第1話
文字数 2,238文字
目覚まし時計のけたたましい音で目が覚める。全身に感じる暖かい感触。そして顔に伝わるのは不快な冷たさ。
僕、黒井啓司はいやいやながら布団を剥いだ。歯も震えそうな程冷たい空気が身体を容赦なく襲い、また布団に戻りたくなってしまうがそれを理性で防いだ。
今日は2019年12月14日、月曜日だ。先ほど僕をたたき起こしてくれたデジタル時計はそう示していた。先週金曜日に「本当に面倒な」期末テストが終わり、おそらく今日あたりからテスト返しが行われるはずだ。なぜ本当に面倒なのか、その答えはシンプルに僕が高3の受験生だからである。1月以降から僕の未来が分岐するだろう試験がある。そして僕の通う高校はレベルがあまり高くない。大学に進学しない者も多くいる。なので学校のテストはあまりにも大学入試に対して有用性が絶望的なのだ。でも勉強してある程度取らないと赤点で追試を受けさせられてしまう。どうしようもないほど邪魔だが多少勉強しないとさらに面倒なことになるというわけである。今回も赤点を取らない程度に勉強を強いられ、仕方なくやった訳だが憂鬱だ。赤点ギリギリでも教師の反応はあまりよろしくない。紙メンタルな僕はダメージを食らうのだ...。
行きたくないけれど、行きたくないけれど。登校拒否は両親が許さないので今日も僕は朝の支度を始めた。
朝食を取り、制服に着替え、リュックの中を整理した。今日も内職するつもりなのでリュックには過去問やら参考書やらをぎゅうぎゅうに詰めた。よし。最後に音楽プレーヤーにイヤホンを刺して、お気に入りのジャズを再生する。
行こう。
僕は自宅を出発した。
いつも通りの道を通学し、高校にたどり着き、自分の教室にて席に着いた。すると前の席の女がいつも通り話しかけてくる。
「よぉゴリラ!今日も陰鬱だねぇ!」
アホみたいにでかい声でこの僕を、この僕を陰鬱なゴリラと呼んだこの女は「鈴本菜月」という。妙に長いロングヘアにやはり妙にでかい瞳が鎮座していて、いつも表情が緩んでいるのでやはりアホっぽい印象を受ける外見を持つ女である。こいつとの付き合いは長い。小学校からずっと同じ学校に通ってきたのだ。そのせいもあって異性でありながら友人としての関係を築いている。
「今日もろくに寝ないで来たのかぁ!?」
菜月は相変わらず馬鹿でかい声で話しかけてきた。
「声がでかいよ。頭に響くぅ。」
実際本当に睡眠時間が今日も短かった。
午前中の授業が終わり、昼休みとなった。はぁ。今日の授業は全て今の所テスト返しだった。例によってほぼ全部赤点ギリギリであった。それらのテストを返される度に教師が嫌な顔をしている気がして、僕はメンタルをやられたのだった...。英語だけは受験勉強による応用が利き、満点だった。そこの授業時間だけ少しメンタルを回復した。
さぁ、お楽しみの弁当タイムだ。僕は弁当を取り出そうとした。
しかし弁当を取り出そうと机の中に突っ込んだ手が止まる。
まただ。あれがきた。
脳を瞬時に支配したのは強烈な既視感。視界に映るクラスメートの動き、窓の外にぼんやりある寒空の風景、そして空気感。全ての情報に対して感じる「強烈な既視感」。
デジャブだ...!どこかでこの状況をはっきりと見たことがあるような気がする感覚、それがデジャブだ。夢で見たような、そんな感覚にも陥る。
デジャブにはよく遭う。幼稚園児頃から既にそれはあった。もはや慣れた現象。慣れた物のはずなのに、いつまで経っても僕は慣れない。それには理由がある。
一般的なデジャブは何らかの状況、視覚情報および五感情報に対して既視感を覚えることだ。本来なら「それだけで」終わるはずだ。「その先」などあるはずがないのである。しかし僕のデジャブには「先がある」。
強烈な既視感が発生した僕の脳に次なるイベントが発生した。はっきりと未知であるとわかる光景が脳内に映されたのだ。その光景はやはり僕の視界であり、前の席のアホたる菜月が机を僕の席にくっつけ、間抜けな表情で弁当一緒に食おうぜ...!と言っている。その光景の中の僕はそれを了承したようである。
この通り、典型的なデジャブが発生した後、僕は何らかのビジョンが見える。そのビジョンはこの後起こる未来の事を「確実に言い当てる」。幼少期からデジャブが起こるたびにこの未来視のような物は発生していて、その度に見たビジョンは確実に起きた。的中率は100%であり、何度か友人などの前で予言をして見せたこともある。まぁ気味悪がられたのであんまり良いことも無かったが...。この現象自体は不定期なので変に予言者扱いされても困るので、結果的には良かったかもしれない。
さて、このまま動かなければ前の席のアホが話しかけてくるわけであるが、正直嫌である。僕は寝不足であるし、僕の事を陰鬱ゴリラと呼ぶアホ女を相手にして奴の大声で頭痛を起こしたくない...。思えば僕は、予知した未来と違う行動をしたことがなかった。確実に発生する予知に対して、僕が干渉したならば一体何が起こるのだろう。好奇心はじわりじわりと沸いてくる。ついでに菜月と喋りたくないという欲もそれを加速させている。
よし!逃亡しよう。初の試みである、「予知への抵抗」を敢行することに決めて私は弁当を持っていそいそと教室を出た。出たとき、教室の中から菜月の声で
「あれぇ?ゴリラー?」
