第2話 その名は雪うさぎマスク!②

文字数 1,265文字

「あのさ」
「はい、なんです?」

 その雪色のコスチュームが熱に弱かったりしないか不安だが、それとは別に相馬はこのご当地ヒーローの服装に疑問を抱いていた。

「ところどころ露出があるのに、なんで首にマフラー巻いてるんだよ。本末転倒じゃないか」
「なにを言いますか。このマフラーはトレードマークですよ、トレードマーク」

 ふふん、と雪うさぎマスクは得意気に鼻を鳴らす。
 ちょっと、かわ……いや、そこは雪うさぎらしく葉っぱの耳とか赤い木の実の目とかにしないのか。

「想像してみてくださいよ。月明かりをバックに屋根に立って、こう風にばさぁーとすると、もうシルエットだけでちょーカッコいいんですから! これぞまさにヒーローの風格!」

 では、ご覧に入れましょう、と頼んでもないのに手近にあった窓を全開にする。

 堂々とした仁王立ち。腕を組んだ雪うさぎマスクは一足早い冬の風に吹きさらされ、マフラーをなびかせる。
 美しくも力強い勇姿。その立ち姿を見れば、逃げ惑う人々も極悪非道な怪人も目を奪わ——

「……くゅんっ」

 ——れるかもしれない。そのくしゃみがなければ。

 不覚にもかわいいと思ってしまった。
 だが結城ヶ丘の名前を背負って鼻水を垂らされっぱなしなのも嫌なのでポケットティッシュを差し出す。

「それとですね、露出云々とか言いますけど」
「けど?」
「大きいお友達はそーゆーのがないと見てくれないんですよ。もちろん、ちびっ子の声援も励みになりますけど……あっ! いま目を逸らしましたね! 何かやましいことでもあるんですか!」

 黙秘権。黙秘権を行使する。

「黙っても無駄ですよ! わたしの目が赤い内はどんな悪事も許しませんからね! さぁ、大人しく白状しなさい!」

 なるほど、雪うさぎだから目の色は黒じゃなくて赤なのか……っておい、肩つかんでゆするな。
 頭がぐわんぐえあんするし、目の前でその雪見大福(比喩)を揺らすんじゃない! 血圧があがる!

「強情ですね。こうなったら、わたしも奥の手を使いますよ」

 奥の手?

「雪うさぎさんテレフォン、コールアップ!」

 ばっと雪うさぎマスクがロンググローブの左腕を高く掲げる。
 すると手首に装着されたメカメカしいブレスレットがピポパポ、プルルルル、と鳴りだした。というか、それ電話だったのか。

「かつや食堂、応答願います! こちら結城ヶ丘高校生徒会室! 至急カツ丼の出前をお願いします! え、数ですか。そうですね、五十人前くらいあればいけそうです。はい、領収書の宛名は高校で」

「おいバカッ、なにしてくれてんだ⁉︎」
「え?」
「え、じゃねえ! すいません、キャンセル! 番号間違えました、今のキャンセルで!」

 そんな量を食ったら胃袋がはち切れる。しかもあそこのカツ丼、旨いが妙に高いのだ。五十人前なんて頼まれたら明日から借金生活だ。
 自らの胃と財布を守る為、相馬はブレスレットの腕を掴んで叫んだ。


           ________|\
          │ To be continued.  〉
            ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ヒーローネーム:雪うさぎマスク

本名:雪之宮 幸(ゆきのみや さち)

年齢:17歳 身長:158 cm(マスクの耳を含めると168 cm)


 自称、結城ヶ丘のご当地ヒーロー、人呼んで雪うさぎマスク!

 その正体はつい最近サイキックパワーに目覚め、そのままご当地ヒーローになった駆け出し少女。昨日からヒーローを始め、コスチューム類は全部自作と指先が器用なことが強み。


 マフラーは逆光の中に立った時、シルエットとしてカッコイイから巻いているが、結城ヶ丘は曇りと雪が多く、そもそも晴れる日自体が稀。そういうわけで憧れの登場シーンにはなかなか恵まれない。


 あと女子から嫉妬されるほどのプロポーションの持ち主。いわゆるボンキュッボン。白いコスチュームから「雪見大福(二個入り)」と比喩される。しかし本人は無自覚で、戦闘時に邪魔になりがちくらいにしか思っていない。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み