サツキナ・イダロッテ
文字数 2,275文字
魔族の王女、サツキナ・イダロッテは鏡に映った自分の顔をまじまじと眺めた。
漆黒の髪と長い睫毛に縁どられた黒曜石の瞳。大理石の様な滑らかで白い肌。
整った鼻筋と唇。 流石にラブコメの主人公と言うだけあって中々の美人さんである。
だが、何故か頭にちょこんと2本の角が付いている。
サツキナは両手でその角を引っ張ってみる。取れる訳が無い。
「はあああ~」
深いため息を吐き、がっくりと項垂れる。
「何で私が魔族の王女に転生してしまったのか……いくら雪隠 に落ちたからって……こんな人生ひど過ぎる」
サツキナ(峰 沙月)は呟く。
「……これ、何とかならないのかしら?」
何度も角に手をやる。
魔族の中には角の無い魔族もいる。角の無い魔族は新魔族 と呼ばれている。
魔族の王女に転生(それも普通に旧)したのも酷いが、自分の父親である魔族の王は何と飯田部長である。
使えない飯田部長。
あの椅子取りゲームでのミケツカミの言葉が蘇る。
近隣の者は亡くなった時に近くにいたから、縁が強い。
ミケツカミは確かそう言った。
だからって、何で飯田部長が私の父親……。
サツキナは前世の記憶をもったままこの異界に転生したのだ。
序 に椅子取りゲームの記憶も持っている。自分をくすぐり倒したあの破廉恥な痴漢野郎を許す事は出来ないと思いながら、それが父親で、それも大王なんてどうかしていると天に向かって罵声を浴びせる。
ふざけんなよ! バカヤロー!と。
そしてこのダンテ・イダロッテ、ブラックフォレスト王国の主は仕事に関しては前世と同じテキトー極まりない人であった。
王妃であるサツキナの母サリー王妃は病弱で、サツキナが10歳の時に亡くなってしまった。今から7年前の事である。
サツキナ17歳。
まさに青春真っただ中の王女(しかし魔族)である。
王の代理で政務に追われる日々。私の青春を返せとブチ切れたいサツキナであった。
そんな風に自分の人生についてぶつくさと文句を言っていると、こんこんとドアをノックする音が聞こえた。
「サツキナ様」
従者オダッチの声である。
「入れ」
サツキナは声を掛ける。
入って来たのはロン毛を後ろで縛った若者だった。
(カメラマンの小田が転生したのだが、前世の記憶が無い。転生先ではサツキナの忠実な従者となっている。一応、剣の達人という設定である)
オダッチには角は無い。
「イエローフォレストからの使者が参っております」
オダッチは言った。
「父上は?」
「ロロ湿地に釣りにお出かけになられたかと」
「また!?」
サツキナは驚く。
「昨日も釣りに行ったじゃ無いの!」
「はあ、しかし朝早くからお出かけになられて……」
「じゃあ、ロキは?」
サツキナは2歳下の弟について尋ねる。
「ロキ様もご一緒に」
サツキナは思わずくらりと眩暈がした。
「だ、大丈夫ですか?サツキナ様」
オダッチが慌てて支える。
「……大丈夫だ。しかし、親子揃って釣りバカ日記とは」
サツキナはちっと舌打ちをすると、どすどすと足音を立てて部屋を出て行く。両手でドレスを持ち上げ大股で歩くサツキナの後ろから従者オダッチが小走りで付いて行く。
「使者は誰?」
「いつものフロレス武官で御座います」
サツキナは謁見の間に行くとどさりと音を立てて椅子に座った。
「イエローフォレスト王国の使者、フロレス殿。遠い所をご苦労であった。だが、生憎父王は不在故、私サツキナが要件を承る」
サツキナがそう言うと、フロレスは深く頭を下げた。
「ブラックフォレスト王女、サツキナ姫。ご機嫌麗しゅう」
低頭しながら頭の上に手紙を入れた筒を差し上げた。
「イエローフォレスト王妃、リエッサ様からの書簡で御座います」
脇に控えたオダッチがその筒を持ってサツキナに渡した。
サツキナはその手紙を読んで驚いた。
「リエッサ王妃は前夫ジョレス国王が亡くなられてから、まだ2年も過ぎていないのだが、再婚なさるのか?」
(マジで?)
