第38話:ブラックアウトへの対策と円高

文字数 1,734文字

 その苦い経験を経て政府内には、計画停電に対する拒否感が強く残った。2018年9月の北海道地震では、道内最大の火力発電所が損傷して停止し道内全域が停電する「ブラックアウト」が起きた。

 解消された後も、電力の供給が需要を下回る恐れがあったため、経済産業省と北海道電力で計画停電を検討。道内を60区域に分割し2時間毎に電気を止める案。しかし、首相官邸が難色を示し立ち消えになった。

 当時、北電や官邸と調整にあたった関係者は「官邸から、絶対に計画停電をやらせるなという強い意思が伝わってきた」と明かす。「準備ゼロ」だった反省を踏まえ東電では現在、万が一に備える体制が整えられている。

 福島沖を震源とする今月13日の地震でも複数の火力発電所が停止して供給力が不足したが、一部地域への送電を遮断して調整し、管内の停電は、約3時間で復旧させた。

 計画停電の手続きも明確化し全社的な訓練も定期的に実施した。当時は、大規模な変電所単位でのグループ分けしかできなかったが、その後、主要な電柱単位で細かく停電の範囲を操作できるようにした。

 医療機関や国の重要施設を除外することもできる。市民への告知が不十分だったことも混乱を増幅させた。このため、計画停電の際には、住所を入力すればグループ分けや停電時間を確認できるHPを用意した。

 現在、計画停電の責任者を務めるN・給電計画グループマネジャーは「10年前は多くの利用者に迷惑をかけた。震災で、最悪の事態に備えることを学んだ」と話す。

 医療機関では手術予定の変更などのほかに透析治療でも負担を強いられた。人工透析を実施していた西新井病院付属「成和腎クリニック」
3月14日夕、臨床工学技士・Tさんは2日後に迫った計画停電に向けた緊急会議で口を開いた。

「自家発電で透析するのは無理だ。停電がない早朝や深夜帯を使ってしのぐしかない」 クリニックは日曜日を除き、午前9時半から夕方や夜まで人工透析を実施する。近くの系列クリニックも合わせて患者は計約220人。患者は1回4時間、週に3回の人工透析が必要で、約60床の使用スケジュールは隙間なく組まれていた。

 停電しても自家発電で対応できるが、人工透析は様々な機器で大量の電気を使うし、電源切り替え時に故障するリスクもあった。梶川さんらは早朝や深夜帯の透析実施を決断した。

 翌日、スケジュール変更の検討に入った。計画停電は最大で1日2回、計7時間20分で、約百人の透析時間と重なった。患者220人のうち約150人は病院の送迎車で自宅とクリニックを往復し約20人は車いすの患者。

 6台しかない車で効率的に送迎できなければ、容体悪化を生じかねない。梶川さんらは足立区の地図を拡大コピーし患者宅の場所にシールを貼った。
「車いすの4人を大型車で送迎しよう」「道が細くて入れない」「このルートは一方通行で実現できない」

 難解なパズルを解くようにプランを練った。スケジュールができたのは午後6時頃。翌午前4時スタートの患者もおり、急いで全員に電話連絡した。「明日の朝4時ですか!」「無理です。変えてください」

 不満を言う患者には、理由を説明し納得してもらった。クリニックは2015年、西新井病院内に機能を移転。透析は1回で百リットル以上の水を使うため、貯水槽を新設して3百トンを確保、断水にも備える。

 A院長は、「透析時間変更の必要性など初めて認識することが多かった。記憶を風化させず、訓練を徹底して災害に備えたい」と話した。首都圏では、スーパーの休業や工場の操業停止なども相次いだ。

 そして市民生活に大きな影響が出た。百貨店やスーパーでは、復旧時にエレベーターや空調の点検に時間がかかり、休業や営業時間短縮を実施しはじめた。NECやホンダなどの大手メーカーも、従業員の出勤のめどが立たない。

 その他、工場の再稼働に時間がかかることなどから一部の操業を中止。食品や日用品の製造も影響を受け、店頭で品不足が発生した。また、各地で信号機が消え、警察官が手信号で誘導した。

 この東日本大震災や欧米経済の先行き不安などを背景に、円相場が、歴史的な高水準で推移し、輸出企業の海外移転による国内産業の空洞化に懸念が、強まった。
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