第19話 人科の自分を恥じる(メロン)

文字数 1,911文字

 
「あかん、きゅうり、こない散らかしてもうて。」
「片付づけといてあげましょ。」

 わたしは声で目が覚めた。ここはどこだ?
 明るい日差しが窓からさしこんで、真っ白い壁にはキラキラと陽光が跳ねている。豪華な部屋だ。

 あ、そうか。ブー子と同じホテルの部屋で寝たんだ。

 私がゆっくりと目を動かすと、タヌキとキツネがぶつぶつ言いながら、わたしが昨晩散らかしたテーブルの上をいそいそと片づけていた。

「そうか。きゅうり、荷物ないな。下着とか着替えとかそろえてあげないかんかった。」
「あと、お小遣いをお渡ししたほうが良いですよね。お財布を取りあげてしまいましたから。」

「財布か。明日まではお小遣いを渡して、様子見て。ほいで大丈夫そうやったら、財布を返してあげようか。」

 タヌキときつねはいそいそと私が散らかしたものを片づけて、なんとテーブルの上まで除菌シートのようなもので拭いている。さらに、わたしが床に散らかしてしまった服までハンガーにかけていた。

 椅子の上に置いていた服が、床にだらしなくずり落ちたらしい。

 わたしは昨晩シャワーを浴びてホテルのバスローブを着て寝てしまった。下着は手で洗って、干していた。干すところに迷ったので、クローゼットからハンガーを出してきて、それにかけてこれまた椅子にかけていたのが、無惨(むざん)に床に落ちていた。

 悲鳴をあげたくなった。

 きつねさまとたぬきさまに、わたしの下着を!?

「お、お、おはようございます!」
 わたしは大声を出した。寝起きなのでいまいち声がかすれてはいるが、声は出た。

「ああ、おはよう。」
 さとこさんがタヌキ姿で言った。

「あんた、片づけ苦手やろ?あかんでー。」
 そう言いながらテキパキと片づけてくれている。

 ブー子もきつね姿でいそいそと動き回っている。

「そうですよ。ダメっちゃ。ちゃーんとしな。」

 山言葉を解禁(かいきん)してくれたのは、気を許してくれた証拠でとても嬉しかったが、わたしはダメだしされてとても恥ずかしかった。

「うちらは綺麗好きなんよ。ほら、毛。これ落ちていたら、あかんやろ?そやから早起きしてベッドとか全部綺麗にするんよ。」

 コロコロローラーを振りながら、さと子さんがタヌキ姿で言った。

 ブー子が寝ていたベッドを見ると、もう綺麗に整えられていた。

 洗面所からミケが顔を出した。
 もうツインテールをした十五歳の女子中学生のミケになっている。

「下着はこっちに。」
 そう言いながら、わたしがハンガーにかけていた下着をブー子から受け取って、洗面所の方に持ってテキパキとした動作で持って行った。

 なんと・・・・
 みんな綺麗好き。掃除好き。片づけ好き。
 
 私は人科(ひとか)の自分を恥じた。

 思えば、ブー子が作ってくれた、さと子さんの豪邸で食べた煮物も美味しかった。
 スタジオでの練習前にみんなで食べた味を思い出して、私は料理も及ばないと、人科(ひとか)の自分を恥じた。

「ほら、使っていない新品の下着があるからそれを使って。」

 ブー子はそう言って、ピンク色のレースがついた下着の袋をわたしのところまで持ってきてくれた。ショーツとブラのお揃いのセットだ。

「あ、ありがとうございます!」
「いえ。今まで気づかなくてごめんなさい。」

「あんた、うちに泊まった時も同じのを着たん?気づかなくてごめん。」
 さと子さんもそう言った。

「いや、その、私はまだ疑われていたので。」
 私は恐縮して言った。

「ま、今でも全部疑いが晴れたわけじゃあない。でも、あんたはもううちらと一緒に行動せなあかんし、あんたが悪い人じゃなさそうなのも分かったし。」

「ほら、これはうちのだけど、着れると思う。」
 ブー子は、ブリブリの可愛いアイドル服をわたしに渡してきた。

 わたしはギョッとした。

 スカートなんてはいたことない。それにもろアイドルみたいな服だ。わたしが着たら、頭がおかしい人に見えるのではなかろうか。

「あの、大変ありがたいのですが、わたしにはとても着こなせないと思います。」
 わたしはおそるおそる言った。

「ああ、そや。ブー子。あんたのはアイドル用や。ジーンズとかない?」
 さと子さんが言ってくれた。

「あ、あるよ。」
 これで、無難なTシャツとジーンズを貸してもらえることになった。

 きつねさまの服を!!!
 わたしのテンションは相当上がってしまった。

「今日の午前中は、しし丸の夏休み企画に付き合おうと思ってるんや。あんたも来なさい。」

 さと子さんに言われて、わたしは二つ返事でベッドを飛び出し、すぐさま洗面所に飛び込んで顔を洗って、ブー子にもらった下着をつけてブー子に借りた服に着がえた。

「朝ごはんの後は、動物園に出発じゃ!」

 さと子さんは上機嫌でそう言った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み