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文字数 731文字

「そんな不審者みたいな去り方しないで、堂々とすればいいのに。防人部隊のリアル那須与一だったんでしょ。友達がニュースで見たって言ってたよ、有名人だったんでしょ」


「そんなニュース、見てる人いたんだ☆」


「見てるに決まってる。アタシたちの為に戦ってる人たちのことなんだから」


 ニュースを見ていたのはバンビーナではなくアベイユである。


「そっかぁ・・・・・・☆」


 昨夜のように、歯を見せて笑って欲しい。
 バンビーナは食い入るようにフルフェイスを見つめた。 


「俺、こんなに目がダメになっちゃって、もう自分の務めなんか果たせないのに。昔の自分にしがみついて、いつまでも正義のヒーローごっこがやめられない」

 フルフェイスの奥が泣いている気がして、バンビーナは思わず頬に触れた。固くてツルリとした感触しか伝わってこない。


「小説でも何でも、何か書いたり表現することができたら、こんなに(こじ)らせることもなかったと思うんだよね」


「アタシも、自分の気持ちを形にできたらいいのに、って思うことあるよ」


 軍隊のサイレンに混じって、パトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。フルフェイスに触れるバンビーナの手を、ベリの手が優しく離した。


「カメムシの連載中でストップしてる長編は、しばらく更新されないだろうね☆」


「もう百五十万文字1250ページに及んでいるのにね。シリーズにして分ければいいのに」


「だよね。新作良かったよ☆」


「アタシ追試でまだ読んでない」


「追試ぃ? ダメだよそんなの。勉強して」


「カメムシにファンレター送ろっかな。いつでもいいから、長編も完結させてね、って」


「俺も送ろうかなぁ☆」


 ベリは琥珀色の液体まみれの原付を起こした。座席の下から、リュックを取り出す。


「良かったら、これアゲル」
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