大崎リエという女 2

文字数 1,515文字

秘書はリエの隣に立つ。
リエは秘書に寄り添い、その腕を絡ませる。
彼はそっとその手を外す。
「いいじゃない。少しぐらい」
リエは腕にしがみ付く。
「困ります」
「ちょっと、場の空気を読みなさいよ。私に恥をかかせるの?」
リエが睨む。
「いい感じっすね。アツアツのカップルみたいです。美男美女で、それこそモデルなんか必要ないっすよ。お二人が出演すればいいんじゃないですかねえ?」
能天気な小田が言う。
私は小田を蹴飛ばしてやりたくなる。
「セレブな夫婦そのものって感じですよ」
そう言いながら写真を撮る。
「あっ、失礼。山田さん、ご結婚されていました?」
小田は尋ねる。
「いや、まだ。でも婚約者がいます」
秘書はそう言って私を見る。
「えっ、そうなんですか?」
アホなカメラマンは驚く。
「そりゃあ、ちょっとこんな写真は見せられないですね。嫉妬されちゃう。結婚、駄目になってしまうかも知れませんものね」
大崎リエはふふふと笑って秘書を見上げる。
「あなたが結婚したら早速送り付けてやるわよ。まあ、その女も幸せなのは今の内ね。絶対にダメになるから。それは私が保証するわ」
そう言うとすたすたと部屋に戻った。
「下に行くわよ」
そう言いながら小田から受け取ったスマホでさっき秘書と撮った写真を確認している。
「済みません。副社長。ちょっと待ってください」
秘書はそう言うと私と小田を招いた。
「折角だから小田さんと峰さんも一緒に撮りましょう。副社長、申し訳が無いのですが、私達3人を撮って頂けますか?」
「何で私があなた達を撮らなくちゃならないのよ」
リエは呆れた様に言った。
小田は慌てて「あ、じゃあ僕が撮ります」と言った。
「山田さん、スマホ貸してください」
秘書は胸ポケットからスマホを取り出すと小田に差し出した。
「じゃあ、宜しく。次に私が小田さんと峰さんを撮ります」
「峰さん。どうぞこちらへ」
秘書が笑顔で手招きをした。

私は副社長の顔をちらりと見る。
彼女は不満げに私を見ていたがつんと顔を背けた。
その態度に「ガキか」と思う。
「じゃあ、折角だから、撮って頂こうかしら。副社長、宜しいでしょうか?一枚だけ。こんな素敵な場所で写真なんてもう二度と無いと思いますので」
私はそう言って頭を下げた。
「そうね。あなたには縁の無い世界よね。まあ、一生の思い出かしら? 仕方ないわね。早くしなさいよね」
そう言って腹立たし気に私を見る。
私は「有難う御座います」と言って、秘書の隣に立つ。
「ちょっと、何で山田と一緒に撮るのよ」
副社長は言った。
「記念です。記念。小田さん。早く撮って」
秘書はせかす。
秘書の腕が私の体を引き寄せた。
「もっと傍に立って。……、沙月、済まない」
そう囁いた。
「仕方が無いよ」
私は呟く。

「あれ、なんか、いいっすねえ。ちょっとお似合いじゃ無いですか。峰さん」
小田がそう言って何枚か写真を撮る。
「一枚って言ったでしょう!」
リエが鋭く言う。
「ちょっと、睨んでいるよ」
私は秘書に囁く。
「これ以上は仕事に差し支える」
そう言うと、「小田君、こっちへ来て。一緒に撮ろう」と小田を招いた。
「峰さんと撮っても面白く無いからいいっすよ」と小田は返した。
「ちょっと早くしなさいよ。山田、行くわよ。仕事に来たのよ。遊びじゃ無いんだから」
副社長は彼を睨んでそう言うとバックとヘルメットを持って歩き出した。
私の事はわざと無視している。
「はい。申し訳有りません」
秘書はそう言うと、ふっと笑って私を見る。私もふふっと笑う。
「山田!」
リエの鋭い声がする。
「只今」秘書はヘルメットを被るとそう言って後を追う。
私達も「申し訳が有りません」と言って後を追う。
「こえ~」
ぼそりと小田が言った。
「こりゃ、ボスに苦情が来るな」と付け加えた。
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