アナザーストーリー if

文字数 1,395文字

 今日、僕はかねてより思いを馳せていた()()と結婚式をすることができた。

 全てを思い出し、どうしてもどちらかを選ぶことのできなかった高校二年の冬。

 そんな僕を軽蔑することもなく、いつも以上に親父やおばさん、光に背中を押され、ない勇気を振り絞って告白をし、彼女が卒業した翌月から結婚を前提としたお付き合いというのを丸一年かけた。

 それからはちょくちょく彼女とそろそろ結婚してもいい頃合いだねという話をするようになり、ガクガク震えながらおばさんに彼女をくださいと言いに行った所、快く承諾してくれた。

 ……親父はまあ、血は繋がってなくても父親だったことには変わりないのだから一応は結婚の報告しに行った。

「何してるのあなた。もしかして緊張してるの?」
「ははは……そりゃあ緊張もするさ。だって()()()()()()()相手と結婚することができるんだから」
「ばか……これから結婚してあたしを妻に迎い入れるんだから旦那さんのあなたはどしっと構えてればいいのよ」
「そういうものなのかな?」
「そういうものよ」

 ふふっと僕に向けて微笑む。
 こういう笑顔も、怒った顔も含めて全部可愛いし惚れたし結婚しようと思ったんだ。

「ほら、呼んでるわ。行きましょう?」
「……ああ」

 花婿姿と花嫁姿に着替え終わった僕と嫁は、準備ができたとのことで係りの人が呼びにきてくれて一歩、また一歩と会場へ足を運んだ。

「へぇ〜。ずいぶん立派に見えるんだな」
「いらんこと言わんでいいっ!」
「あべしっ」
「ほら、さっさと行った! ……一応、父親っていう設定なんだから」

 そう。
 実際のところ、僕と千夏は親父と呼ぶ男の血は流れていなかった。
 姉と呼んでいた千紘さんも義理でもなんでもない血すら流れていない赤の他人だった。

 母さんと結婚した男は飛び降り自殺したとか夜逃げしたとかで母さんを捨て、その当時、まだ小さかった僕とまだ母さんのお腹の中にいた千夏のことを考え、母さんは小学校の頃からずっと親交のあるおばさんに相談し、母さんも含めて仲良くしてた父親、天宮良輔ととりあえず席を持って落ち着こうということになったらしい。

 そんなこともあって事実婚をしたんだということを高二の冬、親父の口から直接聞いた。

 血が繋がってないにしろ。
 僕と千夏にとってはこんなだらしなくても父親であることは間違いないし、千紘さんのことを今でも本当の姉のように慕ってる。

 そして、ようやくバージンロードが祭壇へと続く扉が開き、本当に結婚するのだと自覚する。

 真剣な眼差しで僕らを見る光に奏、ーー。
 それに涙ぐむ千紘さんや千夏が見える。

 ああ、二人にも心配かけた。
 でも、もう大丈夫。

 今は流石に恩返しできることも限られてくるけど、嫁と相談して親父や千紘さん、光に奏、ーーにもゆっくり少しずつ恩返しをしていこうということになった。

 まずは第一として僕らの結婚という恩返し。


「これからは僕が頑張ってーーを幸せに。絶対に幸せにして見せるよ」
「当たり前よ。幸せにしないって言ったらぶっ飛ばしてやるんだからっ」

 僕らなりの言葉を嫁と交わし、結婚指輪を薬指にはめた後、みんなの視線がこちらに向いてる中、キスをした。
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