第7話
文字数 2,548文字
「そうか...記憶がないんだね。」
「えぇ。何かの拍子で思い出せればいいのですが。」
ジェーンの記憶喪失について言うと、皆どうしたものかという顔をしていた。
「でも2人とも同じ高校なんだよなァ?少なくとも。」
瑠璃華が聞いた。
「彼女の制服はうちの高校の女子制服で間違いないです。」
僕は答えた。
「まぁ記憶戻るといいなァ!頭殴ったら治るかねェ!」
「治るわけ無いでしょ〜瑠璃華ちゃん。ジェーンちゃんを怖がせるんじゃありませんよ。」
伊東が宥める。すると朱音が伊東に
「例の事について2人にまだ説明してなかったですよね。」
と言った。伊東は難しい顔になった。
「うぅむ。まぁそうだね。黒井君とジェーンちゃんにはまたまた信じ難い説明になるかもしれないのだけど、冷静に聞いて欲しい。」
「何を今更って感じですよ。僕達は少なくとも地球じゃないドコかにいるのは明らかなんですから。」
僕はそう答えた。ヘドロのあいつと上に広がる逆さの世界。全てが信じられないことだらけ。そして伊東は口を開く。
「僕らは皆、違う世界からこの異界に流れ着いたんだ。」
「はい?」
思わず思考が止まる。違う世界から?
「黒井君達はさ。パラレルワールドって聞いたことあるかな。」
パラレルワールド。並行世界。勿論知っている。例えば僕がレストランにいたとして、カレーを食べるかハンバーグ定食を食べるかで迷ったとする。その時点で未来は分岐する。カレーを結局食べても、分岐した違う世界ではハンバーグ定食を食べているのだ。可能性の数だけ世界が分岐していく。大雑把に言えばそれがパラレルワールドである。多世界解釈やコペンハーゲン解釈など分派はあるが、大まかに言えばこんなもんだろう。
「知っています。」
ジェーンも頷いていた。
「最初はぼくらもびっくりしたんだけどね。ここにいる全員が違うパラレルワールドから流れ着いた事がわかったんだよ。」
「にわかに信じ難いとは言いたいところですけど...なぜそれがわかったのですか?」
ジェーンが聞いた。
「まず君達に問う。この板を知っているかい?」
伊東はポケットから、薄っぺらいディスプレイらしきものが付いたタブレットのような機械を取り出した。これは確か朱音が僕達と出会ったときに使用していたものだろう。
「タッチディスプレイの通信端末ですかね?」
僕は率直に答えた。しかしジェーンは衝撃を覚えたような、こいつこれを知らないのか?と馬鹿にするような目で僕を見ている。どういう事だ?
「スマホですよね!スマートフォン!」
ジェーンは言った。スマートフォン?『賢い電話』?。そもそも記憶喪失なのにこいつはこれを知っているのか。というかこの機械がそんな名前なんて一般常識でもないはずだ。
「そうか...黒井君は知らないようだね。ジェーンちゃんが言ったようにこれはスマートフォンという物だ。パカパカ開くケータイが進化した物とされている。」
伊東は説明した。嘘だろ?こんな薄っぺらいディスプレイしかない機械がケータイだと!?