と言っているアホな声が聞こえたが、まぁ気にすることも無いだろう。
僕、黒井啓司はいやいやながら布団を剥いだ。歯も震えそうな程冷たい空気が身体を容赦なく襲い、また布団に戻りたくなってしまうがそれを理性で防いだ。
今日は2019年12月14日、月曜日だ。先ほど僕をたたき起こしてくれたデジタル時計はそう示していた。先週金曜日に「本当に面倒な」期末テストが終わり、おそらく今日あたりからテスト返しが行われるはずだ。なぜ本当に面倒なのか、その答えはシンプルに僕が高3の受験生だからである。1月以降から僕の未来が分岐するだろう試験がある。そして僕の通う高校はレベルがあまり高くない。大学に進学しない者も多くいる。なので学校のテストはあまりにも大学入試に対して有用性が絶望的なのだ。でも勉強してある程度取らないと赤点で追試を受けさせられてしまう。どうしようもないほど邪魔だが多少勉強しないとさらに面倒なことになるというわけである。今回も赤点を取らない程度に勉強を強いられ、仕方なくやった訳だが憂鬱だ。赤点ギリギリでも教師の反応はあまりよろしくない。紙メンタルな僕はダメージを食らうのだ...。
行きたくないけれど、行きたくないけれど。登校拒否は両親が許さないので今日も僕は朝の支度を始めた。
朝食を取り、制服に着替え、リュックの中を整理した。今日も内職するつもりなのでリュックには過去問やら参考書やらをぎゅうぎゅうに詰めた。よし。最後に音楽プレーヤーにイヤホンを刺して、お気に入りのジャズを再生する。
行こう。
僕は自宅を出発した。
いつも通りの道を通学し、高校にたどり着き、自分の教室にて席に着いた。すると前の席の女がいつも通り話しかけてくる。
「よぉゴリラ!今日も陰鬱だねぇ!」
アホみたいにでかい声でこの僕を、この僕を陰鬱なゴリラと呼んだこの女は「鈴本菜月」という。妙に長いロングヘアにやはり妙にでかい瞳が鎮座していて、いつも表情が緩んでいるのでやはりアホっぽい印象を受ける外見を持つ女である。こいつとの付き合いは長い。小学校からずっと同じ学校に通ってきたのだ。そのせいもあって異性でありながら友人としての関係を築いている。
「今日もろくに寝ないで来たのかぁ!?」
菜月は相変わらず馬鹿でかい声で話しかけてきた。
「声がでかいよ。頭に響くぅ。」
実際本当に睡眠時間が今日も短かった。
午前中の授業が終わり、昼休みとなった。はぁ。今日の授業は全て今の所テスト返しだった。例によってほぼ全部赤点ギリギリであった。それらのテストを返される度に教師が嫌な顔をしている気がして、僕はメンタルをやられたのだった...。英語だけは受験勉強による応用が利き、満点だった。そこの授業時間だけ少しメンタルを回復した。
さぁ、お楽しみの弁当タイムだ。僕は弁当を取り出そうとした。
しかし弁当を取り出そうと机の中に突っ込んだ手が止まる。
まただ。あれがきた。
脳を瞬時に支配したのは強烈な既視感。視界に映るクラスメートの動き、窓の外にぼんやりある寒空の風景、そして空気感。全ての情報に対して感じる「強烈な既視感」。
デジャブだ...!どこかでこの状況をはっきりと見たことがあるような気がする感覚、それがデジャブだ。夢で見たような、そんな感覚にも陥る。
デジャブにはよく遭う。幼稚園児頃から既にそれはあった。もはや慣れた現象。慣れた物のはずなのに、いつまで経っても僕は慣れない。それには理由がある。
一般的なデジャブは何らかの状況、視覚情報および五感情報に対して既視感を覚えることだ。本来なら「それだけで」終わるはずだ。「その先」などあるはずがないのである。しかし僕のデジャブには「先がある」。
強烈な既視感が発生した僕の脳に次なるイベントが発生した。はっきりと未知であるとわかる光景が脳内に映されたのだ。その光景はやはり僕の視界であり、前の席のアホたる菜月が机を僕の席にくっつけ、間抜けな表情で弁当一緒に食おうぜ...!と言っている。その光景の中の僕はそれを了承したようである。
この通り、典型的なデジャブが発生した後、僕は何らかのビジョンが見える。そのビジョンはこの後起こる未来の事を「確実に言い当てる」。幼少期からデジャブが起こるたびにこの未来視のような物は発生していて、その度に見たビジョンは確実に起きた。的中率は100%であり、何度か友人などの前で予言をして見せたこともある。まぁ気味悪がられたのであんまり良いことも無かったが...。この現象自体は不定期なので変に予言者扱いされても困るので、結果的には良かったかもしれない。
さて、このまま動かなければ前の席のアホが話しかけてくるわけであるが、正直嫌である。僕は寝不足であるし、僕の事を陰鬱ゴリラと呼ぶアホ女を相手にして奴の大声で頭痛を起こしたくない...。思えば僕は、予知した未来と違う行動をしたことがなかった。確実に発生する予知に対して、僕が干渉したならば一体何が起こるのだろう。好奇心はじわりじわりと沸いてくる。ついでに菜月と喋りたくないという欲もそれを加速させている。
よし!逃亡しよう。初の試みである、「予知への抵抗」を敢行することに決めて私は弁当を持っていそいそと教室を出た。出たとき、教室の中から菜月の声で
「あれぇ?ゴリラー?」
と言っているアホな声が聞こえたが、まぁ気にすることも無いだろう。