私達の事情

文字数 670文字

 帰りは新幹線だった。
 三列席には私と小田、飯田部長が座っている。彼等は眠っている。さっきまで飯田部長の趣味の釣りの話で盛り上がっていたけれど、流石に疲れたらしい。
 私達の前の車両はグリーン席でそちらに大崎副社長と真司さんが乗っている筈だ。
 真司さんからラインが届いた。
「今日はお疲れ様。東京に着いたらそのまま直帰すると言ってある。夕食を一緒に食べて帰ろう。いつもの居酒屋でいいかい?」

「お疲れ様でした。私も直帰します。夕食の件、了解しました」

「苺を買ってきたから、家で食べよう」

「いちご狩りは楽しかったですか」

「そんな訳無いだろう。ただの仕事だ」

 彼からそう来て、「そんな風に見えなかった」と書いて、少し考えた。それを削除して、
 暫し考え込む。と、その時、どこからか悲鳴が聞こえた。
 私はきょろきょろと辺りを見渡す。周囲の乗客も「何だろう」と言う感じで辺りを見渡している。
 隣で寝ていた二人がごそごそと動いて目を覚ました。

 突然、前のドアが開いてグリーン車の客が雪崩れ込んで来た。何か、白い煙も一緒に流れ込んで来る。
 みんな口々に「逃げろ!」と叫んでいる。叫んでばたりと通路に倒れた人がいた。
 騒然となった。
 小田と飯田部長も立ち上がった。
「早く行け!」
 私は慌てて逃げる。
 誰も彼もが我先に逃げる。車両の中に悲鳴と怒声が響く。
 私は逃げながら後ろを振り返った。
 慌てる客の後ろから異様な風体の男が入って来る。
 白いレインコートに、何、あれ? 顔に着けているのは、ガスマスク??
 その男が手に持ったスプレー缶を辺りにしゅうっと吹き付けた。
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