第3話    トラ篇 ボーダー子トラの職業選択

文字数 1,222文字

 トラは黄土色と黒の縦縞模様。ごくまれに白と黒なんてのもいるけれど、みんなそろってストライプと決まっている。大自然の中で、まわりの動物から身を隠す保護模様になるからという理由らしい。逆に目立ちそうに思えるのだけれどね。
 ところが、何らかの遺伝子はたまた自然界の気まぐれか、ある日ある密林の片隅に、横縞ボーダー柄のトラの子どもが誕生した。生まれてきた我が子の姿に母トラはびっくりぎょうてん!生まれたばかりのトラの子を、丈の高い草むらの奥に隠した。トラはライオンとはちがって、群れではなく単独または母子で暮らす。だから、母トラは、オーラと名付けたボーダー子トラを、誰にも見つからないように、こっそり育てた。
 オーラは、ボーダー柄だっただけじゃない。そのボーダーたるや、普通のトラのストライプの3倍くらいの幅で、おまけに明るいレモンイエローと漆黒のコントラスト、つまりとっても目立ってしまうのだ。これでは身を潜めての狩などできないし、他のトラや密猟者に襲われてしまうかもしれない。だから、母トラはオーラに狩などさせず、超過保護の箱入り息子に育てた。奇抜な見た目ではあっても、母トラにとってオーラは大事な愛しい我が子だったのだ。おかげでオーラはのんびりおっとり、他の動物たちを見ても、「追いかけよう」とも「食べよう」とも思わない、肉食動物としては半端なアイデンティティを持つに至った。
 ある日、狩に出かけた母トラは、いつまでたっても帰ってこなかった。オーラは待った、いつまでも。母トラから「動くな」と教えられていたから。9日目の朝、お腹がすいて、オーラはもう倒れそうだった。すると、すぐそばですっとんきょうな声がした。
「あれ~、きみトラなの?変わった模様だね。でも、超クールだよ!」
そこには、オーラに似た横縞模様が立っていた。青と白のあざやかなボーダー柄のシャツ姿の少年だった。オーラは驚いたけれど、もう動く気にもなれなかった。
「きみ、そばに寄ってもぜんぜん殺気を感じないな。ぼくを食べないんだね。」
オーラの目から涙があふれた。
「こんな身体だから、ぼくは狩ができない、トラとして一人前になれないんだ。かあさんに守ってもらっていたのに、かあさん、もう戻ってこないんだ。」
「なら、他の生き方をさがせばいいじゃないか。かあさんがいなくても、きみができること、きみに向いてることをさがせばいいさ。」
少年は、あっけらかんとそう言った。オーラはさらに驚いた。
「ぼくにできること?そんなのある?」
「きみの身体のボーダー、船乗りのシャツと同じだよ。ぼくも船乗りさ。セーラっていうの。ぼく仲間をさがしてたんだ。ひろーい海にふたりで乗り出してみない?」
 こうして、オーラは船乗りになった。青白ボーダーのシャツに赤いバンダナを巻いたセーラと、黄黒ボーダーのシャツ(実は地毛)にちょっとおかしなタイガーマスク(実は地顔)をかぶったオーラ、ふたりは今日も世界中の海を旅している。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み