第11話 酒飲む大人は始末に悪い
文字数 2,588文字
その頃、サトミは帰ってこないレイルに、しびれを切らして町に出てきた。
まったく不愉快、極まりない。
レイルには、新聞の難しい記事を読んでもらおうと思ったのに、ストックを積んで待っててもいつまでも帰ってこない。
サトミは喋るのはいいが、読むのが苦手だ。
学校に11までしか行ってない上に、目が見えてから文字を見たので、今ひとつ国語力に欠ける。
今までは部下に読んでもらっていたのに、これだけは困った問題だ。
「あああああ、マジむかつく!明日早いから早く寝なきゃならねえのに!」
町をぐるっと見回すと、彼女の気配はすぐわかる。
人間レーダーは、こういう時便利だ。
夕刻の人の多い中、町の奥にあるその場所を目指して、するすると人を縫って歩く。
カジノの前に、若い男が一人立っている。
サトミに気がつくと、ずいっと前に出た。
「何だぁ?ガキ〜」
「おい、ここにバカっぽい女が来てるだろう。」
「はあ?ここは、てめえみたいなお子様の来るところじゃねえよ、帰りな!」
「女返せば帰る、いいから通せ。」
「しつこいガキだなあ、帰れって言ってるだろうが!」
サトミが、ラチがあかないと、ため息交じりに首を振る。
隙だらけの男の脇をすり抜け、ドアノブに手をかけると、男が慌ててサトミの肩に手を置いた。
「この!ま………て!ぁわあああぁぁ!!」
その手がいきなり片手で捕まれ、腕を返されると身体がクルリと舞って地面に転がされる。
次の瞬間、サトミはまるでボールのように向かいの飲み屋に蹴り飛ばした。
「ぐえぇっ!」 バーーン!
道を飛び越え、飲み屋のドアに激しく叩きつけられ、男はドアを押さえる形で失神する。
その店は、レイルが先ほどまで食事をしていた店だ。
この店とカジノは、町でも有名なマフィアもどきがやってる店だ。
この町の人間は誰も近づかない、いわく付きの店だった。
「てめえら、うるせえから出てくるな。と言っても裏口があるか。ははっ!」
ハッと笑ってドアノブを回す。
が、中から鍵がかかっているのか開かない。
「ちぇっ!めんどくせえな〜」
ナイフベルトの小さなナイフを一本取り、ドアのスキマに向けて一気に振り下ろす。
ガッ!!軽い衝撃が来て、サトミが渋い顔でナイフをクルリと手の中で回し、刃を見る。
「やれやれ、何だよボルト切ったくらいで今の衝撃は。つか、このナイフ切れ味落ちたか、今度クレーム入れよう。」
と、言っても『ナイフは金属や石とか切るように出来てません』と返されるのがいつものオチだ。
ため息ついて、ベルトにナイフを戻す。
ドアは、傷一つ無く薄いスキマから鍵のデッドボルトが切られ、ドアがすっと浮いて切られた端がゴトンと落ちる。
ドアノブを引くと、防音処理かドアが分厚い。
中に入ると、ビリヤード台に立つブラとスキャンティ姿のレイルが、真っ赤な顔でサトミに手を上げた。
「やっだ〜〜〜、ダ〜リ〜ン!キターーーーー!!」
周囲は3人の男が悶絶し、1人の男が泡吹いて倒れている。
他の男達は、震え上がって声も出ずに、突然入ってきた少年を呆然と見つめた。
「あーっ、あーあ、やっちまったか……まあ、やったもんは仕方ねえ。帰るぞ、クソ女!」
「やーーだーーー、ぜーーんぶ!ポッキーしてくーーー!!」
台にストンと座ってあぐらをかき、大きく股を広げる。
小さなスキャンティから、見えそうで見えないきわどさに、サトミがげんなりして首を振った。
「男がみんな見せりゃ立つと思うな、クソ女。服着ろ、帰るぞ。」
「なんで〜、ダーリンもポッキーするのにぃ!」
「クソが、誰だ?この女に酒飲ませたのは。酒飲む大人はまったく始末に悪い。」
レイルが、いやんいやんとクネクネして、眠そうに大あくびする。
「ふあああああぁぁ………ダーリン〜、ダーリン〜、あたい〜……そろそろ寝る〜〜
なんか〜〜、眠くなった……なあって……感じぃ〜〜〜……」
そう言って、銃を構える男達の前でこてんと横になって寝た。
さすがにサトミが驚き、呆れてお手上げ状態だ。
「おいおい、マジか!寝やがった。あー、もう!知らねえ。」
クルリとドアに向かうと、男達が驚いて噛みつく。
まさか、女を残して帰るとは思わなかった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てやぁッ!!はぁ?何だぁ?てめえ!女連れて行かんかい!
