第4話 帰ってきたご当地ヒーロー!①
文字数 1,473文字
信じられない光景とは、まさにこのことだ。
朝、登校すべく家を出ると、昨日までアスファルトの見えていた路面が真っ白になっていた。
右を見ても雪。左を見ても雪。前も後ろも雪、雪、雪。
流石は結城ヶ丘。伊達に積雪量だけで有名になってない。
もっとも住民票をもっている相馬にとっては一夜で町がゲレンデになるなんて毎年恒例。朝早くに登校してしまうと、校門前の雪掻きを手伝わされてしまう以外は慣れっこだった。
ところで信じられない光景というのは、このワンナイト雪景色ではない。
「おっと、きちんと右見て左見てしましたか。この雪うさぎマスクさんの目が赤いうちはどんな交通違反も見逃しませんよ」
横断歩道を渡ろうとして、黄色い横断旗に通せん坊された。
そのセリフはランドセルを背負った児童に言うべきではないのか。ちなみに相馬は今年で17歳。めでたく高2である。
さて、目線を上げてみると。
雪景色の中、葉っぱの耳をはやし赤いマスクをした、際どいコスチュームの少女が悠然と立っている。
信じられないというより、信じたくない光景だった。
とりあえずスマホを取り出す。電話のアイコンをタップする。そして110番。あとは発信ボタンを——
「えっちょっと、何してるんです?」
「いや通報した方がいいのかなって。ここ通学路だし」
「不審者じゃありませんよ! 雪うさぎマスクさんはこの町のご当地ヒーローです! さてはあなた、悪の組織の手先ですね!」
叫ぶなり雪うさぎマスクはびしっと相馬を指さす。
あんまり大声を出さないでくれ。この前と違ってここは路上なのだ。通行人にでも見られたら相馬までこの破廉恥バニーの仲間だと誤解を生みかねない。
「誰が悪の尖兵だ。警察でも同じこと言って——」
がしっと音が鳴りそうな勢いで手を掴まれた。
右手でスマホを持つ手を、左手で画面をタップしていた親指をそれぞれ封じられた。
「させませんよ……!」
それは爆弾の起爆スイッチ押そうとしてる怪人にいう台詞だろ。間違っても通報を阻止してるやつが口にするフレーズではない。
くそっ……こいつ、めちゃくちゃ力強い……!
肘まであるグローブに包まれた手指は年頃の少女らしくしゅっとして細いのに、力は万力のごとしだ。指が1ミリも動かない。
だが、雪うさぎマスクは致命的なミスを犯した。
あちらは両手で相馬の右手を封じている。つまりこちらにはまだ左手が残っているのだ。
誰かさんのせいで目安箱の集計が終わらなかった怨みを込めて。
左手で発信ボタンを——
「とぉう!」
——押そうとした瞬間、雪うさぎマスクがダッと雪を蹴って跳んだ。
で、何が起きたかというと。
瞬きする間もなくブーツの両脚が視界に現れた。太腿がスマホに向かう左腕を挟み込む。指が画面に届かない。
ここまで一秒足らず。ツッコミを入れる隙さえ与えぬ早技だ。
ご当地ヒーローの多くはサイキックパワーで身体能力やら腕力脚力が向上しているのだが、にしてもこれは。
「ってうわぁ!」
「あっ、避けてくださいっ」
どうやって!? と心が叫ぶと同時に空中殺法を決めた雪うさぎマスクのボディがダイレクトアタックしてきた。体重の乗った一撃に、ずりっと足裏で雪がえぐれる。身の危険を感じた刹那。
ぼふっ!
相馬は雪うさぎマスクと仲良く新雪に埋もれた。
いや決して仲良くはないが。襟首や袖口から雪が入ってきて冷たい。このままだと制服がびしょびしょになる。
それはそうと。
おいこら、早くそのクッション(比喩)どけてくれ。
この状況、健全な男子高校生にとってはなかなかにピンチである。
朝、登校すべく家を出ると、昨日までアスファルトの見えていた路面が真っ白になっていた。
右を見ても雪。左を見ても雪。前も後ろも雪、雪、雪。
流石は結城ヶ丘。伊達に積雪量だけで有名になってない。
もっとも住民票をもっている相馬にとっては一夜で町がゲレンデになるなんて毎年恒例。朝早くに登校してしまうと、校門前の雪掻きを手伝わされてしまう以外は慣れっこだった。
ところで信じられない光景というのは、このワンナイト雪景色ではない。
「おっと、きちんと右見て左見てしましたか。この雪うさぎマスクさんの目が赤いうちはどんな交通違反も見逃しませんよ」
横断歩道を渡ろうとして、黄色い横断旗に通せん坊された。
そのセリフはランドセルを背負った児童に言うべきではないのか。ちなみに相馬は今年で17歳。めでたく高2である。
さて、目線を上げてみると。
雪景色の中、葉っぱの耳をはやし赤いマスクをした、際どいコスチュームの少女が悠然と立っている。
信じられないというより、信じたくない光景だった。
とりあえずスマホを取り出す。電話のアイコンをタップする。そして110番。あとは発信ボタンを——
「えっちょっと、何してるんです?」
「いや通報した方がいいのかなって。ここ通学路だし」
「不審者じゃありませんよ! 雪うさぎマスクさんはこの町のご当地ヒーローです! さてはあなた、悪の組織の手先ですね!」
叫ぶなり雪うさぎマスクはびしっと相馬を指さす。
あんまり大声を出さないでくれ。この前と違ってここは路上なのだ。通行人にでも見られたら相馬までこの破廉恥バニーの仲間だと誤解を生みかねない。
「誰が悪の尖兵だ。警察でも同じこと言って——」
がしっと音が鳴りそうな勢いで手を掴まれた。
右手でスマホを持つ手を、左手で画面をタップしていた親指をそれぞれ封じられた。
「させませんよ……!」
それは爆弾の起爆スイッチ押そうとしてる怪人にいう台詞だろ。間違っても通報を阻止してるやつが口にするフレーズではない。
くそっ……こいつ、めちゃくちゃ力強い……!
肘まであるグローブに包まれた手指は年頃の少女らしくしゅっとして細いのに、力は万力のごとしだ。指が1ミリも動かない。
だが、雪うさぎマスクは致命的なミスを犯した。
あちらは両手で相馬の右手を封じている。つまりこちらにはまだ左手が残っているのだ。
誰かさんのせいで目安箱の集計が終わらなかった怨みを込めて。
左手で発信ボタンを——
「とぉう!」
——押そうとした瞬間、雪うさぎマスクがダッと雪を蹴って跳んだ。
で、何が起きたかというと。
瞬きする間もなくブーツの両脚が視界に現れた。太腿がスマホに向かう左腕を挟み込む。指が画面に届かない。
ここまで一秒足らず。ツッコミを入れる隙さえ与えぬ早技だ。
ご当地ヒーローの多くはサイキックパワーで身体能力やら腕力脚力が向上しているのだが、にしてもこれは。
「ってうわぁ!」
「あっ、避けてくださいっ」
どうやって!? と心が叫ぶと同時に空中殺法を決めた雪うさぎマスクのボディがダイレクトアタックしてきた。体重の乗った一撃に、ずりっと足裏で雪がえぐれる。身の危険を感じた刹那。
ぼふっ!
相馬は雪うさぎマスクと仲良く新雪に埋もれた。
いや決して仲良くはないが。襟首や袖口から雪が入ってきて冷たい。このままだと制服がびしょびしょになる。
それはそうと。
おいこら、早くそのクッション(比喩)どけてくれ。
この状況、健全な男子高校生にとってはなかなかにピンチである。