第7話 今視えている日常 7
文字数 3,010文字
「慶! 今日お姉ちゃん早く学校行かないといけないから、先に行くよ! 食べ終わったお皿はシンクの中に入れておくだけで良いから!」
今日は全校集会だから、統括会の私は、他の生徒よりも少し早い目に学校へ行って、段取りを済ませないといけない。
もちろんその中に、原稿を渡すというものもある。あ、それと
「後、お弁当テーブルの上に置いてあるから、忘れずに持って行きなよ」
ちゃんと言っておかないと、自分で忘れて文句を言われるのは私なのだ。
「分かったから早く行けよ!」
自分がいつも文句を言うくせに、私にはあの態度である。
本当なら、文句の一つでも言い返してやりたいところだけど、なんせ今日は時間が
押してる。だから、言いたい文句を喉の奥に流し込んで
「じゃあ、お姉ちゃん行くから」
そのまま家を出る。
いつもよりも結構早く家を出たおかげで、思ったよりも早く学校に到着した私は、一旦教室に向かう。そのままクラスの何人かとすれ違いざまにあいさつを交わしながら、自分の席へと向かう。
「おはよう実祝 さん」
そして、いつもより早い目に教室についたにもかかわらず、実祝さんがもう教室にいて机の上に文庫本を広げていた。
「おはよう愛美。今日は全校集会?」
文庫本から顔を上げて、私を認めるなりすぐに合点がいったのか確認をしてくる。
「うん。今日はそのための早めの登校。全校集会の段取りと、統括会で読み上げる原稿も渡さないといけないから」
机の横にカバンをひっかけて、中から昨日書き上げた原稿用紙を取り出しながら返事をする。
「道理で、愛美が早いわけ」
まあ家の事やら、弁当の事やらがあるから、普段の私はそれほど学校に来るのは早くはない。それにしても、
「実祝さん朝、来るの早いもんね」
少し時間がある事を確認して、実祝さんと会話を始める。
「まあ、家に居てもやる事ないし」
私の問いにあまり表情を変えずに、一見そっけなさそうに答える実祝さん。
朝くらい家でのんびりしてても良いと思うんだけど、学校でのんびりした方が遅刻の心配とかしなくていいのかも知れない。
「……愛美?」
何ともなしに考えていると、実祝さんの顔を見ていた自分に気が付き
「あ、ご、ごめんね? 実祝さん綺麗だから」
私も何を言い出してるんだか。ちょっとおかしなことを言い出す。
まあでも実際、実祝さんはとてもきれいだと思う。可愛いんじゃなくて綺麗。身長も私より10センチ近く身長もあるから、着る服によっては、カッコイイ女性にもなれそうな気がする。
「なら、あたしのお嫁さん、なる?」
綺麗な実祝さんのお嫁さんかぁ。と言う事は私が女性役で実祝さんが男性役……
それはそれで……いやいやいや
「それで、あたしは毎日愛美のご飯を食べる」
って。目的はゴハンなのか。ちょっと私の乙女心を返して欲しい。
いやでもそれはそれで女冥利なのか。自分でもよくわからなくなってきたから
「朝は教室で本読んでるんだ」
せっかくだから、みんなと話をすればいいのにな、と思いながら話題を変える。
「朝の教室は騒がしいから、勉強するには不都合。それにテストの結果を見て復習する」
私の意図に気が付いているのかどうかは分からないけど“教室のみんなと喋る”と言う選択は無かったみたいで、もっぱら机に向かう事を前提とした返事が返ってくる。
「あたしは、みんなみたいに話題が多くない。多分あたしと会話しても面白くないと思う。それに、姫って柄でもないし」
やっぱり私の意図に気付いていたのか、そんな実祝さんに対して
「そうかな? 私は実祝さんとしゃべるの楽しいよ?」
私の素直な感想を口にする。そんな私の言葉に、
「愛美。ありがとう」
実祝さんが小さく笑顔を浮かべる。
「今みたいな実祝さんを知ってもらえれば、クラスの人達のイメージも変わると思うんだけどなぁ」
実祝さんは、もともとあんまりしゃべる人じゃない。もちろん喋りかけると今みたいに普通に返してくれるし、退屈と言う事もない。
ただ、言葉が少し少ないのと元々寡黙な人なので、あんまりクラスでも実祝さんに話しかけようとする人はいない。
そんな容姿と寡黙なのも合わさっていつの間にか“姫”なんて一部では呼ばれるようになっている。
もっとも、実祝さん本人は納得いってないから、昨日の蒼ちゃんみたいにうっかり
“姫”なんて呼ぼうとすると、あんまりよろしくない。
こういう実祝さんを知って貰えないまま“とっつきにくい”“何考えてるのか分かりにくい”印象で敬遠されているのは、実祝さんとも喋る私からすると、もどかしい。
「愛美が分かってくれていれば、不都合はない」
平坦な声で言い切る実祝さん。あーなんかもやもやする。
そんな私の態度に、自分の手首を人差し指で刺しながら
「愛美、時間」
