第10話 トリ篇  産業動物ニワトリによる意見陳述

文字数 1,012文字

 みなさん、この地球上に暮らす動物には、「野生動物」と「飼育動物」がいます。たまに、野生なのに間違ってにんげんに飼われてしまったり、飼われてたのに間違ってノラ化してしまったり、なんてのもいますが、まあ、つまるところ、にんげんの都合です。
 飼育動物には、これまた「愛玩動物」と「産業動物」とがあります。「愛玩動物」の代表はイヌ、ネコ、小鳥、金魚、「産業動物」の代表は、ウシ、ウマ、ブタ、そして、ニワトリでしょう。「産業動物」って呼び方はあまりに無味乾燥だと思うのか、世の中では「家畜」と呼ぶのが一般的です。家で飼われている生きもの。だけど、家族みたいに可愛がったり躾けたりする対象ではなく、飼育によって経済効果を得るためのもの。だから通常名前はつけません。情が湧くとやっかいだから。 
 さて、ニワトリです。名前のごとく、以前は家々の庭先で放し飼いにされていて、ケケケケクー、と鳴きながら土の中のミミズなんぞを掘り返してついばんでいました。毎朝律儀にタマゴを産んで、それを、そこんちのおかみさんか子どもさんがザルに拾い上げて、「おお、今日もいいタマゴだ!」なんて目を細める。喜んでくれてるものばかりと思っていたら、ある日急に、ダンナさんがねじりハチマキ包丁片手に現われて、むんずと首根っこつかまれて、一巻の終わり。晩ご飯のごちそうにされるんです。
 それでも、その時代はまだよかった。お天道様の下、大地の上で生きた、だんなさん、おかみさん、じょうちゃん、ぼっちゃんのお役に立てたという実感があった。ところが、昨今はひどいものです。養鶏場なんてところの狭いケージに閉じ込められて、太陽にも土にも風にも触れることなく、変な横文字まじりの餌やら薬やらを与えられて、毎日毎日ひたすらタマゴを産んで、産めなくなったらお役御免、鶏ガラスープにされちまうんです。そうじゃなければ、たっぷりでっぷり太らされて、ブロイラー?トリ肉は安くて料理しやすいなんて言いますが、いびつな一生を送った生きもののお肉を食べて、本当に健康的でしょうか。
 にんげんのみなさん、トリ肉はお好きですか?お好きなら、どうぞ楽しんで味わって食べてください。だけど、にんげんじゃないものの命に、どうか鈍感にならないで。それは、自分以外のにんげんの命、ひいては自分自身の命への鈍感さ、世界や地球に対する鈍感さにつながっていくんじゃないかと思うのです。命の大切さ、とは何ですか?
 
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