第1話 助手 立花しおりの沈黙
文字数 2,282文字
記者A)立花しおりさん。あなたは賽河湊探偵、カントクさんの助手というですが色んな事件や事故なども立ち会ったと思うのですが。その中で、最も記憶に残った記憶 があれば是非ともお聞かせ願えませんでしょうか?
記者から取材を受けることはそうそうとない。自身のことではなく相手はカントクのことを嗅ぎつけ根掘り葉掘りと調べている。立花は取材を受けてしまったことに若干の後悔をしている。自身が話せることは限られる。あれやこれやと要らないことまで話せば賽河を溺愛している危険 な国家権力の犬である岸辺伯雄が許しはしない。どんな手段も厭わずに完遂をする。賽河の近くで彼と知り合って、彼を見る視線や行動なんかを見ていても鈍感相手に涙ぐましくも甲斐甲斐しくも雄々しいとすら錯覚してしまう。
「私なんかじゃいい記事にはなりはしませんよ。なので。やっぱり、この取材は」
やんわりと断り帰ろうと腹を据えた。
命は惜しいからだ。岸辺に睨まれ嫌われてはこの先と何があるか堪ったものではない。それに、何かあったときに手助けを乞うのも、後片付けを担うのも実際のところ、彼の役目となっている部分も大きいのだから。お互いの利害関係における力は岸辺の方が強いのは当然。今後に起きかねない状況のためにもここは自身の保身の為にも茶を濁したい。立花自身なんかでは役不足だと。
しかし。記者は怯むことはない。普段から色んな取材をして来た肝っ玉の据わった強者の1人だからだ。
記者A)近代における名探偵と称されるカントクさんの有能な助手の仕事! っという見出しにするつもりです。名探偵×助手ものなんて王道 じゃないですか! 売れます! 売れますよ! それに、お仕事の依頼も――……
「すいませんが、やっぱり取材を受けたのは間違いでした。失礼します」
名探偵の冠のついた賽河だが王道とは裏腹に闇の中で起こる事件を解決をするのが主で、怪異が専門だ。助手となり数多くの現場に入り解決までを見届けた。闇の中で輝く頭脳を賽河は持つ。
ホテルの一室から小走りに立花も立ち去る。振り向く真似 もせずに。
階で止まっていたエレベーターの中に入り、脱いでいた上着を頭に突っ込み腕を入れ一階を押す。『ドアが閉まります』とゆっくりと扉も閉まった。
同時に《最も記憶に残った記憶 があれば是非ともお聞かせ願いませんでしょうか?》の記者の声が鼓膜から脳へと伝い記憶を手繰り寄せていた。
◆◇
忘れもしない。あれは助手になって間もなくの――怪異なんかではない事件。
(今日もすごかったな)と怪異の事件解決後の余韻に浸っていた。
「どう? 怖かったかい?」
「! ぃ、いえ! ……いえ。はい、怖かった、ですね」
大丈夫でしたや驚きました。なんて曖昧な言葉より立花は本音を賽河に伝えた。心臓音も鼓動も鳴り止まない興奮状態である自覚はあるが、これがどういった感情なのかを立花は分からない。言葉にならない高揚感。ライブに行った後の息切れに動機に似た状況だが。これは不快感に近くまみれている。何のはつらつ感もない後残りも最低最悪の気持ち悪さだ。足もガクガクと身震いすらあり様だ。
「辞めるかい?」
「え」
「だって。君ならもう少しいい職場に就けるでしょう? オレなんかの助手なんかしてるよかさ、明るい世界で生きた方がいいでしょ」
にっこりと立花に引導染みた言葉を賽河も言い放つ。
元々、賽河の父親からの頼みで助手になった。賽河の父親が好きで引き受けた。
息子が辞めていいと引導を渡されたのだから、ここで引いたとしてもしこりなんかも残らないだろう。お互い、乗り気ではなかった関係。どちらかといえば息子の賽河の方が。父親の命で来た立花を追っ払う勇気もなかったが為に受け入れたのだ。深く絆を深めて絆される前に解消するなら美しい。終わり良ければ全て良い。
だが、父親になんと釈明をしたらいいのか。
なんと弁明をしたらいいのか。
「私、辞めませんよ」
「ふぅん。意固地さんめ」
「何なんですか! もう!」
ズドン! 少し離れた場所から大きな落下音が鳴り響いた。
「ぇ」
「何かどこからか。落ちた、みたいだねぇ?」
素っ頓狂な言葉で、どこか言葉も裏返ったまま賽河も口にする。
ここは街中。商店街の外れにある住宅街の近く。背の高いビルも多い。
怪異事件の解決後の為、朝方の4時。車量も、人影も少ない。
「行ってみようか」
「え」
「新鮮なうちならオレも何か出来るしね」
歩行補助のT字杖を突いて小走りに、音が聞こえたと思しき方向へと賽河も向かう。遠ざかる背中に立花も唖然である。
しかし、すぐに顔を横に振り「待ってくださいよ!」と駆け出した。
息を切らして賽河は辺りを見渡した。
「どこに落ちたかなんか分からないですよ」
「いいや。分かるよ」
自信に満ちた笑みを彼が浮かべる。
「早朝でよかったよ。朝日が影を照らしてくれるからね」
T字杖を地面に叩き突いた。
瞬間。
辺りが真っ暗闇に包まれた。
「ほら。来た」
真っ白な線が賽河の足元にゆっくりと来た。
「それは一体、何なんですか??」
「亡くなった人の魂の線だよ」
「……まだ死んだって決まった訳じゃっ」
「いいや。亡くなったんだよ」