気づけば結構話し込んでいた私は、返事をするまもなく一度部活棟の3階役員室へと向かう。
「おはようございます」
私が最後ではなかったけど、総務一人を除いて揃っていた。
「それと空木 君。はい、例の原稿」
と呼べるほどでもない紙1枚を空木君に渡そうとしたのだけれど、
「俺が読み上げる事になるから、俺が直接受け取っても良いかな?」
横から会長の手が伸びてくる。
少しびっくりしながら、空木君に渡すつもりだった原稿を会長に渡してしまう。
「岡本さんの原稿は、字も綺麗で良くまとまっているから、いつも読みやすいよ。ありがとう」
それを流し読みだけした会長が、感想を述べる。
「いえ、簡単で短い文章しか書いてないですし、多分2~3分くらいの文章のはずですよ」
そんなたいそうなもんでもないと思うんだけれど。
そんな感想を持ちながら、
「じゃあ私たちは先に体育館に行っちゃいましょうか」
総務の子も揃ったところで、統括会メンバー全員で体育館へと向かう。
先に体育館で壇上のマイクのテストなども済ませて、壇上のソデの端にある統括会専用の椅子に、檀上中央から外に向かって、会長・副会長・議長・書記・総務の順で座って待っていると、3年から順に入館してくる。
そんなみんなを見るともなしに見ていると、蒼ちゃんと目が合って
「……」
蒼ちゃんが自分の太もも辺りをスカートの上から突っつくように指をさして
――ああ、言わんとしている事が分かり、
「――」
足を意識して閉じる。いや、足をそんなに広げて座るなんてことしてないよ。それは女の子としてもどうかと思うし。
それを差し引いたとしても、校則よりかは気持ち長めのスカートにしてるから見える事は無いと思うんだけど。
そんな事を考えていると、この前の蒼ちゃんの会話じゃないけど、男子の視線も頭をよぎるけど、あまり考えると恥ずかしくなりそうだったから、考えるのをやめる。
その後、2年・1年と入館してくるのを見ていると、1年生か、2年生なのか、の中で少し派手な子に目が留まる。髪の毛も染まっているように見えるし、スカートも短い。
あそこまで短いのは私には穿けないなとその子の事を何となく目で追っていると、
「……」
一瞬目が合ったような気がしたけど、
「――」
見間違いなのか、次に見た時にはもう何事もなかったかのように残りの1年も体育館での整列が終わって、静かになったところで全校集会が始まる。
そんな全校集会も、校長先生・教頭先生の話の後、学校全体の連絡事項・統括会からの話と続いて全校集会は終わった。
今日は全校集会だから、統括会の私は、他の生徒よりも少し早い目に学校へ行って、段取りを済ませないといけない。
もちろんその中に、原稿を渡すというものもある。あ、それと
「後、お弁当テーブルの上に置いてあるから、忘れずに持って行きなよ」
ちゃんと言っておかないと、自分で忘れて文句を言われるのは私なのだ。
「分かったから早く行けよ!」
自分がいつも文句を言うくせに、私にはあの態度である。
本当なら、文句の一つでも言い返してやりたいところだけど、なんせ今日は時間が
押してる。だから、言いたい文句を喉の奥に流し込んで
「じゃあ、お姉ちゃん行くから」
そのまま家を出る。
いつもよりも結構早く家を出たおかげで、思ったよりも早く学校に到着した私は、一旦教室に向かう。そのままクラスの何人かとすれ違いざまにあいさつを交わしながら、自分の席へと向かう。
「おはよう
そして、いつもより早い目に教室についたにもかかわらず、実祝さんがもう教室にいて机の上に文庫本を広げていた。
「おはよう愛美。今日は全校集会?」
文庫本から顔を上げて、私を認めるなりすぐに合点がいったのか確認をしてくる。
「うん。今日はそのための早めの登校。全校集会の段取りと、統括会で読み上げる原稿も渡さないといけないから」
机の横にカバンをひっかけて、中から昨日書き上げた原稿用紙を取り出しながら返事をする。
「道理で、愛美が早いわけ」
まあ家の事やら、弁当の事やらがあるから、普段の私はそれほど学校に来るのは早くはない。それにしても、
「実祝さん朝、来るの早いもんね」
少し時間がある事を確認して、実祝さんと会話を始める。
「まあ、家に居てもやる事ないし」
私の問いにあまり表情を変えずに、一見そっけなさそうに答える実祝さん。
朝くらい家でのんびりしてても良いと思うんだけど、学校でのんびりした方が遅刻の心配とかしなくていいのかも知れない。
「……愛美?」
何ともなしに考えていると、実祝さんの顔を見ていた自分に気が付き
「あ、ご、ごめんね? 実祝さん綺麗だから」
私も何を言い出してるんだか。ちょっとおかしなことを言い出す。
まあでも実際、実祝さんはとてもきれいだと思う。可愛いんじゃなくて綺麗。身長も私より10センチ近く身長もあるから、着る服によっては、カッコイイ女性にもなれそうな気がする。
