第5話 立花しおりのインタビュー、その後。

文字数 1,200文字

 エレベーターの『ドアが閉まります』の声と同時に立花は開のボタンを押して大きく口を開けて、大股で記者のいる部屋へと小走りに戻って行く。顔には迷いはない。ふんむ、と鼻息を漏らす。

「先ほどは申し訳ありませんでした。あの。取材の続き、……お願いしますっ」

 記者A)立花しおりさん。あなたは賽河湊探偵、カントクさんの助手として色んな事件や事故に遭遇をされているとは思うのですが。その中で最も記憶に残った記憶(モノ)があれば是非、お聞かせ願いませんか。

「はい。助手になりたての頃の怪異ではない、怪異を起こした男女転落事件のお話しです。あれは――……」

 立花は過去に起こった目の当たりにして遭遇した殺人事件の話しを記者に語り始めた。

 ◆

「へぇ。立花君に取材がねぇ」
「はい」
「どういう心境の変化なの。普段は取材なんか受けないって息巻いてたってのに。普通に興味本位に聞きたいね」

 賽河と立花は映画館の一番後ろの壁前の真ん中の見やすい座席に座っていた。

 最新作のSNSでもおススメされており海外先行公開していて前評判も評論家からも絶賛されいた、待ちに待ったホラー映画を観る為だ。周りも公開初日とあって賑わっている。

「殺人事件を少しでも多く、させない為です」
「へぇ」
「カントクがいる街では加害者も痛い目に遭うってことを知らしめる為にお話しを勝手にしたんです。怒っても、助手をクビにしても構いませんよ。どうぞご決断を」

「まァ、立花君にはね日頃からよくしてもらってるしクビになんかしやしないさ」

 賽河は特大サイズのカップの中にあるポップコーンを咥内に投げ入れた。バター醤油味だ。ペプシコーラで流し込む。映画館での鑑賞ついでの醍醐味だ。

 徐々に天井の照明を落とされ消され真っ暗闇へと変わる。スクリーンから漏れる灯りが客席に座る人間を照らし出す。

「インタビューをした取材記者は変死か行方不明。記事も紛失。さらには雑誌も廃刊。出版社もどうなるやら。身売りか、倒産か」
「え」
「立花君から憑いてしまっているんだよ。仕方がないよね」

 立花は絶句をし口許を覆い隠した。目も涙で大きく潤んでしまう彼女に「誰かに話せば不幸は連鎖し増殖し続ける。まさに口は災いの門とはそういう意味合いが含まれている。誰もが失敗をするものだよ、あまり気に病むこともない。ペンが正義とは、文字にはよくも悪くも宿ってしまうことがあるという意味からだ。想いなんかがさ、……ああ、予告が終わってしまった。映画が終わったら、もう一度、状況を教えてあげるよ。どうでもいい赤の他人なんか忘れて、今を堪能して愉しもう」優しく膝の上の空いていた小さく柔らかな手を大きく包み込み握り締めた。

 間もなくして、賽河がいうように雑誌は廃刊となった。

 出版社が倒産してなくなってしまったということが、どこであるような結末が業界で報せをもたらせたのだった。廃刊理由も倒産に至った経緯も語られていない。
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