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文字数 886文字

 男の鈍い悲鳴と共に、彼女は地面に転がり落ちた。


 ひょう、 ひょう


 暗がりの中、空を切り裂く音が連続して耳に届く。


 ひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひょうひ


 なんの音だか知らないが、凄まじい連射音。


「火事だ! 公園の木が燃えてる! 」


 連射音に紛れて、大きな声が近くから上がった。


『火事』の大声に釣られて、人の気配が集まり出す。


 警察と消防署へ通報する声もところどころから聞こえてくる。
 

 目出し帽の男たちは慣れているのか、あっさりとバンビーナを諦めて退却した。


「大丈夫? 」


『火事だ』と同じ声だ。


 暗がりの中から出て来たのは、フルフェイスにクロスボウを構えた人物。

 バンビーナは再びの恐怖で、ガムテープで塞がった口から籠った悲鳴を上げた。


「あ、ごめーん☆ 怖かったぁ? 」


 フルフェイスは軽いノリで謝ると、素顔を晒した。
 

 メガネに小太り、ヘルメットでヘタった無造作ヘア。普段から朝起きたままの髪形なのが容易に想像できるほどの、ヲタの見本のようなヲタクっぽい風貌。


「痛いけど、ちょっと我慢して☆ 」


 メガネに口からガムテープを剥がしてもらうと、唇から血が滲んだ。


「ごめん、俺ハンカチとかティッシュ持ってなくて。ま、俺みたいなやつから差し出されても使いたくないだろうけど☆ 」


 メガネと薄暗がりで隠れて見えにくいが、顔に火傷のような、大きな傷跡が見えた。


 ちなみに、バンビーナもハンカチとティッシュを持っていない。
 そんなものはいらぬ、と思って生きているから。


 唇から血が垂れ流し状態なので、全部すする。


「助けてくれてありがとうございました」


「助けてないよ。エイム(狙う・シューティングゲームにおいて照準を合わせるの意)の練習しただけだから」


 この東京でエイムの練習をするとはなにごとか。
 狩猟で生計を立てているのだろうか。このメガネは。
 それを差し引いても危険人物である。


「もう行く☆ 警察が来る」


 一応、メガネは法を犯している自覚は持っているらしい。


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