「はい」
「しかし、喪に服すのは3年間と言う」
「リエッサ王妃はイエローフォレストの安全と発展の為にご結婚をなさるお積りなので御座います」
「……」
(嘘をつけ)
注;()は心の声。
「リエッサ王妃は婚姻の為の特別税を課すとな? これ以上の重税は我がブラックフォレスト国の民に飢え死にしろと言っているのと同じだ。これは到底飲めぬ」
サツキナは言った。
使者は低頭したまま答えた。
「特別税で御座いますれば、一時的な税であろうと」
「一時的であっても、この金額は無理だ。800万ビルドなどどう考えたって、無理に決まっておる」
「それを拒否するなら魔族討伐の為の軍を派遣すると王妃は言っておられました」
「くっ……」
サツキナは唇を噛む。
使者は頭を垂れたままだ。
サツキナは額に手をやり、眉間に皺を寄せて考える。
(リエッサ王妃。死んでくれないかしら)
ふうっと息を吐いた。
サツキナは書簡を畳むと使者に向かって告げた。
「すぐに王と重臣達と検討をして、こちらから使者を送ろう」
「返事は次の満月までにとの事で御座います」
「承知した……。ところで、リエッサ王妃はどなたと結婚されるのだ?」
サツキナは尋ねた。
「アレクナイト侯爵様のご子息様で御座います。」
「アレクナイト侯爵? 聞いた事が無いな……。」
「ブルーナーガの海賊討伐で長らく王都を留守にされておられましたので。アクレナイト侯爵様もそのご子息にも海賊討伐の武勇伝が幾つも御座います。我が国一の勇者であるとリエッサ王妃も褒め称えておられました」
「ブルーナーガか……」
サツキナはそう言って宙を睨む。
漆黒の髪と長い睫毛に縁どられた黒曜石の瞳。大理石の様な滑らかで白い肌。
整った鼻筋と唇。 流石にラブコメの主人公と言うだけあって中々の美人さんである。
だが、何故か頭にちょこんと2本の角が付いている。
サツキナは両手でその角を引っ張ってみる。取れる訳が無い。
「はあああ~」
深いため息を吐き、がっくりと項垂れる。
「何で私が魔族の王女に転生してしまったのか……いくら
サツキナ(峰 沙月)は呟く。
「……これ、何とかならないのかしら?」
何度も角に手をやる。
魔族の中には角の無い魔族もいる。角の無い魔族は
魔族の王女に転生(それも普通に旧)したのも酷いが、自分の父親である魔族の王は何と飯田部長である。
使えない飯田部長。
あの椅子取りゲームでのミケツカミの言葉が蘇る。
近隣の者は亡くなった時に近くにいたから、縁が強い。
ミケツカミは確かそう言った。
だからって、何で飯田部長が私の父親……。
サツキナは前世の記憶をもったままこの異界に転生したのだ。
ふざけんなよ! バカヤロー!と。
そしてこのダンテ・イダロッテ、ブラックフォレスト王国の主は仕事に関しては前世と同じテキトー極まりない人であった。
王妃であるサツキナの母サリー王妃は病弱で、サツキナが10歳の時に亡くなってしまった。今から7年前の事である。
サツキナ17歳。
まさに青春真っただ中の王女(しかし魔族)である。
王の代理で政務に追われる日々。私の青春を返せとブチ切れたいサツキナであった。
そんな風に自分の人生についてぶつくさと文句を言っていると、こんこんとドアをノックする音が聞こえた。
「サツキナ様」
従者オダッチの声である。
「入れ」
サツキナは声を掛ける。
入って来たのはロン毛を後ろで縛った若者だった。
(カメラマンの小田が転生したのだが、前世の記憶が無い。転生先ではサツキナの忠実な従者となっている。一応、剣の達人という設定である)
オダッチには角は無い。
「イエローフォレストからの使者が参っております」
オダッチは言った。
「父上は?」
「ロロ湿地に釣りにお出かけになられたかと」
「また!?」
サツキナは驚く。
「昨日も釣りに行ったじゃ無いの!」
「はあ、しかし朝早くからお出かけになられて……」
「じゃあ、ロキは?」
サツキナは2歳下の弟について尋ねる。
「ロキ様もご一緒に」
サツキナは思わずくらりと眩暈がした。
「だ、大丈夫ですか?サツキナ様」
オダッチが慌てて支える。
「……大丈夫だ。しかし、親子揃って釣りバカ日記とは」
サツキナはちっと舌打ちをすると、どすどすと足音を立てて部屋を出て行く。両手でドレスを持ち上げ大股で歩くサツキナの後ろから従者オダッチが小走りで付いて行く。
「使者は誰?」
「いつものフロレス武官で御座います」
サツキナは謁見の間に行くとどさりと音を立てて椅子に座った。
「イエローフォレスト王国の使者、フロレス殿。遠い所をご苦労であった。だが、生憎父王は不在故、私サツキナが要件を承る」
サツキナがそう言うと、フロレスは深く頭を下げた。
「ブラックフォレスト王女、サツキナ姫。ご機嫌麗しゅう」
低頭しながら頭の上に手紙を入れた筒を差し上げた。
「イエローフォレスト王妃、リエッサ様からの書簡で御座います」
脇に控えたオダッチがその筒を持ってサツキナに渡した。
サツキナはその手紙を読んで驚いた。
「リエッサ王妃は前夫ジョレス国王が亡くなられてから、まだ2年も過ぎていないのだが、再婚なさるのか?」
(マジで?)
「はい」
「しかし、喪に服すのは3年間と言う」
「リエッサ王妃はイエローフォレストの安全と発展の為にご結婚をなさるお積りなので御座います」
「……」
(嘘をつけ)
注;()は心の声。
「リエッサ王妃は婚姻の為の特別税を課すとな? これ以上の重税は我がブラックフォレスト国の民に飢え死にしろと言っているのと同じだ。これは到底飲めぬ」
サツキナは言った。
使者は低頭したまま答えた。
「特別税で御座いますれば、一時的な税であろうと」
「一時的であっても、この金額は無理だ。800万ビルドなどどう考えたって、無理に決まっておる」
「それを拒否するなら魔族討伐の為の軍を派遣すると王妃は言っておられました」
「くっ……」
サツキナは唇を噛む。
使者は頭を垂れたままだ。
サツキナは額に手をやり、眉間に皺を寄せて考える。
(リエッサ王妃。死んでくれないかしら)
ふうっと息を吐いた。
サツキナは書簡を畳むと使者に向かって告げた。
「すぐに王と重臣達と検討をして、こちらから使者を送ろう」
「返事は次の満月までにとの事で御座います」
「承知した……。ところで、リエッサ王妃はどなたと結婚されるのだ?」
サツキナは尋ねた。
「アレクナイト侯爵様のご子息様で御座います。」
「アレクナイト侯爵? 聞いた事が無いな……。」
「ブルーナーガの海賊討伐で長らく王都を留守にされておられましたので。アクレナイト侯爵様もそのご子息にも海賊討伐の武勇伝が幾つも御座います。我が国一の勇者であるとリエッサ王妃も褒め称えておられました」
「ブルーナーガか……」
サツキナはそう言って宙を睨む。