えぇ〜?こいつらの落とし前どうしやがるんだぁ?!クソが、その首よこせや!」
オールバックのアニキが、ビリヤードのキューを振り回してサトミを牽制する。
「知るかよ、てめえらが引き起こしたことに、俺が何を落とし前付けるってんだ。
大人なら自分で責任持て。その女売るなりバラすなり好きにすればいいさ。じゃあな。」
「ガキいぃ!!舐めんじゃねえぞ!こるぁ!!」
パンッ!
背中を見せたサトミに、威嚇で一発撃って男達が詰め寄る。
裸同然の女に男4人も倒されて、もうすぐボスが来るとなると現状立つ瀬が無い。
しかし、予定が大きく狂って、いい加減に機嫌が最悪のサトミがゆらりと振り向いた。
「……へえ……そうか、そんなに死にたいか。ああ……丁度いい、俺も虫の居所が悪い。」
ニイッと笑うサトミは、異様にプレッシャーがある。
詰め寄っていた男達が、今度はじりじり下がっていった。
ふと下っ端の一人が、気がついて声を上げる。
「あいつ!!」
「どうした?」
「あ、アニキ、あの背中の長いナイフ! まずいですぜ。……こ、こいつ!……半殺し野郎だ!!!」
バッと男達の視線がサトミに集中した。
「まさか……、こんなにちっこかったか?」
ヒクリとサトミの眉が動く。
「まずい!ちっこいは禁句ですアニキ!ちっこいって言ったら奴の顔色変わりましたぜ、アニキ!」
ひいっと男達が思わず引いた。
「逃げやしょう!ちっこいなんてアニキが言うから!」
「頼む!切らないでくれえっ!ちっこい言って悪かった!」
カジノの中が、絶望感に変わり男達が部屋の角に追い詰められる。
サトミが苦々しい顔でチッと吐き捨て男達を向いた。
「ちっこいちっこい絨緞爆撃しやがって、俺はこれから育つんだ、クソ野郎が。
てめえら俺をそう呼ぶと言うことは、強盗にも手ぇ出してるカスかよ。
まったく、ワルが何でもしやがるな〜。丁度いい、腕一本もらっとくか。」
すうっとサトミの手が背に伸びる。
「「「 ひいいいいいぃぃぃぃぃ!! 」」」
「 何の騒ぎだ! 」
怒号が響き、一人の金髪の老人が、派手なスーツにでっかい葉巻くわえて、杖を突きながら部下に囲まれ現れた。
まったく不愉快、極まりない。
レイルには、新聞の難しい記事を読んでもらおうと思ったのに、ストックを積んで待っててもいつまでも帰ってこない。
サトミは喋るのはいいが、読むのが苦手だ。
学校に11までしか行ってない上に、目が見えてから文字を見たので、今ひとつ国語力に欠ける。
今までは部下に読んでもらっていたのに、これだけは困った問題だ。
「あああああ、マジむかつく!明日早いから早く寝なきゃならねえのに!」
町をぐるっと見回すと、彼女の気配はすぐわかる。
人間レーダーは、こういう時便利だ。
夕刻の人の多い中、町の奥にあるその場所を目指して、するすると人を縫って歩く。
カジノの前に、若い男が一人立っている。
サトミに気がつくと、ずいっと前に出た。
「何だぁ?ガキ〜」
「おい、ここにバカっぽい女が来てるだろう。」
「はあ?ここは、てめえみたいなお子様の来るところじゃねえよ、帰りな!」
「女返せば帰る、いいから通せ。」
「しつこいガキだなあ、帰れって言ってるだろうが!」
サトミが、ラチがあかないと、ため息交じりに首を振る。
隙だらけの男の脇をすり抜け、ドアノブに手をかけると、男が慌ててサトミの肩に手を置いた。
「この!ま………て!ぁわあああぁぁ!!」
その手がいきなり片手で捕まれ、腕を返されると身体がクルリと舞って地面に転がされる。
次の瞬間、サトミはまるでボールのように向かいの飲み屋に蹴り飛ばした。
「ぐえぇっ!」 バーーン!
