第6話

文字数 3,220文字

 シャッターの先には高校の教室3つ分くらいの広い休憩室があった。机がところどころに並び、椅子もある。複数人の男女がところどころに散らばっていた。
 「やぁ!よく来たね。」
 中に入ると、リーダーらしき男が僕たちの近くに寄ってきた。なぜかリーダーなんだろうという確信があった。カリスマというか自信が滲み出ているからだ。彼は身長182センチある僕よりさらに高く、190近くはありそうだ。黒いロングコートがよく似合っている。中性的な面構えで誰が見ても美人と言うだろう。顔つきは「温和」が滲み出ている位優しそうな印象を受ける。そしてやや長めな髪はストレートに癖なく伸びていて、艶がある。
 「ほらみんな〜。新人さんだよ!」
 彼は他のメンバーらしき数人に呼びかけた。
 「まずようこそ!そして残念なお知らせを先に言わなくてはいけないよ。」
 彼は僕らに言った。
「ここは、現実世界ではない。」


 「現実世界ではないって...どういうことなんですか!」
 何を言っているんだこいつは。やっぱり変な宗教集団に僕らは拉致されたのか?
 「窓の外を見てみて。」
 彼は言った。休憩室の外を見る。真っ暗だ。
 「こちらのほうが見やすいかもね。」
 僕達は彼についていき、休憩室最奥の窓から外を見る。
やっぱり真っ暗だ。しかし下を見ると道路が見える。街頭があるため少し見やすい。そして...

 向かい側にもこの建物と同規模と見られる倉庫が建っている。真横にも建っている。いや、道路の両サイドに同じ外観の倉庫が永遠に続いている!それはもう気持ち悪いくらいに。見渡す限り倉庫、倉庫、倉庫。
 「全くおんなじ会社の倉庫であれ、こんなにたくさんあるのはおかしいと思わないかなぁ?」
 リーダーっぽい彼は言った。確かに異様だ。通販の倉庫にしても多すぎる。
 「では、上を見上げてみて欲しい。」
 確かに夜空までは見上げていなかった。盲点だったそれを、確かめようと。見上げた空は。空は?
 「嘘でしょっ!?」
 ジェーンが悲鳴のように叫んだ。僕も叫びたかった。そこに空はなかったのだ。その代わり、道路が、倉庫が。重力に明らかに反発して遥か上にて『そこにある』。空に倉庫が浮かんでいるのではない。下に広がる風景を逆さまにしたように道路という大地が上の世界に広がっていて、倉庫がそこに建っている。例えるなら2つの惑星が接近して存在していて、それぞれが固有の重力で引き合っているようであった。それにしても倉庫の屋上がこちらに向かって伸びているのはあまりにも異様な風景だった。なにより夜と思い込んでいた外は、そもそも太陽が存在しないからという奇妙な理由からだったことに驚愕する。
 「なんであれ上に建ってるの?!なんで倉庫が落ちてこないの!?」
 「お嬢さん。びっくりするのも無理もないね。こっちの建物と道路が真下に重力で引き付けられてるように、あちらも重力があるんだ。多分真ん中あたりでお互いの重力が『区切られてる』んだとも思っている。」
 「ここは、地球じゃないのですか?」
 「良い質問だね。まぁこの通り見る限りここには空がない。上には重力が反転した倉庫と道路があるだけさ。よって太陽も月も見えない。少なくとも地球じゃないかもねぇ。」
 けらけら笑いながらリーダーらしき男は答えていった。
 「ま、キミらもあのヘドロは見たよね?」
 「はい。見ました。というか襲われました。」
 「あんなのいる時点で非日常なのは薄々わかってたんじゃないかな?」
 その通りだった。あの気象の悪いドロドロなヒトのようなナニカ。地球上で、現実世界であんなもんいてはいけないのは明白だ。
 「じゃあ自己紹介だね。僕らはこの『異界』から脱出することを目的とする組織をやっているんだ。『異界脱出同盟会』、そう呼んでいる!」
 彼は続けた。
 「そして僕は伊東新夜というものだ。28歳。作家兼フリーなライター業を生業としている。ここの総責任者とやらを任されてるよ。指揮官みたいなもんだね。」
 伊東と名乗った男は言った。
 「では各自名乗っていって欲しい。」
 


