第2話 落ちこぼれじゃないわよ!

文字数 3,125文字

ポストアタッカーのメダルプレートが、日の光を反射してキラリと輝く。
そのプレートを鞍に下げ、一頭の馬が郵便物と男を乗せ、荒野の一本道を疾走していた。

ドカッ!ドカッ!ドカッ!

そこは戦中戦闘のあった場所、周囲はまだ戦中の残骸が散らばっているところもあり、道は唯一安全な場所となっている。

男はこの地方でも一番大きい郵便局、デリー郵便局エクスプレスのポストアタッカー、ジェイク。
馬着には郵便マーク、後ろにも同じマークが付いた袋の荷物が載っている。
アタッカーはダークグリーンのつなぎのスーツに防弾ジャケット。
その右腕には、プレートと同じマークをを染めた腕章、そして馬具にはショットガン1丁に腰にはハンドガン。
ガンベルトにはずらりとシェルが並んでいた。

一本道の途中、小さな小屋を通り過ぎた。
そこは道横にある休憩所だ。水場もないこの荒野渡りのルートの途中に最近出来た。
道に面した方の壁が無く、オープンな屋根付きの、簡素な小屋だ。
が、出来たはいいものの、やはり強盗を恐れて利用する人は少ない。
ただ、ここには要望の多かった井戸と、緊急時にポリスへの連絡が可能な直通ボタンが付けられた。
とは言っても直通だけに配線は頻繁に断線し、隠れる場所の少ない荒野では、ここは盗賊の格好の隠れ場所になっていた。

パンパンパン!

軽い銃声が響き、腕と足に当たる。
防弾のスーツは乗馬に特化したもので、手足の外側にプレートが入っている。
地雷強盗の一件を期に今ではみんな防弾スーツの着用義務がある。
義務はあると言っても、着ない物好きもいるが、まあ死んでも構わなきゃ好きにしろという感じだ。

パン!パンッ!

パシッ!パシッ!

敵はハンドガンか、撃ちながら追ってくる。
弾は後ろの荷物に当たり、ジェイクは舌打ちながら鞍に下げたショットガンを取った。

「そこはお前達のための建物じゃねえよ。バーカ!」

慣れた手つきで、片手でフォアエンドを引く。
鏡で後ろを見ると、馬が2頭、追ってくるのは荷物を狙う盗賊だ。

パンパン!

馬着と、郵便に当たる。

「くそったれ、一時減ってたのに、最近また増えてきたなー。」

ジェイクは苦々しい顔で、手綱から右手を放し、上半身を後ろにひねるとショットガンの引き金を引いた。



繁華街から外れた一角、と言ってもビルは半壊している物がほとんどで、きちんと建て直しているのは政府関係の低いビルしか無い。
道沿いは低い木造住宅が並び、道に車はごく少なく、ほとんどの人が馬車や馬に乗っている。
戦後ガソリンは枯渇し、車は姿を消して馬が人の足になって久しい。

ここはデリー市のデリー郵便局。
ハシュガル南部のハブ的郵便局で、この地方の郵便は一旦ここに集められて仕分けされ、各郵便局に配分される基地的機能を持っているので一番大きい。

郵便局は、ロンドと同じでここが唯一現金を扱っている。
窓口の奥を見ると、女性スタッフが多い銀行部門と違って、郵便部門は仕分け以外では男性比率がグンと上がる。
強盗の多さから、女性になり手は少なく配達は男性が多いからだ。

