第3話 その名は雪うさぎマスク!③

文字数 1,741文字

「ずっと気になってたんだが」

 カツ丼事変も未然に防げたことだし、いい加減にこの最初にして最大の疑問を解消しないと。決してさっきの大きなお友達の件から話を逸らす為ではない。

「あ、もしかして、このマスクの下が気になっちゃいます? 残念ですけど素顔はちょーっとお見せでき——」
「なんで非常階段から現れたんだよ?」

 当の本人はマスクに指をかけていたが、正直そっちに興味はない。
 ヒーローは暴れる怪人の前に「そこまでだ!」の掛け声と共に現れるのが定番だ。
 事実、特撮番組の中だけでなく、実在のご当地ヒーローもそういった登場の仕方をしていると聞く。

 が、ウチのご当地ヒーローは非常階段の扉をドンドンして現れた。リアクションに困るといったらありゃしない。

「そ、そうでした! 非常時! 非常時だから非常階段を駆け上がってきたんですよ!」

 非常時はその階段を下りて避難するんだよ。

 ツッコミつつもヒーローの彼女が非常時と言うのなら、状況はよっぽど深刻なのだろう。だとしたら一般人がとやかく口出ししている場合ではない。

「実は今戦っている怪人が強くてですねー」

 緊張感の欠片もない声。それだけでなんとなく想像がついてしまった。

「わたし、ちょーっとピンチなんですよ。だから、ここで一発逆転できるような秘密兵器を」
「ねぇーよ、そんなもの」
「え?」
「いや、だからねぇーって」
「なんでないんですかー!?」
「逆になんであると思ったんだよ」

 ここ放課後の市立高校であって戦隊ヒーローの武器庫じゃない。仮にもそんな秘密武装があったら相馬自身が真っ先に使っている。この自称ご当地ヒーローを追い出すのに。

「あなた知ってますか! 隣町の立山サンダーバードマンなんて私立高校と提携して敷地内に秘密基地まで建ててもらってるんですよ! ヒーローには隠れ家とガジェットが不可欠なんです!」
「お前、そのノリで目安箱に変身シーンとガジェット作って投函したのか」

 どこの高校か知らんが、ウチにはそんなトチ狂ったことをする金も度胸もない。
 これが市立と私立の格の違いか。別に僻んでいるわけじゃない。授業中に変形合体する校舎なんて、こっちから願い下げだ。

「あれ、もしかして、わたし冷遇されてます?」
「吹き付ける風だけじゃなく、住民からの扱いも冷ややかって」
「おぉー、うまいこと言いますね。ってそうじゃなくて!」

 バンッ! と机に両手を着いて雪うさぎマスクは鼻先がくっつきそうなくらい身を乗り出す。
 その雪見大福(二個入り)のアピールは無自覚でやっているのか。

「わたしだって、フルアーマード雪うさぎフォームとかにチェンジして『うおおおぉぉぉぉぉぉ! これが! 雪うさぎだぁぁぁぁ!』って叫びながら必殺技を撃ったりしたいんですよ!」
「おれだって、お前をフル簀巻(すま)きフォームにして涙目で『うわわぁぁぁ!』って叫ばせながら紐なしバンジーさせてやりてーよ」

 なんならそこにちょうどいい窓がある。ちなみにここは三階だ。

 そもそもだ、フルアーマードフォームだか、ファイナル雪うさぎモードだか知らないが、そういうのは激闘を重ねた末の最終決戦で変身するからこそ胸が熱くなるのだ。ヒーローになって数日で求めるのは気が早い。
 まぁ見たいか見たくないか問われたら、とても少年心をくすぐられるというのが正直な気持ちだが。

 いやいや待て待て、そうじゃないだろ。
 頭と体がどっと疲れた気がする。

 正直もう帰りたい。明日は生徒会の定例会議もあるのに。その会議の為にせっせと目安箱の集計をしていたのに、誰かさんが来てから一向に進んでいない。

 ――ドンドンドン。

 また誰か来たみたいだ。しかも非常階段から。

「すいませーん。怪人サタン・クロースですが、この辺で煙突のある家をご存知ないですか? あと交戦中だった自称ご当地ヒーローを探し——」
「クリスマスはまだ先だ。さっさと地獄に帰れ」

 バタンッ、と相馬は勢いよく扉を閉めた。ついでに鍵もかける。

 この非常階段は早めに撤去した方がよさそうだ。しかし、誰に相談すればいいんだろうか、これ。
 

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          │ To be continued.  〉
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登場人物紹介

ヒーローネーム:雪うさぎマスク

本名:雪之宮 幸(ゆきのみや さち)

年齢:17歳 身長:158 cm(マスクの耳を含めると168 cm)


 自称、結城ヶ丘のご当地ヒーロー、人呼んで雪うさぎマスク!

 その正体はつい最近サイキックパワーに目覚め、そのままご当地ヒーローになった駆け出し少女。昨日からヒーローを始め、コスチューム類は全部自作と指先が器用なことが強み。


 マフラーは逆光の中に立った時、シルエットとしてカッコイイから巻いているが、結城ヶ丘は曇りと雪が多く、そもそも晴れる日自体が稀。そういうわけで憧れの登場シーンにはなかなか恵まれない。


 あと女子から嫉妬されるほどのプロポーションの持ち主。いわゆるボンキュッボン。白いコスチュームから「雪見大福(二個入り)」と比喩される。しかし本人は無自覚で、戦闘時に邪魔になりがちくらいにしか思っていない。

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