第4話 ギタリストのミケ15歳(山オーディション優勝者)

文字数 1,793文字

 わたしはギターをミカナのドラムに合わせる。
 ブー子の即興(そっきょう)のピアノに、不思議なグルーヴ感が加わり、きつねのばかしの術よりより重厚な()()が生まれる。

「いいよっ!ミケ!」
 ブー子が言う。ミカナもウィンクしてくれた。トオルはまだ準備中でチェロを構えようとしていた。

 私はミケ。一応15歳の中学生だ。私はギター教室に6歳から通っていた。

 ネコ科だが、小さな頃から家にギターがあって先生について習っていた。大きくなるにつれて、ギターの魅力に取り()かれた。ただ、私の感覚と会う演奏者に出会ったことは、山のオーディションに参加するまではなかった。

「はい、14歳のミケさん!優勝でございますっ!」

 さとこエンタープライズのさとこ社長に名前を呼ばれたとき、わたしは震えた。人に完璧に化けられるだけでなく、楽器もプロとしてやっていける可能性があると、わたしは評価されたのだ。そう、山をあげてのオーディションで、私は勝ち上がった。
 近隣の山々だけでなく、日本全国から我こそはと思う獣たちが集まっての世紀の一大イベントだった。優勝したのも最高だったが、もう一つ、忘れ難い感動があった。

「あれ、最高だ!」

 ブー子と初めて合わせてみた時に、身震(みぶる)いした感動が忘れられない。
 そして、その感動は練習している時も、しょっちゅう味わうことができた。

 私のギターとブー子のキーボードやピアノの音はなぜかピッタリハマった。それにドイツ育ちの人科(ひとか)のミカナのドラムが加わる。

 オーストラリア育ちの人科(ひとか)のトオルのチェロが加わり、一層の不思議な音源になる。私は内心、動物的なグルーヴ感だと思う。

「おはよう!」
「ミケ、おはよう!」
「オッス、ミケ!」
「ミケ!今晩の生放送出るんでしょ?楽しみにしているからね。」
 中学3年生の私は、人に化けて毎朝普通の15歳と同じく中学に通っていた。学校中のみんながわたしがバンドを組んでいることを知っている。わたしは1日の大半を女子中学生として生活する。そしてときどき、プロとしてテレビにも出るし、コンサートにも出演する。

 わたしは、人科の男の子が普通に気になる。でも、私の恋は決して成就(じょうじゅ)しない。

「ミケ!あんた今、3ーAの男子にラブレターもらったでしょう?」
「もらったけど。でも、うちは当分彼氏は要らないから。」
「本当に?」
「うん、本当。興味がない。」
 わたしはうまく自分の気持ちを隠している。

 今年に入って告白された数は余裕で100回を超えた。中学や高校生の人科(ひとか)男子からのものだ。ファンレターのようなものだと思うことにしている。

 でも、わたしの正体は決してあかせない。私の恋は決して成就しないのだから。そういうのを『ミプロトルス恋』というらしい。その昔から、決して成就しない恋は、芸術分野では魔力のような人を惹きつける魅力を生み出すらしい。あと、『ミプロトルス恋』という言葉にはもう一つ意味があるらしいが、それが何かはまだわたしは知らない。

 ブー子も、マネージャーのしし丸もさとこ社長も仲間だ。私たちの恋は決して成就(じょうじゅ)しない。その切なさが、ギターにうまく出ていると指摘したのはマネージャーのしし丸だ。

 この切なさがバンドに生きるのであれば、私は報われる。

 高校には行くつもりだ。得意科目の一つは英語だ。

 ミカナがアメリカの大学を狙っているのを私たちメンバー全員は知っている。ならば、私は大陸にわたる猫になろう。ブー子だって、そこは覚悟はできているはずだ。私たちは大陸に渡る獣になるのだ。

 さあ、気合を入れるのだ。この初めてのワールドツアーは何が何でも成功させるのだ。世界唯一の音源を世界のファンに直接届けるのだ。

「私の心はバンドに捧げるよ!」
 わたしは思わずシャウトした。
 他の三人は、いきなりのことにへえ?という反応したが、練習の演奏は続けてくれた。

 そこへ、ブー子が私たちのバンドの歌を弾き始め、歌を歌い出した。ドラムのミカナが声を合わせ、チェロのトオルが低い声で合わせ始める。さとこ社長の声が隣の部屋から合流した。

 15歳の女子中学生の姿をしたネコ科の切ない私の声が合わさる。ほら、不思議なグルーヴ感が生まれた。

 私たちはときおり、目をつぶって演奏しながら、音を合わせていく。

 ガールズバンド「ミッチェリアル」の声が山間(やまあい)に響く。出国前の最終音合(さいしゅうおとあ)わせは夜まで続いた。

 私の心はこのバンドに捧げるのだ!
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