第8話  今視えている日常 終

文字数 3,183文字

 そんな全校集会も終わり、一部のテストの返却も終わった昼休み。
 私がお弁当を広げようとしたところへ、
「愛ちゃん一緒に食堂行こうよ」
 すぐに私の所へお昼の誘いをかけてくる蒼ちゃん。
 その後ろに、実祝さんの姿もあったけど、蒼ちゃんを一瞥して、別に遠慮する事無いのにそのまま教室から出ていく。それを見送ってから
「私お弁当だけどいい?」
「食堂でお弁当食べてる人もいるから大丈夫だよ」
 最近半ば食堂でお弁当を食べるのが当たり前になりつつある。

 食堂で蒼ちゃんが食券を買っている間に、私は空席を探していると、実祝さんがやっぱり一人で、お昼をしようとしていたから、少し迷ったのだけれど
「実祝さんも声かけてくれればよかったのに」
 蒼ちゃんの分の水をトレイに合わせて載せて実祝さんの近くの空いていた席に座る。
「あれ? (つつみ)さんは?」
 さっき見ていたからだろうけど、実祝さんが蒼ちゃんの事を気にする。
「蒼ちゃんは今あっち」
 そう言って、食券と受け取りカウンターの辺りに視線を送る。
(つつみ)さん大丈夫?」
 そんな蒼ちゃんの姿を確認して再度聞いてくる。私は実祝さんが何を言いたいのか察しながら
「何が?」
 分からないふりをする。そんな私の姿に、少し不服そうに
「分かってるのにそう言うの良くない」
 抗議気味に反論してくる。こういうの上手く伝えられたら、もっと実祝さんの事伝わると思うんだけど。そう思いながら大丈夫だって事を実祝さんに伝える。
「大丈夫だよ。蒼ちゃん、実祝さんの事“嫌い”とは言ってないもん」
「嫌とは言って無くても――」
 実祝さんが何かを言いかけたところで、蒼ちゃんがきょろきょろし始めたのが見えたから、蒼ちゃんに場所を伝えるために、小さく手を上げて、ひらひらと手を振る。
 それを見てこちらへ来ようとした蒼ちゃんの足が一瞬止まるも、こっちへ来る。
「愛ちゃんお待たせ。それと夕摘(ゆうづみ)さんも」
 そう言って、私の横に少しおっかなびっくり腰を落ち着ける。
 蒼ちゃんもそこまでおっかなびっくりにならなくても良いのに。

「愛美、試験どうだった?」
 蒼ちゃんもお昼するのを見届けた後、私に確認してくる。
「う~ん。可もなく不可もなくかな。多分昼からの分も変わりないと思う」
 今日帰ってくるのは多分大半が文系科目だから。そんな私の反応に満足したのか
「今日の分は概ね満足。昼からのは返って来てないから分からないけど」
 なんかとても満足そうにしている。
 私はどちらかと言うと、理系科目の方が得意で、文系科目の方にちょっと抵抗を感じる。なんか男子は理系科目・女子は文科系科目の方が脳の造り的にはあっているらしいけど私はあんまり信用していない。だって私女子だもの。
「愛ちゃんの可もなく不可もなくって、どうせ90点とかそんなんでしょ?」
 気が付けば蒼ちゃんが少しやさぐれている。
「あのテストくらい、そんなに難しくない」
 そんな蒼ちゃんに、いつも通りの返しをする実祝さん。
「でもでも、蒼ちゃんも赤点じゃないんだよね」
 またへこみそうになる蒼ちゃんにフォローを入れる。
「なんか蒼依だけ話のレベルが違う気がする」
 なんかますます落ち込んでいく蒼ちゃん。得意科目もちゃんとあるんだからそこまで落ち込まなくても良いのにとは思う。
 そんな蒼ちゃんを見かねたのか
「文系科目なんて、本読んで、新聞読んでいれば問題なんてない」
 多分フォローしようとしたんだとは思うんだけど
「……」
 すっかり意気消沈と言う感じになってしまった。
 そんな蒼ちゃんの姿を見て、実祝さんがこっちに助けみたいなのを求めてくる。
 この今の実祝さんを見て欲しいけど、意気消沈している蒼ちゃんはうつむき加減でゴハンを食べてる。
 どうせなら3人とも楽しく食べて欲しいというのもあるから、
「赤点じゃなければ追試もないし、悪くないと思うんだけどな」
 蒼ちゃんに声をかけると、俯けたまま器用に私の方に顔だけ向けて
「ホントにそう思う?」
 私にはおそらくできないであろう、可愛い表情をしながら聞いてくるから
「それに、蒼ちゃんには家庭科では逆立ちしても勝てた(ためし)もないしね」
 こういう時は蒼ちゃんの得意科目で攻めるのが、一番いい。
 実際家庭科科目なら、裁縫だってなんだってできる。
「愛ちゃんがそう言ってくれるなら」
 そう言って沈めていた顔を再び恐る恐る上げる。
 そんな私たちのやり取りを見てた実祝さんが一言
「見事」
 その一言で、空気が少し和らいだ気がした。
「じゃあそろそろ食べてしまおっか」
 時間を見ると昼休みも半分終わってしまっていた。