ジェイクが郵便局の裏にあるゲートを入ると、馬を下りて荷受け場に荷物を降ろし始めた。
袋に銃弾で空いた穴を見ると、ヤレヤレとため息が出た。

「ケイン、すまない、またやられた。
破損した郵便物、確認頼むよ。」

「オッケー、お疲れ。まあ、人間にケガがないのがラッキーさ。」

「ま、客もそう思ってくれればもっとラッキーなんだがねえ。」

「ジェイク!また誤配のクレーム!」

事務所から、シロンが叫ぶとメモを差し出す。
キュートなブラックなのに、見てわかるくらい真っ赤だ。
ジェイクはメモを受け取り、パンッと手を合わせて彼女を拝んだ。

「もう!電話受けるあたしが怒られんのよ!レイルにケーキもってこいって言っといて!」

言い捨てると、ドスンドスンと戻って行く。
ジェイクの胃がキリキリ痛んだ。

「はああぁぁ、今は忍耐だ。」

「ははっ、ジェイクの胃に穴が空かないように祈っとくよ。」

ケインが笑って荷物を運ぶ。
ジェイクは着荷帳にサインして、備考に『強盗と抗戦有り』と記入する。
馬を馬繋ぎ場に連れて行くと、ジャケットを脱いで世話を始めた。



「ヘイ、ヘイ、ダーリン、ラブダーリン♪イェイ、ヤ!
フンフン、あー、日焼け止め忘れたー、最悪う〜」


ダークグリーンの防弾スーツに着替え、ロッカーをバーンとカッコ良く閉める。
よし。
エクスプレスの事務所に入ると、背中に郵便マークの入ったジャケットを羽織りながらソファにドカッと座った。
ポケットにあるクラッカーの箱取りだし、ジャケットの襟から肩までのびたダークブラウンの髪を両手で跳ね上げる。
浅く焼けた肌は、日焼け止め塗ってもこの職業ではなかなかセーブ出来ない。
これが悩み。

あたしはレイル・グラント。
二十歳になりたてのハッピーな女の子。
この辺では珍しい、ていうか、デリー郵便局初の美人女性ポストアタッカーよ。

は?!ポストアタッカーって何だ?ですって?
あんた、いったいナニジンよ?

この国、戦後電話がないの。
だから、急ぎの用事はだいたい電報か速達。

考えてみてよ、こっちが電話使っても、相手が電話持ってなければ何にもならない。
不便って?そりゃ不便よ。
でもね、うふ、だからあたし達がいるんじゃない?

ピピッ!

事務所の裏玄関のセンサーキーが鳴った、誰か帰ってきたわ。

「ヘイ、帰ったぞー。あーあ、参ったなー。」

先輩アタッカーのジェイクが、デラード、テミスの2局回りから帰ってきた。
ひどくウンザリした顔で、ショットガンを壁に掛けて向かいのソファにどさんと座ると、大きくため息をついて反っくり返り、オーバーアクションで長い足を組む。
ジェイクはあたしの大先輩、カッコイイ、アタッカーの見本みたいな奴。
ま、持ち上げて損はないわ、だって、あたしの指導係だもん。

「あー疲れた、またあの休憩所から撃ってきやがった。
あれ、どうにかならんのかね、盗賊の格好の襲撃場所になっちまって、迷惑千万だぜ。
腹減ったなあ、昼は外に食いに出るかな。」

「ジェイクおかえりー、で、殺っちゃったの?ポリスに連絡入れる?」

「いや、威嚇で諦めた。ああ言う諦めのいい奴は助かる。」

なーんだ、つまんない。
ポリポリ、クラッカーかじりながら事務所の冷蔵庫からジュースを取る。
ジェイクが、すっごく大きなため息付いた。

「はああああああ、まただ、まただぜ、レイルよ。」

「なにが〜?」

「はああぁぁ……レイル! 個別配送! またクレーム!
まただ、またラウム商店とラルム商事!お前何度間違えるんだよ!そのうち訴えられるぞ!」

あちゃっ!

「え〜〜やっだー!すいませーん!だってえ、近所だしぃ、どっちも郵便多いしぃ、つづりが似てるんだもん。」

「クソ、お前、昼からロンドか、俺が怒られてきてやるから、あとでピザおごれ!
シロンはケーキ持って来いだそうだ。」

「え〜やーだー、安月給なのにぃ!ジェイク先輩、愛してるう!」

ホッペにグーしてお尻ぷいぷいして見せる。
が、親指下向けて無視された。

チェッ、またやっちゃった。

えーと、なんだったっけ?
あ、そうそう。
まあだからさー、速達は電話の代わりって訳よ。
ポストアタッカーは、その速達業務を担う、ポストエクスプレスの早馬アタッカー。
戦後ゲリラが盗賊に職を変えて、命知らずで襲ってくるから、武力と乗馬スキルが求められるの。
だからポストアタッカーは、退役軍人が多いわけ。

で、去年、軍を首になったあたしは、デリー郵便局勤務の新米美人ポストアタッカー。
私の武器はショットガン、レミントンM870。
当たるかって?ま、たまにね。

え?なんで軍を首になったかって?
それはねえ……女の子には!秘密の二つや三つや四つや五つくらいある物よ!
ガタガタ言うんじゃ無いわよ♡
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登場人物紹介

レイル・グラント

デリーの新入りアタッカー。ダークブラウンのセミロングの髪、目はブラウン。

ミスが多く、脳天気で頻繁に強盗に襲われる。

酒を飲むと羞恥心が消える。いや、飲まなくても羞恥心はないのかもしれない。

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

レイルの面倒で胃に穴があきそうな感じ

・セシリー・メイル

17才。プラチナブロンド、碧眼、白人ではない。

リッターとは父親違いの兄妹、可愛い系美少女。人を見て選別し、ガッツリ甘える世渡り上手。

馬は青毛の大きい馬ナイト、銃は見た目で選んだスバス。

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