第12話 カジノ騒然

文字数 2,672文字

老人らしからぬ、張りのある声が店内に響く。
じろりとサトミと男達、そして台に寝っ転がるレイルを見回し、杖で床をつき、カンと音を立てた。
どうやらこいつがボスらしい。

「バスル、この騒ぎは何だ。
そもそもだ、このガキがここにいるのはどういう事だ。ここはカジノだぞ。」

オールバックのアニキ、バスルが慌ててボスの前に頭を下げる。
チラリと無言のサトミを見て、ニッコリ愛想笑いした。

「ガキは酔っ払いの姉貴を迎えに来た奴でして。すぐ返しますので、お騒がせしました。
おいっ!」

下っ端に目配せすると、若い男達が慌てて倒れた男達を奥に引っ張って片付け、レイルの服を拾ってサトミに突き出す。

「そら、こいつの服持っていけ。女は運ぶから。ほら!」

しかし、サトミはレイルの服をじっと見て、受け取る気配がない。
男は焦って引っ込めると、レイルの腹に乗せ彼女を抱えようとした。

「待て、クソ野郎ども。」

サトミの言葉に、ギョッとバスル達が目を剥く。
ボスは機嫌の悪そうな顔で、背を伸ばし顔を上げてサトミを見下した。

「なんだチビ助、わしが黙っているうちに帰れ。」

「あんたがここのトップか。丁度いい。」

「ガキの話なんぞ聞く気も無い、おい、叩き出せ。」

取り巻きの黒服にアゴで指す。
男が前に出てサトミに触れようとした瞬間、その腕をパンと叩いた。

「……はぅぁ?!」

男が奇妙な声を上げ、もう一度掴もうと腕を上げる。
が、その腕はあり得ない場所で曲がっていた。

「………ギ、ガァ、ア、ギャアアアアア!!」

黒服の男が腕を押さえ、よろよろと下がって尻餅をつく。
しかしサトミは、どう見ても軽く叩いたようにしか見えなかった。
怪訝な表情の男達に、サトミが言葉を放つ。

「俺に触れるな、俺は今、最高に機嫌が悪い。」

「きっさまあああ!!」

ザッと、サトミを知らない男達が周りを囲む。
サトミを知ってる男達は、すごすごとその後に隠れるように続いた。
銃を向けすごむ男達に周りを囲まれ、サトミが楽しそうに笑う。
普通とは違う、その異様な様子に男達がたじろいだ。

「クククク………いい……暇つぶしだ。

良く聞け! クソ野郎ども!!

この女は、酔って軍を首になった女だ。
二度と過ちは犯すまいと心に決めていたハズだ。
だが見ろ、この有様だ。
こいつが郵便局のアタッカーと知って、一杯食わせようとした奴がいる。
こいつは明日、早朝に仕事がある。だが、これじゃ明日は仕事になるかわからねえ。

つまりだ!!こいつの分も俺が働かなきゃならねえって事だ。
え?どういう事だ?! クソ野郎ども、俺の機嫌は最低だ!

貴様らには謝罪を要求する!!」

ぽかんと男達が顔を見合わせる。
首を傾げ、ひょいと肩を上げた。
サトミの頭に指でくるくる回して手を広げる。
やがて、一人が笑うとみんな笑い出した。

「フヒッ!クックック……」

「ヒッヒッヒ……」

「「  ハーッハッハッハ!!  」」

「 バカかこいつ!! 」

男達がゲラゲラ笑い出す。

「誤れって?お姉ちゃん、酔わせてゴメンねって?ヒャーッハッハ!」

笑い転げる男達の真ん中で、サトミが笑う。

そうかよ、それが答えか。

背に右手を回し、雪雷をすらりと抜く。
左手には、腰のサバイバルナイフを抜いた。
ギラギラと輝く刀身を見て、男達がすくんで息をのむ。

「さて、人生最後の大笑いだ、満喫したか。
貴様らは、謝罪の意味を知らないようだ。

その意味を知って、後悔しろ。

そして……    死ね!!  」

「 ふざけるな!ガキがぁ!! 」

一斉に、サトミに向けて男達が撃つ。
サトミはナイフで弾をはじきながら、刀の先でテーブルを跳ね上げて盾に、右端の男に向かって走った。

パンッ!パンパンパンッ!
パンパンッ!

