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文字数 969文字

 放課後、追試の出来は散々だった。頭の底の底が白くなった。

 
 冗談のつもりだった補修がマジのマジで現実に迫り、三人娘は沈鬱(ちんうつ)な面持ちで教室を後にした。


「あかん。ぜんざいでも食べにいけへん? 」


 バトーのぜんざいは粒あんのお汁粉(しるこ)のことだ。


「行こう! 僕らには糖分がいる」


 アベイユの力強い号令と共に、三人娘は学校から徒歩10分、一之江駅前のコメダ珈琲&おかげ庵へ駆けこんだ。


 だが、大人しくぜんざいは口に入らなかった。駅前は軍のサイレンが鳴り響き、捕食者の接近を辺り一帯に知らせていた。


 三人娘の目的地に、琥珀色の粘液に覆われた謎の生物がいた。琥珀色の粘液の中にはここへ来るまでに捕らえた生物たちが、苦悶の表情で閉じ込められていた。
 哺乳類の表情が生々しい。


「えええらいこっちゃ。ひ、避難や」


「待って。バトー、バンビーナ、あのフルフェイス」


 アベイユの視線の先に、フルフェイスの原付ライダーがいた。
 原付バイクに乗った状態でクロスボウを構え、ひょうと放った。


「ベリ」


 バンビーナから黄色い歓声が上がる。だが、狙いは外れた。


防人部隊(さきもりぶたい)のリアル那須与一(なすのよいち)なんでしょ、なんで(はず)れるの」


「怪我のせいだよ。顔に重傷を負って、視力が急激に悪くなって除隊を余儀なくされたんだ」
 

 アベイユの説明を聞いて、バンビーナは昨夜のことを思い出した。


 地面に散らばったおびただしい数のボルト。


 薄暗がりとメガネで目立たなかったが、顔の大きな傷跡。


「どうしよう、軍隊が来る前にやられちゃたら」


 ベリはクロスボウを連射しながら速度を上げた原付バイクから飛び降り、琥珀色の粘液へ突っ込ませた。


 原付バイクはヒットしたが、ボルトはやはり大多数を外している。原付バイクの直撃で琥珀色の粘液が(ひる)み、捕らえらえた生物たちが吐き出された。


「バトー、あの人たちを運ぼう」


「よっしゃ、アベイユは待っとってな」


「二人とも、気を付けて。僕は菌根菌(きんこんきん)ネットワークで救急車を呼んどく」


 アベイユを安全な場所へ隠し、バンビーナとバトーは吐き出された生き物たちの救出に向かった。


 人間、小鳥、人型キノコ、猫、カナブン。五体とも息をしている。無事だ。
 

 琥珀色の液体は原付の直撃を受け、どこかへ退避しようとしていた。そこへボルトの追い打ちが、ひょう、と空を切る。

「な、バンビーナ。この琥珀色の汁、甘いで」
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