第5話 タツ・リュウ篇 王子リュウとオトシゴのタツ
文字数 1,028文字
ぼくは天翔ける龍の王の子ども、リュウです。ぼくは、密かにずーっと探しています。もうひとりのぼくを。
ぼくとタツは同時に生まれて、しばらくの間は一緒に育っていました。だけど、龍王の跡継ぎはひとりきりと決まっています。跡継ぎに選ばれたのは、ぼくでした。そして、ぼくが知らないうちに、タツは天界から追放されて、海の底深く落とされました。「タツノオトシゴ」と呼ばれているそうです。
ぼくは、跡継ぎに選ばれたかったわけじゃないし、タツに勝ちたいわけでもなかった。ただ、いつまでもふたりいっしょにいたかったのです。なのに、タツを守ることができませんでした。ぼくは、タツが、自分はリュウに見捨てられたんじゃないか、なぜ自分は選ばれなかったんだと、暗い海の底で恨み続けているんじゃないかと考えると、つらいのです。
タツが住んでいるだろう海は、深くて暗くておまけに広くて、天界から目を凝らしてみても何も見えません。そして、タツノオトシゴはとても小さいので、見つけることは困難です。
でも、ぼくは一縷の望みを抱いて、今日も大海原を見下ろしています。
★ ★ ★ ★ ★
ぼくは天界から落とされた龍の子どもタツです。タツノオトシゴとも呼ばれています。ぼくは、密かにずーっと見上げています。もうひとりのぼくを。
もうひとりのぼく、リュウはぼくのふたごのきょうだいで、天翔ける龍王の位を継ぐ者です。彼はぼくの誇りです。海の底から見上げる天空は限りが無くて、ときに明るくときに荒々しく、そこを縦横無尽に駆け抜けるリュウの姿は惚れ惚れするほど凜々しいのです。
でも、ぼくはふと思うことがあります。リュウは寂しくないのだろうか。唯一無二の存在として誰からも仰ぎ見られているけれど、誰かと寄り添い合うなんてことないんじゃないか。ぼくも、リュウに寄り添うことはできません。かたちは龍に似ているけれど、取るに足らないくらい小さくて、ただ海の底でゆらゆら漂っています。でもね、海の中はいのちと不思議に満ちていて、食物連鎖の輪の中で、みんなてんでに平等に生きているのです。
もしぼくが龍の王子だったらと何度想像してみても、ぼくにはその姿が思い浮びません。
龍王の後を継ぐものは、どうしたってリュウなのです。
ぼくはいつでもリュウを見つめているけれど、リュウはぼくを憶えていてくれているかどうか、それはわかりません。
でも、ぼくは今日も誇りと憧れを抱いて、天空を見上げています。
ぼくとタツは同時に生まれて、しばらくの間は一緒に育っていました。だけど、龍王の跡継ぎはひとりきりと決まっています。跡継ぎに選ばれたのは、ぼくでした。そして、ぼくが知らないうちに、タツは天界から追放されて、海の底深く落とされました。「タツノオトシゴ」と呼ばれているそうです。
ぼくは、跡継ぎに選ばれたかったわけじゃないし、タツに勝ちたいわけでもなかった。ただ、いつまでもふたりいっしょにいたかったのです。なのに、タツを守ることができませんでした。ぼくは、タツが、自分はリュウに見捨てられたんじゃないか、なぜ自分は選ばれなかったんだと、暗い海の底で恨み続けているんじゃないかと考えると、つらいのです。
タツが住んでいるだろう海は、深くて暗くておまけに広くて、天界から目を凝らしてみても何も見えません。そして、タツノオトシゴはとても小さいので、見つけることは困難です。
でも、ぼくは一縷の望みを抱いて、今日も大海原を見下ろしています。
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ぼくは天界から落とされた龍の子どもタツです。タツノオトシゴとも呼ばれています。ぼくは、密かにずーっと見上げています。もうひとりのぼくを。
もうひとりのぼく、リュウはぼくのふたごのきょうだいで、天翔ける龍王の位を継ぐ者です。彼はぼくの誇りです。海の底から見上げる天空は限りが無くて、ときに明るくときに荒々しく、そこを縦横無尽に駆け抜けるリュウの姿は惚れ惚れするほど凜々しいのです。
でも、ぼくはふと思うことがあります。リュウは寂しくないのだろうか。唯一無二の存在として誰からも仰ぎ見られているけれど、誰かと寄り添い合うなんてことないんじゃないか。ぼくも、リュウに寄り添うことはできません。かたちは龍に似ているけれど、取るに足らないくらい小さくて、ただ海の底でゆらゆら漂っています。でもね、海の中はいのちと不思議に満ちていて、食物連鎖の輪の中で、みんなてんでに平等に生きているのです。
もしぼくが龍の王子だったらと何度想像してみても、ぼくにはその姿が思い浮びません。
龍王の後を継ぐものは、どうしたってリュウなのです。
ぼくはいつでもリュウを見つめているけれど、リュウはぼくを憶えていてくれているかどうか、それはわかりません。
でも、ぼくは今日も誇りと憧れを抱いて、天空を見上げています。