 午後の授業もつつがなく終わり、終礼も追えた放課後、
「蒼ちゃん今日はもう帰るの?」
 少し駆け足気味に変える準備をしている蒼ちゃんに声をかけると
「今日は新しいお菓子作りをしようかと思って」
 これまた何とも、女子力高い理由が返ってくる。
「最近クッキーとかしか作ってなかったから、一口で食べられる別の物も作ろうかと思って」
「私が蒼ちゃんをお嫁さんに欲しいくらいだよ」
 思わず昨日のやり取りの再現をしてしまう。
「またちゃんとできたら、愛ちゃんと慶久(のりひさ)君にもあげるから」
 それだけを残して、さっさと教室から出て行ってしまう。
 それを見送ってから、
「愛美。お菓子作れる娘が好き?」
 いや、それだと私が女の子好きみたいに聞こえるんじゃないかと思うんだけれど。
 私、ノーマルなのにとも思ったけど、
「いやいや、蒼ちゃんの作るお菓子ほんとに美味しくって、私の弟も蒼ちゃんのお菓子気に入っててさ」
 蒼ちゃんのお菓子って、そう言えばこの学校では家庭科でお菓子やら調理実習は無かったなって思いながら蒼ちゃんの宣伝をする。
 ところが別の所に引っかかったのか、
「愛美弟いるの? あ、そうか、お弁当弟の分も」
 納得はしてくれたのか。それでも不服そうに、
「私それ知らなかった。(つつみ)さんは愛美の家に?」
「うん。たま~にね。勉強ついでとか、お菓子の試食とか?」
 聞いてくるから、なんか言い訳っぽくなりつつ返事をする。
 それを聞いて思案顔になった後、
「愛美、次の中間試験の時、愛美の家で勉強会」
 そう提案してくれるけど、朝の教室の話を思い出して、
「でも、うち弟いてちょっとうるさいかもよ? 大丈夫?」
 男の子一般がそうかは分からないけど、慶は基本あんまり落ち着きがない。蒼ちゃんと一緒にするのも、蒼ちゃんに良い所見せたいからであって、基本的には
 集中力は長持ちしない。
「愛美。えこひいきは良くない」
「図書館で私と一緒にするって言うのはどう?」
 私も一緒に行くよって言う提案だったはずなのに、
「あたし呼べない?」
 悲しそうな表情を作って、聞き返してくる。基本みんなできるだけ笑顔でいて欲しいって思ってる私は、仕方ないなぁという表情を作りながら
「じゃあ、今度の中間試験の際には、一緒にしよっか!」
 私が了承の意を伝えたところで、
「愛美が、変な男にいつか騙されそう」
 何ともな心配をされる。私ってそんなに騙されやすいかな。
 そんな会話を皮切りに、今日返却のテストの間違ったところの見直しを2人で進めた。



―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――

     「~赤点があった者は今週末の金曜日に再テストをするので~」
      担任からの追試の宣告にはっきりと分かれる教室の明暗。
       「ひょっとしてカンニングでもしていたんじゃない?」
         それに付随する様に出る不満とやっかみ……
           「愛美も防さんの肩を持つの?」
         少しずつ形を変え始める友だち関係……
 
   それは見えていたものが全てでは無い事が徐々に明らかになる始まりで……

         次回 9話  不安と変わり始める関係

                
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