第4話
文字数 2,259文字
僕のせいだ。背筋が凍る。戦慄にも似た焦燥が全身に駆け巡る。傷なんか残ってしまっていたら更にまずい。僕も謎な激痛のせいで、体調不良のせいで階段から落ちたとはいえこの娘のご両親が何を言ってくるかわからない。受験前にこんなことになってしまうとは...。あぁ終わった。
「君の名前は何?」
やはり、どこか聞き覚えのある懐かしさを感じるような、そんな声が聞こえた。女の子がこちらを向いて僕の名前を聞いてきたのだ。どうやら完全に落ち着きを取り戻している様だった。
「僕の名前は、黒井。黒井啓司というものだ。記憶がどこまであるかわからないが、この通り。君と同じ高校の制服だから同じ高校の生徒だ。」
「啓司君か。確かにこのブレザーは君のと似ている...。とりあえず君は私を攫った犯人じゃあないんだね?」
妙に上から目線を感じるその口調にもやはりどこか見覚えを感じた。
「勿論だ!ほら見ろ!僕の学生証だ。」
出したところで僕が怪しい事が晴らせるかよくわからないが、僕は生徒手帳に付属する学生証を女子に提示した。
「ふむふむ。なるほど。君は高校生なのは確かだね。あんまりに老けているせいで、おっさんが制服着て自分は高校生だと言い張っているようにしか見えなかったからさ。ちょっと怪しんですまなかったね。」
女子はずけずけと僕の心をずたずたにした。そうである。事実だ。僕は老けている。よく30代前半位に間違えられる。多分身長と体格のせいかなぁとも考えていた。背は平均よりだいぶ高めだし、太ってはいないが筋肉量には自信があり、菜月どころかクラスメート中にゴリラと呼ばれている。さらに顔は陰鬱らしく、菜月に称される様に顔が暗いそうだ。仕方ない。今更心を砕かれるような...。事実だから仕方がないのだ!
「と、とりあえずだが何か自分の名前がわかりそうな物は身に着けていたりしないのか?」
僕は聞いた。
「うーん。」
ごにょごにょと言いながら女子はブレザーなどのポケットを捜す。
「ない。ないね。なんと私、財布すら持っていないようだ!」
自嘲的に彼女は言った。こりゃ困ったな。
「君の名前は、何と呼べばいいだろうか。」
「とりあえず、ジェーンと名乗らせて頂こう!ジェーン・ドゥ的な感じで。」
どこか自身ありげに彼女は、ジェーンは言った。ジェーン・ドゥとは確か海外でのナナシの権兵衛の女性版みたいな名前だったような。こいつは記憶喪失の癖にそれは知っているのか。どう見ても日本人にしか見えない彼女をジェーンと呼ぶのはとても違和感が引っ付いてくるが、呼び名があるだけマシか。
「わかった。ジェーン。とりあえずここから出よう。」
ひとまずここから出なくては。シャッターが開かれて露出した野外には、夜空が広がっている。あまり考えたくなかったことだが今何時だ。僕は腕時計を覗いた。
「22時か。うん。多分捜索願が出始めてるかもしれないな!」
絶望して乾いた笑いを挙げながら僕は言った。大事はどちらにせよもう避けられない。さっさとここから出なくては。
僕たちはとりあえずこの仕分け作業場の出口らしき扉から出た。
出た先は広めの廊下のようになっていて、エレベーターや事務室、休憩所などが見られた。まるでさっきまで沢山の人が歩いていたかのような、妙な生暖かさを感じる。僕は事務室の扉を開けてみた。
ぎぃぃぃ。不快な音を立てながら扉が開かれていく。
部屋の中に入る。事務室は明かりがついていた。そして何より、並ばれた机の上に鎮座せしパソコンは電源がついていた。その上業務のためと思われる書類も机には各々置かれていたりする。やはり異様だ。
「どう見てもこれ、さっきまで人が居たみたいな様子だよね。」
ジェーンは言った。
「そうだな。」
もしここが稼働している倉庫ならば、そんなところに誘拐して放置するのはあまり考えづらい。誘拐して放置しとくなら普通廃墟だろう事は明白だ。
「とりあえずここから出ることに越したことはないな。誘拐犯が近くにいる可能性もまだ捨てきれないから気を付けて行こう。」
僕はジェーンに言った。
しかしジェーンは妙に怯えた顔をしている。
「お、おい!啓司君。後ろ、後ろだ!」
うん?後ろ?僕は振り向いてみる。
背後には。
背後には。
ヒトのような形をしていて。体躯は光を吸収してしまう程真っ黒い。ヘドロをぽたぽたと垂らしている。
そしてヒトとは到底思えないほど巨大な口をあんぐりと開けて。
僕を捕食せんとする。
何かが、そこに。
「ああああああああああああああああああああああああ!」
本能的に絶叫を上げた。なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ!気色の悪い虫が身体に引っ付いた時のような嫌悪感が全身に走り、鳥肌が立つ。
瞬時に知っている生き物を記憶した知識の中で脳が検索したがやっぱりこんな生物知らない。この世にはいてはいけないフォルムをしている。
地面にぺたりと倒れこみ、僕は後ずさる。やばい。こいつは僕を食うつもりなのは間違いない。こいつはジェーンも食うだろう。どうにかして。せめて。ジェーンは守らなくては。
覚悟を決めた僕は立ち上がり、手近にあったオフィスチェアを持ち上げた。
ちょっと震えながらも雄たけびを上げながら、僕は持ち上げたものを化け物に向かって振りかざそうとする。その時であった。
