第4話 業界あるあると業の闇

文字数 1,795文字

  記者A)毒殺事件が起こったとき、元店長である五十嵐さんは正直なところ「ヤバいことが起こったなぁ」程度だったのでしょうか? その後にスピード逮捕のときはどういった心境だったのでしょうか? 教えていただいてもよろしいでしょうか。

 後に毒殺事件が起こったパチンコ屋の元店長、現介護職の五十嵐成貞(イガラシナリサダ)が新聞紙と週刊誌の取材にこう応えている。

「事件の一報を聞いたときは、こういう後ろ指を差される業界ですから、またか、……とかなんで、うちなんかで起こしたのかって苛立ちました。自殺なんか有り金や訳アリを溶かしたなりで、そこそこ色んな事情や状況なんかであれ、日常茶飯事です。まぁ、もちろん一部の店舗ですけど。あとはそこそこと大きなチェーンのパチ屋なんかでも起こってます。ただ、自殺事件なんか新聞紙にも載るか載らないかでざらですよ。ぶっちゃけ」

 五十嵐は遠い目をしさらに続ける。

「でも。毒殺なんて事件は私も初めてでした。私立探偵って人にも初めて会いました。作家横溝の金田一やコナンドイルのホームズ。もっと人間臭いとか色々と想像した私立探偵とは別格。人間離れした人間嫌いの怪異専が何の因果が生きた人間の事件に巻き込まれたなんて、……それでもきちんと解決するなんて思いませんよね? 今、思い出しても戦慄しますよ」

 あの日。あの毒殺事件。
 店長だった五十嵐は賽河と根岸も一緒に、バックルームで録画映像を雁首揃えて視ていた。
「へぇ。パチ屋の裏側なんか初めて見た。正直、感動的だぁ……五十嵐店長、お聞きしたいのですがね」
「はい。何でしょうか?」
「噂の遠隔なんてのは本当にないんですか?」
 辺りを見渡して賽河は目を輝かせて言う。そんな場合ではないのだが賽河には関係がない。今の質問はなんのつもりなのか、と五十嵐も目を白黒させ「き、ぎょうひみつでしておおしえなんかは、……すいませんが」片言で言い返してしまう言葉は小さい。無駄な二人の掛け合いに割り込む。
「五十嵐店長。あのコーナー付近のカメラの録画映像を見せてもらってもいいっすか?」
 根岸が五十嵐に指示をする。と、そこへ。
「失礼するぜ」
 威風堂々とした長身の男がにこやかに参上した。
 その男の声に、賽河も小さくため息を吐くと、くるりと振り返り声の主を見据える。
「殺人課のお出ましか」
「よぉう。カントクぅ」
 捜査一課の岸辺伯雄(キシベノリオ)。彼は賽河の同期であった男だ。事件の情報を横流しを行い、解決の手伝いを依頼をし、金も支払ってくれるパトロンでもある。生活の大事な収入源だ。ご機嫌損なわれないように彼と会うときは若干と、賽河も髪を意識的に整える。毛つぐろいをする彼に岸辺も何かを察して含み笑いを押し殺した表情で尋ねた。その質問はなんら間違っていないだろうという自信が岸辺にはある。彼の性格は昔からの付き合いである為、空気のように分かってしまう。賽河は押しと金にめっぽうと弱い。今回は前者だろうな、と岸辺は結論づけていた。
「よく協力する気になったもんだ。誰かに脅されでもしたかw」
 図星に賽河もバツの悪そうな表情に変わる。
「スロで遊んでただけで可哀想にw また死んだのか」と胸ポケットから無造作に二つ折りされ輪ゴムで留められた札束を賽河の腰ポケットへとねじ込んで尻を撫ぜた。賽河の全身が身震いをして顔も青ざめて口をへの字にさせている。じろりと何かを言いたそうな賽河も岸辺を睨んだ。しかし、岸辺は賽河の睨みもなんとも気にせずに喜々と変態的な言葉を言い放つ。
「いいお(ケツ)ちゃんだ」
「ばかたれ」
「解決したら美味しい店に助手ちゃんも一緒に行こうじゃないの」
「分かった。それで手を打とう」
 170センチの賽河と190センチの岸辺のやり取りを別次元の何か見てはいけないもののように五十嵐はあえて見なかったことにした。

 記者B)警官と私立探偵の方たちと録画を見ていて、そこで紙コップを置いた人物を確認出来たと聞いていますが。どうにもその後が信じ難い状況で現実の話しとは思えないと誰もがSNSなんかで書いていましたが。その場にいて解決の場にもいらっしゃった五十嵐店長はどう思いましたか?

「『泥船が沈む様を確認したくて現場に犯人は残る。その心も置いて』カントクの言葉です。この言葉通りカントクは蜘蛛の糸を垂らして見つけたのをこの目で見て、あの業界に居て。改めて思い知らされましたよ、生きた人間は怖いと」
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