第1話 自撮り

文字数 617文字


 最近は本当に便利な時代になったな、と思います。
 僕が若い頃、前髪やまつ毛、メイクなどを気にする女子は、折り畳み式の手鏡で確認しておりました。

 しかし、現代ではスマートフォンが普及し、大半の若者は一台持っていると思います。
 高性能なスマホのカメラがあれば、”自撮りモード”で自身の顔が確認できます。
 
 ある日のこと、僕は繫華街の大きな交差点で、信号が変わるのを待っていました。
 反対側に立っている、ひとりの女子高生が目に入りました。
 なぜその子に目が行ったかと言うと、先ほどから仕切りに同じ行動を続けているからです。

 スマホのカメラを鏡代わりに、何度も前髪をいじりまくっていました。
 失礼ですが、風も強い日でしたし、あまり変わっていない気がします……。

 そして信号が青になり、大勢の人が交差点を渡ろうとするのですが。
 先ほどの子はずっと髪型を触り続けています。
 視線はスマホに向けたまま、器用に歩くのです。

 僕とすれ違っても、前髪を触り続けていました。
 気になった僕は、交差点を渡ってから、振り返りました。
 しかし、その子は渡っても尚、前髪を触り続けています。

 この瞬間、僕は思った。
 急いで彼女の元へ走り、バッグからあるものを差し出す。

「はぁはぁ……あの! ちょっといいですか!?」
「え……なんでしょう?」
「そんなに前髪が気になるなら、僕が使っているハードワックスをどうぞ! ガッチガチに固まるよ!」
「……」

 結果、僕は通報された。
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