詰めた、ハッピーヘブン株式会社の社長。

安田平八(やすだへいはち)

内閣総理大臣。コスモエナジー救世会より死の予言を受けている。彼の命を守ることがS.S.R.Iの目下の任務である。

東心悟(とうしんさとる)

コスモエナジー救世会・教主。元証券会社の社員だが、40歳を過ぎて突然「宇宙の声」が聞こえるようになり、投資で巨額の資産を築き上げる。その資産を元にコスモエナジー救世会を立ち上げた。真奈美の能力をもってしても思考を読むことができない底知れぬ人物であるが、息子の学に対しては非常に子煩悩な一面を見せる。

東心学(とうしんまなぶ)

東心悟と別れた妻である植山千里の間に生まれた8歳の長男。親権は悟が取得した。ゲームとアニメに夢中なごく普通の小学生だが、いつも一人で遊んでいるあたり孤独な影がうかがえる。

植山千里(うえやまちさと)

東心悟の元妻で学の母親。40歳を過ぎて「怪物」と化した悟を恐れ離婚したが、親権を奪われた学が悟とともにいるのは危険であるため、悟が逮捕されることを望んでいると真奈美たちに訴える。

穂積恵子(ほづみけいこ)

御影純一の探偵秘書。5年前のある事件で御影純一に命を救われたことがきっかけで秘書になった。純一に密かに思いを寄せている。


鮫島亮(さめじまりょう)

内閣調査室の調査員。上司に命じられS.S.R.Iと御影純一にある依頼をするが、本人はサイキックの存在に懐疑的である。

真壁俊太郎(まかべしゅんたろう)

T大学の研究者で医学と物理学と心理学の博士号を持つ。1970年代には「超心理学研究室」に所属し、御影や田村たち超能力少年を研究していた。現在はかなりの高齢者だが「脳量子力学研究所」という名称で研究を継続している。日本における超能力研究の第一人者。

冨井春義(とみいはるよし)

作者。幕間に度々登場する。この小説を執筆したのは身の程知らずにもエラリー・クイーンを真似て「読者への挑戦」付きのミステリイを書きたい!と思い立ったからなのだが、案の定緻密で論理的なトリックなどまったく思いつかず、メイントリックが超能力という身も蓋もなくアンフェアな物語を書いてしまった。それを作者得意のハッタリと卑怯と詭弁でいかに本格推理風に仕上げるかが本作品のすべてであると言って過言ではない。

雨宮信一郎(あまみやしんいちろう)

コスモエナジー救世会事務長。元プロボクサーであり、鋭いパンチを持つ。

谷本伸二(たにもとしんじ)

刑事。山科警部補の部下として登場する刑事は他にも居るが、入院中の御影純一の警護役を言いつけられたおかげでザコキャラ刑事の中では唯一名前とアイコンが貰えた。

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