「これはね。決してマイナーな物じゃないんだ。少なくとも9割の日本人が所持している物なんだよ。」
衝撃を覚えた。ジェーンはうんうんと言っている。こんなキーボードとか物理ボタンすらない板がケータイに成り代わられてるのか...?まるで僕が記憶喪失になった気分だ。
「だがね、ここにいる全員がスマホを知ってるわけでもない。黒井君の様に朱音さんも最初はスマホを知らなかったんだ。」
朱音は伊東の説明にうんうんと首をブンブン振っている。
「そして次に問う。君達、今日は何年かわかるかい?」
「2019年ですよね?」
当然の様に僕は答える。
「そうか。でも僕はここで目覚める前は『2016年』だったんだ。」
伊東は穏やかに答えた。
どうやらここにいるメンバーの多くが、違う年代からやってきた人らしい。
瑠璃華は2023年から、麻里奈は2021年から、遥と宏太は2020年から、朱音と玲香は2017年から。ジェーンは記憶がないためわからなかった。
「で、でもこれじゃ単に時間軸が違う人物が集まっているだけじゃないんでしょうか!」
僕は伊東に問う。
「まぁいい質問だよ。でも朱音さんと玲香さんは同じ年から来たのに朱音さんだけ、最初スマホを知らなかったんだ。」
「今となっては使いこなせてるけどね!」
朱音はにこにこしている。
「あと朱音さんのハンドガン、これも違和感を感じたかな?」
僕はハッとする。
「一応これ支給品なんだよね〜。みんなギョッとするけど私のいた世界じゃ銃規制なんてモノないからねぇ。」
朱音は僕たちを救った銃を取り出しながら言った。どおりで引っかかっていた訳だ。
「遥ちゃんちゃんはあのウイルス知らねェんだもんな〜!」
宏太が言う。
「あぁ。コロナウイルスねェ!まさか2020年にコロナウイルスが流行らなかった世界もあり得たとは。なんだか羨ましくなるぜェ。アタシなんて大学生活アレにブチ壊されたからよォ!」
瑠璃華が哀しそうに、かつ理不尽に嘆くかのように言った。
「そもそもそんな騒ぎ知らんし...まぁ宏太と同じ西暦でも中身はお互い全然違う世界ってことね。」
遥が言った。
「なんか、流行病でもあったんですか?」
好奇心で僕は聞いてみる。
「2020年初頭からパンデミックがあったのさァ。アタシのいた2023年にゃようやくパンデミック前の日常が戻ったが、そらもうこの3年は酷かったよ!」
「ネタバレ食らった気分だぜ瑠璃華の姉御!でもここから3年もマスク生活強制はヤッテランネーぜ!」
ほう。同じ2020年からなのに遥だけはそのウイルスを知らないのに宏太は知っているのも「違う年代のパラレルワールド」からここに皆流れ着いた事を裏付けているんだな。もしかしたら僕も、現実世界に帰還したらまもなくそのパンデミックに見舞われるのかもしれないな。心底嫌だな。
「まぁわかってくれたかな。しかし仮説に過ぎないということもある。」
伊東が言う。
「信じ難い事だらけだとは思う。でも、こんな時だからこそ仲良く、楽しく、元の世界に戻るため頑張ろうじゃないか。」
伊東は僕たちに、穏やかに微笑んだ。
「えぇ。何かの拍子で思い出せればいいのですが。」
ジェーンの記憶喪失について言うと、皆どうしたものかという顔をしていた。
「でも2人とも同じ高校なんだよなァ?少なくとも。」
瑠璃華が聞いた。
「彼女の制服はうちの高校の女子制服で間違いないです。」
僕は答えた。
「まぁ記憶戻るといいなァ!頭殴ったら治るかねェ!」
「治るわけ無いでしょ〜瑠璃華ちゃん。ジェーンちゃんを怖がせるんじゃありませんよ。」
伊東が宥める。すると朱音が伊東に
「例の事について2人にまだ説明してなかったですよね。」
と言った。伊東は難しい顔になった。
「うぅむ。まぁそうだね。黒井君とジェーンちゃんにはまたまた信じ難い説明になるかもしれないのだけど、冷静に聞いて欲しい。」
「何を今更って感じですよ。僕達は少なくとも地球じゃないドコかにいるのは明らかなんですから。」
僕はそう答えた。ヘドロのあいつと上に広がる逆さの世界。全てが信じられないことだらけ。そして伊東は口を開く。
「僕らは皆、違う世界からこの異界に流れ着いたんだ。」
「はい?」
思わず思考が止まる。違う世界から?
「黒井君達はさ。パラレルワールドって聞いたことあるかな。」
パラレルワールド。並行世界。勿論知っている。例えば僕がレストランにいたとして、カレーを食べるかハンバーグ定食を食べるかで迷ったとする。その時点で未来は分岐する。カレーを結局食べても、分岐した違う世界ではハンバーグ定食を食べているのだ。可能性の数だけ世界が分岐していく。大雑把に言えばそれがパラレルワールドである。多世界解釈やコペンハーゲン解釈など分派はあるが、大まかに言えばこんなもんだろう。
「知っています。」
ジェーンも頷いていた。
「最初はぼくらもびっくりしたんだけどね。ここにいる全員が違うパラレルワールドから流れ着いた事がわかったんだよ。」
「にわかに信じ難いとは言いたいところですけど...なぜそれがわかったのですか?」
ジェーンが聞いた。
「まず君達に問う。この板を知っているかい?」
伊東はポケットから、薄っぺらいディスプレイらしきものが付いたタブレットのような機械を取り出した。これは確か朱音が僕達と出会ったときに使用していたものだろう。
「タッチディスプレイの通信端末ですかね?」
僕は率直に答えた。しかしジェーンは衝撃を覚えたような、こいつこれを知らないのか?と馬鹿にするような目で僕を見ている。どういう事だ?
