第5話

文字数 1,763文字

 腹の底から響く様な銃声が響いた。
 化け物に鉛玉をぶちこんだその女性は、警察官のような制服を着ていた。しかし、日本の警察に支給される拳銃とは程遠いオートマチックのハンドガンを彼女は握っていた。僕はこの銃を知っていた。確かこれは某イタリア有名メーカーによるもので、ロングセラーである。アメリカ軍が正式採用していたと記憶している。日本国内では警察組織がこの銃を使用しているのは聞いたことがない。警察の特殊作戦部隊であっても日本人向けな比較的コンパクトな物を採用していたはずだ。この女性は見たところ20歳くらいの見た目だし、その制服も明らかに一般的な「お巡りさん」な風貌なので特殊部隊のようにはまず見えないのは明白だ。この女性が本当に警察なのかがとても怪しく思える。助けて貰ったが、注意しておくに越したことはないだろう。
 「大丈夫!?君たち無事だよね!?」
 女性があたふたした様子を見せながら、必死な顔で駆け寄ってきた。
 「だ、大丈夫です。助けてくれてありがとうございます。」
 僕は礼を言った。
 「良かった!私、鈴木朱音って言います!この通り一応お巡りさんやってます!君の名前は?」
 
 
 
 とりあえず僕とジェーンは自己紹介をした。
 「へぇ!記憶喪失!名前も解らないのは困ったねぇ。」
 やたらと元気はつらつな声でこの婦警、朱音は言った。
 「っていうか朱音さんはここがどこかわかるんですか?私たちに捜索願が出てて捜しに来たんですか?。そもそもあのどろどろした化け物は一体...。」
 ジェーンは僕も持っていた疑問をマシンガンのごとく朱音に投げつけた。すると朱音はやはりお日様のようなかんかんとした声で
 「うーん。ちょっとめんどくさい状況なんだよねぇ。ひとまず安全な場所に行ってから説明するよ。」
 と答えた。安全な場所?あの化け物がまだこの倉庫にはうようよいるのだろうか。とりあえずなにかと知っていそうな朱音について行く他道はなさそうにも思えるがしかし...
 「一応、警察手帳見せてもらっていいですか。」
 僕は朱音にそう言った。ジェーンもどうやら似たような疑問を抱いていたようにも見え、朱音がどう動くかをじっくりと観察している様にも見えた。
 朱音は少し困ったような顔をしていた。どこかばつの悪そうな表情で、うーんと唸っている。
 「警察手帳は...一応あるけど...これでいいかな?」
 なぜか自信なさげに朱音は警察手帳を取り出し、僕たちに見せた。
 それには朱音の写真と名前、そしてA県警の文字があった。一応どこかで見た本物の警察手帳と変わらぬ意匠の物であるため、信用は出来そうである。だがなぜA県なのだろう。僕が通っているのは都内の高校であり、最後の記憶もそこで終わっていた。確かにA県は比較的近いが、少し違和感を覚える。そもそも警察手帳の偽造などやろうと思えばできるはずで大した信用にはならぬかもしれない。
しかし疑ったらきりがないのも事実で、ひとまず彼女を信じてみることにしてみよう。
 「ありがとうございます。疑ってすみませんでした。」
 「ふぅ。よかった!確かに君達にとっては怪しんでも仕方ないかもね...」
 心底安心した様子で朱音は胸をなでおろしていた。そして朱音はタッチ型の携帯端末のような物を取り出して、ポチポチと操作し、やがて耳にそれを当てた。
 「坂本さん、生存者を発見しました。今から連れて帰ります。」
 どうやら通信機器で誰かと話している様だった。最近の警察はハイテクなデバイスを使うのだなと僕は感心していた。
 


 朱音に連れられて僕たちは事務室を出て、エレベーターに乗った。エレベーターのボタンは10階まであり、ここが相当デカイ倉庫であることを僕は知った。そして僕たちが目覚めたあの階は7階だったようである。
 朱音は3階のボタンを押し、エレベーターは下り始めた。
 やがて目的の階に辿り着いた。そのフロアも先ほどの階と同じように仕分けの作業場らしき場所への入り口と少し広めな事務室、そしてシャッターで閉ざされている「作業員休憩室」と札のある所があった。
 朱音はそのシャッターの前に立った。
 「帰りました!」
 馬鹿でかい声で朱音は叫んだ。そしてしばらくするとシャッターは少しずつ上がっていった。
 朱音に続き、僕たちは中に入っていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

黒井啓司

身長182

18歳

 主人公。受験を控えている高3。やや考えすぎる性格。論理的思考が得意。老け顔。もともと、ハードなぶつかり合いのあるとある運動部に所属していたのもあり筋肉量と体力は秀でる。好物は肉料理。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み