道を飛び越え、飲み屋のドアに激しく叩きつけられ、男はドアを押さえる形で失神する。
その店は、レイルが先ほどまで食事をしていた店だ。
この店とカジノは、町でも有名なマフィアもどきがやってる店だ。
この町の人間は誰も近づかない、いわく付きの店だった。
「てめえら、うるせえから出てくるな。と言っても裏口があるか。ははっ!」
ハッと笑ってドアノブを回す。
が、中から鍵がかかっているのか開かない。
「ちぇっ!めんどくせえな〜」
ナイフベルトの小さなナイフを一本取り、ドアのスキマに向けて一気に振り下ろす。
ガッ!!軽い衝撃が来て、サトミが渋い顔でナイフをクルリと手の中で回し、刃を見る。
「やれやれ、何だよボルト切ったくらいで今の衝撃は。つか、このナイフ切れ味落ちたか、今度クレーム入れよう。」
と、言っても『ナイフは金属や石とか切るように出来てません』と返されるのがいつものオチだ。
ため息ついて、ベルトにナイフを戻す。
ドアは、傷一つ無く薄いスキマから鍵のデッドボルトが切られ、ドアがすっと浮いて切られた端がゴトンと落ちる。
ドアノブを引くと、防音処理かドアが分厚い。
中に入ると、ビリヤード台に立つブラとスキャンティ姿のレイルが、真っ赤な顔でサトミに手を上げた。
「やっだ〜〜〜、ダ〜リ〜ン!キターーーーー!!」
周囲は3人の男が悶絶し、1人の男が泡吹いて倒れている。
他の男達は、震え上がって声も出ずに、突然入ってきた少年を呆然と見つめた。
「あーっ、あーあ、やっちまったか……まあ、やったもんは仕方ねえ。帰るぞ、クソ女!」
「やーーだーーー、ぜーーんぶ!ポッキーしてくーーー!!」
台にストンと座ってあぐらをかき、大きく股を広げる。
小さなスキャンティから、見えそうで見えないきわどさに、サトミがげんなりして首を振った。
「男がみんな見せりゃ立つと思うな、クソ女。服着ろ、帰るぞ。」
「なんで〜、ダーリンもポッキーするのにぃ!」
「クソが、誰だ?この女に酒飲ませたのは。酒飲む大人はまったく始末に悪い。」
レイルが、いやんいやんとクネクネして、眠そうに大あくびする。
「ふあああああぁぁ………ダーリン〜、ダーリン〜、あたい〜……そろそろ寝る〜〜
なんか〜〜、眠くなった……なあって……感じぃ〜〜〜……」
そう言って、銃を構える男達の前でこてんと横になって寝た。
さすがにサトミが驚き、呆れてお手上げ状態だ。
「おいおい、マジか!寝やがった。あー、もう!知らねえ。」
クルリとドアに向かうと、男達が驚いて噛みつく。
まさか、女を残して帰るとは思わなかった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てやぁッ!!はぁ?何だぁ?てめえ!女連れて行かんかい!
えぇ〜?こいつらの落とし前どうしやがるんだぁ?!クソが、その首よこせや!」
オールバックのアニキが、ビリヤードのキューを振り回してサトミを牽制する。
「知るかよ、てめえらが引き起こしたことに、俺が何を落とし前付けるってんだ。
大人なら自分で責任持て。その女売るなりバラすなり好きにすればいいさ。じゃあな。」
「ガキいぃ!!舐めんじゃねえぞ!こるぁ!!」
パンッ!
背中を見せたサトミに、威嚇で一発撃って男達が詰め寄る。
裸同然の女に男4人も倒されて、もうすぐボスが来るとなると現状立つ瀬が無い。
しかし、予定が大きく狂って、いい加減に機嫌が最悪のサトミがゆらりと振り向いた。
「……へえ……そうか、そんなに死にたいか。ああ……丁度いい、俺も虫の居所が悪い。」
ニイッと笑うサトミは、異様にプレッシャーがある。
詰め寄っていた男達が、今度はじりじり下がっていった。
ふと下っ端の一人が、気がついて声を上げる。
「あいつ!!」
「どうした?」
「あ、アニキ、あの背中の長いナイフ! まずいですぜ。……こ、こいつ!……半殺し野郎だ!!!」
バッと男達の視線がサトミに集中した。
「まさか……、こんなにちっこかったか?」
ヒクリとサトミの眉が動く。
「まずい!ちっこいは禁句ですアニキ!ちっこいって言ったら奴の顔色変わりましたぜ、アニキ!」
ひいっと男達が思わず引いた。
「逃げやしょう!ちっこいなんてアニキが言うから!」
「頼む!切らないでくれえっ!ちっこい言って悪かった!」
カジノの中が、絶望感に変わり男達が部屋の角に追い詰められる。
サトミが苦々しい顔でチッと吐き捨て男達を向いた。
「ちっこいちっこい絨緞爆撃しやがって、俺はこれから育つんだ、クソ野郎が。
てめえら俺をそう呼ぶと言うことは、強盗にも手ぇ出してるカスかよ。
まったく、ワルが何でもしやがるな〜。丁度いい、腕一本もらっとくか。」
すうっとサトミの手が背に伸びる。
「「「 ひいいいいいぃぃぃぃぃ!! 」」」
「 何の騒ぎだ! 」
怒号が響き、一人の金髪の老人が、派手なスーツにでっかい葉巻くわえて、杖を突きながら部下に囲まれ現れた。