線が大きく膨らみ立体的へと変わり、人間の顔のようなものが盛り上がる。
悲痛な叫びの形だ。
「酷く恨んでいるようだ」
「そこまでお分かりになるんですか?」
「ああ。恨みがなければ――こんな異様な姿になんかならないでしょう、普通に考えてごらんなさいよ」
きっぱりと言い捨てる賽河に立花も「生きているかもしれませんし、行きましょう!」と急かした。
記者から取材を受けることはそうそうとない。自身のことではなく相手はカントクのことを嗅ぎつけ根掘り葉掘りと調べている。立花は取材を受けてしまったことに若干の後悔をしている。自身が話せることは限られる。あれやこれやと要らないことまで話せば賽河を溺愛している
「私なんかじゃいい記事にはなりはしませんよ。なので。やっぱり、この取材は」
やんわりと断り帰ろうと腹を据えた。
命は惜しいからだ。岸辺に睨まれ嫌われてはこの先と何があるか堪ったものではない。それに、何かあったときに手助けを乞うのも、後片付けを担うのも実際のところ、彼の役目となっている部分も大きいのだから。お互いの利害関係における力は岸辺の方が強いのは当然。今後に起きかねない状況のためにもここは自身の保身の為にも茶を濁したい。立花自身なんかでは役不足だと。
しかし。記者は怯むことはない。普段から色んな取材をして来た肝っ玉の据わった強者の1人だからだ。
記者A)近代における名探偵と称されるカントクさんの有能な助手の仕事! っという見出しにするつもりです。名探偵×助手ものなんて
「すいませんが、やっぱり取材を受けたのは間違いでした。失礼します」
名探偵の冠のついた賽河だが王道とは裏腹に闇の中で起こる事件を解決をするのが主で、怪異が専門だ。助手となり数多くの現場に入り解決までを見届けた。闇の中で輝く頭脳を賽河は持つ。
ホテルの一室から小走りに立花も立ち去る。振り向く
階で止まっていたエレベーターの中に入り、脱いでいた上着を頭に突っ込み腕を入れ一階を押す。『ドアが閉まります』とゆっくりと扉も閉まった。
同時に《最も記憶に残った
◆◇
忘れもしない。あれは助手になって間もなくの――怪異なんかではない事件。
(今日もすごかったな)と怪異の事件解決後の余韻に浸っていた。
「どう? 怖かったかい?」
「! ぃ、いえ! ……いえ。はい、怖かった、ですね」
大丈夫でしたや驚きました。なんて曖昧な言葉より立花は本音を賽河に伝えた。心臓音も鼓動も鳴り止まない興奮状態である自覚はあるが、これがどういった感情なのかを立花は分からない。言葉にならない高揚感。ライブに行った後の息切れに動機に似た状況だが。これは不快感に近くまみれている。何のはつらつ感もない後残りも最低最悪の気持ち悪さだ。足もガクガクと身震いすらあり様だ。
「辞めるかい?」
「え」
「だって。君ならもう少しいい職場に就けるでしょう? オレなんかの助手なんかしてるよかさ、明るい世界で生きた方がいいでしょ」
にっこりと立花に引導染みた言葉を賽河も言い放つ。
元々、賽河の父親からの頼みで助手になった。賽河の父親が好きで引き受けた。
息子が辞めていいと引導を渡されたのだから、ここで引いたとしてもしこりなんかも残らないだろう。お互い、乗り気ではなかった関係。どちらかといえば息子の賽河の方が。父親の命で来た立花を追っ払う勇気もなかったが為に受け入れたのだ。深く絆を深めて絆される前に解消するなら美しい。終わり良ければ全て良い。
だが、父親になんと釈明をしたらいいのか。
なんと弁明をしたらいいのか。
「私、辞めませんよ」
「ふぅん。意固地さんめ」
「何なんですか! もう!」
ズドン! 少し離れた場所から大きな落下音が鳴り響いた。
「ぇ」
「何かどこからか。落ちた、みたいだねぇ?」
素っ頓狂な言葉で、どこか言葉も裏返ったまま賽河も口にする。
ここは街中。商店街の外れにある住宅街の近く。背の高いビルも多い。
怪異事件の解決後の為、朝方の4時。車量も、人影も少ない。
「行ってみようか」
「え」
「新鮮なうちならオレも何か出来るしね」
歩行補助のT字杖を突いて小走りに、音が聞こえたと思しき方向へと賽河も向かう。遠ざかる背中に立花も唖然である。
しかし、すぐに顔を横に振り「待ってくださいよ!」と駆け出した。
息を切らして賽河は辺りを見渡した。
「どこに落ちたかなんか分からないですよ」
「いいや。分かるよ」
自信に満ちた笑みを彼が浮かべる。
「早朝でよかったよ。朝日が影を照らしてくれるからね」
T字杖を地面に叩き突いた。
瞬間。
辺りが真っ暗闇に包まれた。
「ほら。来た」
真っ白な線が賽河の足元にゆっくりと来た。
「それは一体、何なんですか??」
「亡くなった人の魂の線だよ」
「……まだ死んだって決まった訳じゃっ」
「いいや。亡くなったんだよ」
線が大きく膨らみ立体的へと変わり、人間の顔のようなものが盛り上がる。
悲痛な叫びの形だ。
「酷く恨んでいるようだ」
「そこまでお分かりになるんですか?」
「ああ。恨みがなければ――こんな異様な姿になんかならないでしょう、普通に考えてごらんなさいよ」
きっぱりと言い捨てる賽河に立花も「生きているかもしれませんし、行きましょう!」と急かした。