 自己紹介タイムが始まったようだ。メンバーが僕とジェーンを囲んだ。
 まず、背が170センチくらいありそうな長身の女性が前に出てくる。
 「アタシは坂本瑠璃華っていうんだ。21だ。一応大学生さ。」
 瑠璃華と名乗った女性は、デニムジャケットにジーンズ、スニーカーを履いていた。割と無造作なロングヘアはよく見るとサラサラである。女傑っぽいな、という印象を受ける。悪く言えばヤンキーだ。
 「好きなものは酒ェッ!」
 瑠璃華は叫んで、手に持っていた缶のハイボールを飲んだ。自己紹介で酒飲むやつ僕は初めて見た。
 「瑠璃華ちゃんはこの同盟会の副リーダーと探索班の班長を務めるよ。」
 酒を飲んでいることを全く指摘せずに伊東が補足した。こいつが...?副リーダー???
 続いてパンツスーツのOLじみた女性が前に出てくる。
 「夜野玲香と申します。年齢はヒ・ミ・ツ!よろしくね!」
 玲香と名乗った彼女はにこにこと笑いながら自己紹介をした。彼女の顔面はにこにこしているのだがどうも仮面が貼り付いたような、能面のような笑顔に見える。年齢を隠しているためかこの人は10代にも30代にも見える。
 「ケッ。玲香が年言わねぇからアタシが副リーダーになっちまったんだぜ!なんならそこのポリスウーメン朱音にしてもいいのによォ。」
 瑠璃華は悪態をついていた。
 「いいじゃないですか年功序列というやつです。私はピチピチに若いイケイケなんですから。」
 ちょっとウザい返しを玲香はする。
 「ったくてめぇどーみても私より年上だろ。あとウゼェ!」
 「まぁまぁ!あ、次遥ちゃん!よろしく!」
 伊東が2人の喧嘩をなだめ、僕とジェーンと同じ位の年齢の女の子が出てきた。
 「古地遥でーす。18。てか君らと同じ位かもぉ。よろしくぅ。」
 気だるげに言った彼女は髪が腰辺りまで届くような長髪で、よくこいつ頭髪検査に引っかからねぇなと思った。瑠璃華もそうだがこいつもヤンキーみたいな雰囲気がある。
 そして久しぶりに男が、男が出てくる。
 「フォーーーーーー!九条宏太デース!よろよろー!」
 一室がシーンとなった。
 「うぇっうぇっうぇっ!みんな冷えてんじゃネーヨ!ついでに言うと19の大学生デース!とくにそこの老け顔君!君とは仲良く慣れそうだ。」
 僕を指さして、宏太と名乗った男は言った。彼は真っ赤なパーカーを羽織っていて、ジーンズを履いている。数少ない男で歳も近いがぶっちゃけ不安を覚えていた。
 
 これで全員紹介したのかな。次なるは僕たちか、と思われた時、
 「最後は平川ちゃんだよぉ〜。出てきておくれ〜。」
 と伊東が言った。伊東の視線の先には机にノートパソコンを広げる少女がいた。全く気づかなかった。影が薄すぎる。少女はこちらにやって来た。
 「私は平川麻里奈と申すものでありますwwwww。主に情報支援を担当しておりますwwwwww。よろしくでござるフォウwwwwww。」
 これは...。古のオタクかな?
 麻里奈は比較的小柄で、メガネを掛けている。
 「ちな、15歳で現状最年少でござるww。ふへへへへwwwww。どうぞ私をこき使っておくんなましwwwww。」
 麻里奈は続けた。
 「麻里奈ちゃんはパソコンとか機械が得意でね!後方支援である情報班の責任者を任せてるよ。監視カメラとかであのヘドロ化け物が近くに来たら感知するシステムも作ってくれたんだ。君たちが助かったのもそのシステムに引っかかって朱音ちゃんが出動してくれたお陰だよ!」
 伊東が補足した。なるほど。凄いやつなのだろう。僕も多少パソコンには強いタイプだが、そこまでシステムを構築できているのは驚きだ。


 これにてメンバーの自己紹介が終わった。その後僕とジェーンも自己紹介をし、ジェーンの記憶がないことについても説明するのだった。
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登場人物紹介

黒井啓司

身長182

18歳

 主人公。受験を控えている高3。やや考えすぎる性格。論理的思考が得意。老け顔。もともと、ハードなぶつかり合いのあるとある運動部に所属していたのもあり筋肉量と体力は秀でる。好物は肉料理。

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