第2話

文字数 2,785文字


      その四十一  (2)

 山城さんが長年務めていた「ゼツリンフィーバーマン」は古株幕臣の息子が引き継ぐことになっていたのだけれど、その息子はこの任務のストレスが原因で早々に離脱していたので、内府に相談されたわたくしG=Mは、思いつきでりん子さんを抜擢することにした。
「断捨りん子改め〝絶りん子〟にしちゃいましょう」
「さすがですな、G=M」
 りん子さんは例の「ワオワオ♪」を駆使しながら日夜K市民宅に積極的にあがり込んでいて、もちろん山城さん(ゼツリンフィーバーマン)とおなじように栄養不足等の難癖を付けたのちにマコンドーレ製のゼツリン青汁を最後にお薦めしているのだが、
「いやぁ、あの息子が倒れたときは、またおれがやるんじゃないかと思って心配でしたよ。ありがとうございます、船倉さん」
 とよろこんでいた山城さんはだがしかしいま現在美智枝さんに命じられてまたぞろ例の〝消極的奉仕〟の業務をおこなっていて、ちなみにこの任務はわたくし船倉たまきも美智枝さんより当初おっつけられていたのだけれど、ぼくはピーチタルトでの副業関連でけっこう忙しかったし、山城さんにも先の件で結果的に貸しをつくっているような趣になっていたので、
「川上さんに助っ人に来るよう、いっといてくださいよぉ」
 とたまに山城さんに頼まれることはあっても、
「すいませんね、山城さん。ここんとこ、エロエロレギンスのどこかの奥さんと公園でお話する暇もないくらい予定が重なってまして――」
 こちらの業務には実質加わっていないのである。
 ピーチタルトでの副業というのはもちろん例のレンタルビデオ店のことで、まあレンタルといっても貸出のほうは特別な顧客にしかやらなくて、ほとんどは個室ビデオ店として運営されているのだけれど、皇帝夫人の希望により移転することになった〈西門がん研究センター〉はなにしろ病棟が四百だか五百だかある医療施設だったので、その跡地をビデオ屋として引き継ぐことになったものの、まだまだ空いているスペースがおもいのほかあって、だからぼくは藤吉郎さんにもアドバイスしてもらって、VIP会員様用の宿泊ルームも準備しているのである。
〈西門がん研究センター〉は宮廷の西門よりの位置に構えていた関係で、そう名付けられたらしいので、ビデオ店も「がん」と「研究」の間に〝見〟を入れて〈西門がん見研究センター〉と命名したのだが、それでもまだ店をオープンさせて間もないからか、以前のがん研究センターと勘違いした人たちがこちらにおとずれることがときどきあって、先日もいわゆる〝ガン消し〟を愛好している謎の団体が他国よりこちらにはるばるお越しになられたのだった。
 他国よりお越しいただいた方々にダルトンにもらった「きんぺいばい」という高級ふりかけでつくったおにぎりを出すと、方々は、
「ティラミス帝国にはこんなうまいふりかけはないですよ」
 とよろこんでそれを頬張っていたが、ダルトンのいうようにこのふりかけは調味料の詰め合わせや缶詰のセットのように重くて持ち帰るのがたいへんということもないので手土産として上客にもたせるには丁度良くて、だからピーチタルトとガトーショコラは国交を断絶していて、ガトーショコラから直接「きんぺいばい」を送ってもらうことはできないのだけれど、それでもダルトンに頼んでいわゆる闇ルートで毎月この高級ふりかけの詰め合わせを取り寄せているのである。
 大好物のカツカレーをも半分以上残すほど体調が悪化していたドンにこの「きんぺいばい」でお茶漬けをつくって、
「ドン、これならサラサラ入りますよ」
 と出してみると、
「うん、これはうまい。茶漬けがこんなにおいしいとは」
 とドンはそのお茶漬けをおかわりするほど食べて、やがて体調もみるみる良くなっていったのだが、それでもドンは、
「お茶漬けばかりじゃだめだ。これから暑くなっていくのだから、カツカレーもがっつり食べないと」
 というくらい体調がもどってきてもドンの地位を正式に降りて内府にドンとしての権限をすべて譲ると公言してくれて、だからマコンドーレも内府が懸念していたような空中分解をすることもなく、今後も内府を中心に精力的に活動していくことと思われる。
 精力的といえば、中西さんはほんとうにぼくのために精力的に動いてくれていて、ツアーガイドをやっていた関係でさまざまな国につてのある中西さんは、ふ菓子国という小国にいわゆる〝お焚き上げ〟を専門におこなっているお寺があることを先日みつけてきてくれたのだけれど、
「あの国は時空管理協会に入ってないから、わりとかんたんに入国できるし、パンティーのお焚き上げも取り扱っているみたいなので、ここで処分するのがいいんじゃないかしら」
 と中西さんにうながされたぼくは、ダルトンに頼まれている用事を済ませたのちにこのふ菓子国のお寺で供養するよう予約をすでに取っていて、ちなみにダルトンの用事というのは、緑川達也全集に記されていた〈お食事処小野〉という同敷地内にコインランドリーと仮眠室が設置されてある食べ物屋に案内するというものなのだが、
「そんな描写あったかな……」
「あるよ、九巻のショートショートに」
「ああ、おれ、ショートショートに興味ないから、それで記憶にないんだな……」
 おそらくこの食堂は名前こそ変えているけれども○○村とか長距離運転手たちが上客という描写からかんがみるに十中八九ぼくが一回目の雪子ちゃん調査のさいについでに立ち寄ったあの〈カロリー軒〉だと思われるので、ぼくは〈たうえ温泉旅館〉でダルトンと落ち合ったのちに、この〈カロリー軒〉まで案内してあげる予定なのだ。
「いい機会だから赤木さんがほめていた冷凍生餃子も菊池さんのために買ってこよう」
「中西さんにも買ってきてあげたほうがいいんじゃないですか」
「たしかにそうですね、ミニスター」
「それから、そのすみれクンのお母さまという人にも送ったほうがいいですよ」
「そうですね。それと今後あれをまたあれできるかもしれないので、料亭の女将にも送っておいたほうがいいかもしれないですね」
「中西さんには冷凍生餃子だけじゃなくて、いろいろ買ってあげたほうがいいですよ。これだけ奔走してくれているのですから」
「たしかにそうですね。連日心肺機能を鍛えるあれでチューチューさせてもらっていますしね」
 ミニスターがおっしゃるにはジャクソン皇帝の骨董収集はさらにはげしくなっていて、先日も「九十九髪胡瓜」とかいう茶器をいち早く情報をつかんで手に入れたらしいが、しかしまたしてもこの茶器はガトーショコラの皇帝も狙っていたらしく、
「九十九髪胡瓜出せよ、ジャクソン」
「嫌だね」
「出せよ」
「出さねぇよ。アッカンベー」
 ともの別れした結果、再来月からは鶏肉の輸入も止められてしまうようなのである。
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