「伏せて!」
見知らぬ女性の声が聞こえた。僕は従って伏せた。
直後響いたのは、日本においては聞きなじみのない、なじみたくはない重い銃声であった。
「君の名前は何?」
やはり、どこか聞き覚えのある懐かしさを感じるような、そんな声が聞こえた。女の子がこちらを向いて僕の名前を聞いてきたのだ。どうやら完全に落ち着きを取り戻している様だった。
「僕の名前は、黒井。黒井啓司というものだ。記憶がどこまであるかわからないが、この通り。君と同じ高校の制服だから同じ高校の生徒だ。」
「啓司君か。確かにこのブレザーは君のと似ている...。とりあえず君は私を攫った犯人じゃあないんだね?」
妙に上から目線を感じるその口調にもやはりどこか見覚えを感じた。
「勿論だ!ほら見ろ!僕の学生証だ。」
出したところで僕が怪しい事が晴らせるかよくわからないが、僕は生徒手帳に付属する学生証を女子に提示した。
「ふむふむ。なるほど。君は高校生なのは確かだね。あんまりに老けているせいで、おっさんが制服着て自分は高校生だと言い張っているようにしか見えなかったからさ。ちょっと怪しんですまなかったね。」
女子はずけずけと僕の心をずたずたにした。そうである。事実だ。僕は老けている。よく30代前半位に間違えられる。多分身長と体格のせいかなぁとも考えていた。背は平均よりだいぶ高めだし、太ってはいないが筋肉量には自信があり、菜月どころかクラスメート中にゴリラと呼ばれている。さらに顔は陰鬱らしく、菜月に称される様に顔が暗いそうだ。仕方ない。今更心を砕かれるような...。事実だから仕方がないのだ!
「と、とりあえずだが何か自分の名前がわかりそうな物は身に着けていたりしないのか?」
僕は聞いた。
「うーん。」
ごにょごにょと言いながら女子はブレザーなどのポケットを捜す。
「ない。ないね。なんと私、財布すら持っていないようだ!」
自嘲的に彼女は言った。こりゃ困ったな。
「君の名前は、何と呼べばいいだろうか。」
「とりあえず、ジェーンと名乗らせて頂こう!ジェーン・ドゥ的な感じで。」
どこか自身ありげに彼女は、ジェーンは言った。ジェーン・ドゥとは確か海外でのナナシの権兵衛の女性版みたいな名前だったような。こいつは記憶喪失の癖にそれは知っているのか。どう見ても日本人にしか見えない彼女をジェーンと呼ぶのはとても違和感が引っ付いてくるが、呼び名があるだけマシか。
「わかった。ジェーン。とりあえずここから出よう。」
ひとまずここから出なくては。シャッターが開かれて露出した野外には、夜空が広がっている。あまり考えたくなかったことだが今何時だ。僕は腕時計を覗いた。
「22時か。うん。多分捜索願が出始めてるかもしれないな!」
絶望して乾いた笑いを挙げながら僕は言った。大事はどちらにせよもう避けられない。さっさとここから出なくては。
僕たちはとりあえずこの仕分け作業場の出口らしき扉から出た。
出た先は広めの廊下のようになっていて、エレベーターや事務室、休憩所などが見られた。まるでさっきまで沢山の人が歩いていたかのような、妙な生暖かさを感じる。僕は事務室の扉を開けてみた。
ぎぃぃぃ。不快な音を立てながら扉が開かれていく。
部屋の中に入る。事務室は明かりがついていた。そして何より、並ばれた机の上に鎮座せしパソコンは電源がついていた。その上業務のためと思われる書類も机には各々置かれていたりする。やはり異様だ。
「どう見てもこれ、さっきまで人が居たみたいな様子だよね。」
ジェーンは言った。
「そうだな。」
もしここが稼働している倉庫ならば、そんなところに誘拐して放置するのはあまり考えづらい。誘拐して放置しとくなら普通廃墟だろう事は明白だ。
「とりあえずここから出ることに越したことはないな。誘拐犯が近くにいる可能性もまだ捨てきれないから気を付けて行こう。」
僕はジェーンに言った。
しかしジェーンは妙に怯えた顔をしている。
「お、おい!啓司君。後ろ、後ろだ!」
うん?後ろ?僕は振り向いてみる。
背後には。
背後には。
ヒトのような形をしていて。体躯は光を吸収してしまう程真っ黒い。ヘドロをぽたぽたと垂らしている。
そしてヒトとは到底思えないほど巨大な口をあんぐりと開けて。
僕を捕食せんとする。
何かが、そこに。
「ああああああああああああああああああああああああ!」
本能的に絶叫を上げた。なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ!気色の悪い虫が身体に引っ付いた時のような嫌悪感が全身に走り、鳥肌が立つ。
瞬時に知っている生き物を記憶した知識の中で脳が検索したがやっぱりこんな生物知らない。この世にはいてはいけないフォルムをしている。
地面にぺたりと倒れこみ、僕は後ずさる。やばい。こいつは僕を食うつもりなのは間違いない。こいつはジェーンも食うだろう。どうにかして。せめて。ジェーンは守らなくては。
覚悟を決めた僕は立ち上がり、手近にあったオフィスチェアを持ち上げた。
ちょっと震えながらも雄たけびを上げながら、僕は持ち上げたものを化け物に向かって振りかざそうとする。その時であった。
「伏せて!」
見知らぬ女性の声が聞こえた。僕は従って伏せた。
直後響いたのは、日本においては聞きなじみのない、なじみたくはない重い銃声であった。