「スマホですよね!スマートフォン!」
ジェーンは言った。スマートフォン?『賢い電話』?。そもそも記憶喪失なのにこいつはこれを知っているのか。というかこの機械がそんな名前なんて一般常識でもないはずだ。
「そうか...黒井君は知らないようだね。ジェーンちゃんが言ったようにこれはスマートフォンという物だ。パカパカ開くケータイが進化した物とされている。」
伊東は説明した。嘘だろ?こんな薄っぺらいディスプレイしかない機械がケータイだと!?
「これはね。決してマイナーな物じゃないんだ。少なくとも9割の日本人が所持している物なんだよ。」
衝撃を覚えた。ジェーンはうんうんと言っている。こんなキーボードとか物理ボタンすらない板がケータイに成り代わられてるのか...?まるで僕が記憶喪失になった気分だ。
「だがね、ここにいる全員がスマホを知ってるわけでもない。黒井君の様に朱音さんも最初はスマホを知らなかったんだ。」
朱音は伊東の説明にうんうんと首をブンブン振っている。
「そして次に問う。君達、今日は何年かわかるかい?」
「2019年ですよね?」
当然の様に僕は答える。
「そうか。でも僕はここで目覚める前は『2016年』だったんだ。」
伊東は穏やかに答えた。
どうやらここにいるメンバーの多くが、違う年代からやってきた人らしい。
瑠璃華は2023年から、麻里奈は2021年から、遥と宏太は2020年から、朱音と玲香は2017年から。ジェーンは記憶がないためわからなかった。
「で、でもこれじゃ単に時間軸が違う人物が集まっているだけじゃないんでしょうか!」
僕は伊東に問う。
「まぁいい質問だよ。でも朱音さんと玲香さんは同じ年から来たのに朱音さんだけ、最初スマホを知らなかったんだ。」
「今となっては使いこなせてるけどね!」
朱音はにこにこしている。
「あと朱音さんのハンドガン、これも違和感を感じたかな?」
僕はハッとする。
「一応これ支給品なんだよね〜。みんなギョッとするけど私のいた世界じゃ銃規制なんてモノないからねぇ。」
朱音は僕たちを救った銃を取り出しながら言った。どおりで引っかかっていた訳だ。
「遥ちゃんちゃんはあのウイルス知らねェんだもんな〜!」
宏太が言う。
「あぁ。コロナウイルスねェ!まさか2020年にコロナウイルスが流行らなかった世界もあり得たとは。なんだか羨ましくなるぜェ。アタシなんて大学生活アレにブチ壊されたからよォ!」
瑠璃華が哀しそうに、かつ理不尽に嘆くかのように言った。
「そもそもそんな騒ぎ知らんし...まぁ宏太と同じ西暦でも中身はお互い全然違う世界ってことね。」
遥が言った。
「なんか、流行病でもあったんですか?」
好奇心で僕は聞いてみる。
「2020年初頭からパンデミックがあったのさァ。アタシのいた2023年にゃようやくパンデミック前の日常が戻ったが、そらもうこの3年は酷かったよ!」
「ネタバレ食らった気分だぜ瑠璃華の姉御!でもここから3年もマスク生活強制はヤッテランネーぜ!」
ほう。同じ2020年からなのに遥だけはそのウイルスを知らないのに宏太は知っているのも「違う年代のパラレルワールド」からここに皆流れ着いた事を裏付けているんだな。もしかしたら僕も、現実世界に帰還したらまもなくそのパンデミックに見舞われるのかもしれないな。心底嫌だな。
「まぁわかってくれたかな。しかし仮説に過ぎないということもある。」
伊東が言う。
「信じ難い事だらけだとは思う。でも、こんな時だからこそ仲良く、楽しく、元の世界に戻るため頑張ろうじゃないか。」
伊東は僕たちに、穏やかに微笑んだ。