「なら、あたしのお嫁さん、なる?」
綺麗な実祝さんのお嫁さんかぁ。と言う事は私が女性役で実祝さんが男性役……
それはそれで……いやいやいや
「それで、あたしは毎日愛美のご飯を食べる」
って。目的はゴハンなのか。ちょっと私の乙女心を返して欲しい。
いやでもそれはそれで女冥利なのか。自分でもよくわからなくなってきたから
「朝は教室で本読んでるんだ」
せっかくだから、みんなと話をすればいいのにな、と思いながら話題を変える。
「朝の教室は騒がしいから、勉強するには不都合。それにテストの結果を見て復習する」
私の意図に気が付いているのかどうかは分からないけど“教室のみんなと喋る”と言う選択は無かったみたいで、もっぱら机に向かう事を前提とした返事が返ってくる。
「あたしは、みんなみたいに話題が多くない。多分あたしと会話しても面白くないと思う。それに、姫って柄でもないし」
やっぱり私の意図に気付いていたのか、そんな実祝さんに対して
「そうかな? 私は実祝さんとしゃべるの楽しいよ?」
私の素直な感想を口にする。そんな私の言葉に、
「愛美。ありがとう」
実祝さんが小さく笑顔を浮かべる。
「今みたいな実祝さんを知ってもらえれば、クラスの人達のイメージも変わると思うんだけどなぁ」
実祝さんは、もともとあんまりしゃべる人じゃない。もちろん喋りかけると今みたいに普通に返してくれるし、退屈と言う事もない。
ただ、言葉が少し少ないのと元々寡黙な人なので、あんまりクラスでも実祝さんに話しかけようとする人はいない。
そんな容姿と寡黙なのも合わさっていつの間にか“姫”なんて一部では呼ばれるようになっている。
もっとも、実祝さん本人は納得いってないから、昨日の蒼ちゃんみたいにうっかり
“姫”なんて呼ぼうとすると、あんまりよろしくない。
こういう実祝さんを知って貰えないまま“とっつきにくい”“何考えてるのか分かりにくい”印象で敬遠されているのは、実祝さんとも喋る私からすると、もどかしい。
「愛美が分かってくれていれば、不都合はない」
平坦な声で言い切る実祝さん。あーなんかもやもやする。
そんな私の態度に、自分の手首を人差し指で刺しながら
「愛美、時間」
気づけば結構話し込んでいた私は、返事をするまもなく一度部活棟の3階役員室へと向かう。
「おはようございます」
私が最後ではなかったけど、総務一人を除いて揃っていた。
「それと
と呼べるほどでもない紙1枚を空木君に渡そうとしたのだけれど、
「俺が読み上げる事になるから、俺が直接受け取っても良いかな?」
横から会長の手が伸びてくる。
少しびっくりしながら、空木君に渡すつもりだった原稿を会長に渡してしまう。
「岡本さんの原稿は、字も綺麗で良くまとまっているから、いつも読みやすいよ。ありがとう」
それを流し読みだけした会長が、感想を述べる。
「いえ、簡単で短い文章しか書いてないですし、多分2~3分くらいの文章のはずですよ」
そんなたいそうなもんでもないと思うんだけれど。
そんな感想を持ちながら、
「じゃあ私たちは先に体育館に行っちゃいましょうか」
総務の子も揃ったところで、統括会メンバー全員で体育館へと向かう。
先に体育館で壇上のマイクのテストなども済ませて、壇上のソデの端にある統括会専用の椅子に、檀上中央から外に向かって、会長・副会長・議長・書記・総務の順で座って待っていると、3年から順に入館してくる。
そんなみんなを見るともなしに見ていると、蒼ちゃんと目が合って
「……」
蒼ちゃんが自分の太もも辺りをスカートの上から突っつくように指をさして
――ああ、言わんとしている事が分かり、
「――」
足を意識して閉じる。いや、足をそんなに広げて座るなんてことしてないよ。それは女の子としてもどうかと思うし。
それを差し引いたとしても、校則よりかは気持ち長めのスカートにしてるから見える事は無いと思うんだけど。
そんな事を考えていると、この前の蒼ちゃんの会話じゃないけど、男子の視線も頭をよぎるけど、あまり考えると恥ずかしくなりそうだったから、考えるのをやめる。
その後、2年・1年と入館してくるのを見ていると、1年生か、2年生なのか、の中で少し派手な子に目が留まる。髪の毛も染まっているように見えるし、スカートも短い。
あそこまで短いのは私には穿けないなとその子の事を何となく目で追っていると、
「……」
一瞬目が合ったような気がしたけど、
「――」
見間違いなのか、次に見た時にはもう何事もなかったかのように残りの1年も体育館での整列が終わって、静かになったところで全校集会が始まる。
そんな全校集会も、校長先生・教頭先生の話の後、学校全体の連絡事項・統括会からの話と続いて全校集会は終わった。