キンキンカンキンッ!

キッキンッ!

「ちょっ!こっち来る……ぐぁっ!」

サトミが男を峰打ちして男の背後に身を落とし、自分の盾にする。

「あっ!ち、この野郎!」

「おらよっ!」

男がポンと死体を放られて、それを慌てて横にどける。

「うわぁっ!」バキッ!ゴキッ!

隙を突かれて脇腹を峰打ちされ、肋骨がイヤな音を立てて男が泡を吹いて白目になった。

「こいつ、撃て!撃て!」

「うるせえ、端から順だ!待ってろクソ野郎!」

パンパンパンパンッ!

倒れる男を掴んで盾にして、ソファーを飛び越え残る男に一気に向かう。

「ひ!ひいぃ!!」

サトミは飛び上がった瞬間、盾にした男をポンと放り、足で蹴って男たちにぶち当てた。

「わああっ!!」

二人の男が下敷きなり、その上に着地して壁際に並ぶ男達に向かう。

パンパンッ!パンパンパンッ!

「ひいい!」

ドカッ!ゴキッ!ビシッ!
「ギャッ!」  「ぐあっ!」

パンッ!キンッ

次々と峰打ちで撃ち倒し、銃弾を紙一重で避ける。
サトミは楽しむように次々と刀を向け、やがて立っている男が二人になった時、軽やかに舞ってルーレットに飛び乗り楽しそうに笑った。

「キシシシシ!!なんだもう終わりかよ、つまんねえ。」

パンパンパン!

キキンッキンッ!

「何で当たらねえんだよ!クソガキが!」

見回しても、あとはボスだけでとうとう、自分たち二人だけになってしまった。

二人の男が小さくなって、イヤな汗を流し苦々しい顔で銃を向ける。
撃っても当たらず、薄ら寒くて気味が悪い。

ただただ怖い。
いつの間にか、銃がガタガタ震えている。

「ぬるい弾が当たるかよ!ヒヒッ!」

笑うガキの不敵さに、ぜんぜん殺せる気がしない。2人の男がすくみ上がった。

「ボ、ボスーッ!!駄目です、逃げ…逃げて下さい!!」

老齢のボスが息をのみ、口から葉巻がポロリと落ちる。
一体どういう事か、何があったのか頭で整理が付かない。
どうして、一人のナイフ持ったガキが10人の銃で殺せないのか、理解に苦しむ。

「貴様……ナニモンだぁ!」

問われてサトミが刀を肩におき、サバイバルナイフを手の中でクルリと回してボスに向ける。
そして、すました顔でニッコリ笑った。

「速達のご用命でしたら、ロンド郵便局のエクスプレスにお任せ下さい。
俺たちポストアタッカーが、迅速にお運びします。

ま、てめえらクソ野郎からは、お茶代足して料金1000倍もらおうかな。」

「 ふ……ふざけやがって!! 」

ボスの顔が真っ赤にゆであがる。
額に青筋立てて、今にも倒れんばかりだ。

「ボス、お任せを。」

低い、野太い声が、ボスの背後のドアを開き、奥から聞こえた。

「シェンか、すまんな。刻んでやってくれ。」

「はい」

ぬっと、奥から両手に大刀を持ったチャイナ服のアジア系の大男が現れた。
サトミが嬉々として、べろりと唇を舐める。

「ははっ!面白えな。でっかい刀だ、雪よ刀だぜ?こいつは面白え!!」

サトミの目が、イキイキと輝いた。
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登場人物紹介

レイル・グラント

デリーの新入りアタッカー。ダークブラウンのセミロングの髪、目はブラウン。

ミスが多く、脳天気で頻繁に強盗に襲われる。

酒を飲むと羞恥心が消える。いや、飲まなくても羞恥心はないのかもしれない。

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

レイルの面倒で胃に穴があきそうな感じ

・セシリー・メイル

17才。プラチナブロンド、碧眼、白人ではない。

リッターとは父親違いの兄妹、可愛い系美少女。人を見て選別し、ガッツリ甘える世渡り上手。

馬は青毛の大きい馬ナイト、銃は見た目で選んだスバス。

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