プロローグ

文字数 981文字

 人間として生きるにあたり犯してはならないこと、つまりタブーとはなんだろう。
 殺人だったり強盗だったり、それらは法律で禁じられているし、人としてあってはならないなんて考えもあるのだけど、そして勿論その考えに進んで異を唱えたいわけでもないのだけれど、しかしながらそれらをもってしてタブーとするのは、個人的には熟考の余地があると思われる。
 だってそういった罪を犯した人間だって、牢屋の中に堂々といるではないか。罪が重ければ死刑になってしまうけれど、それは死刑制度というシステムによって裁かれるわけであって。彼等彼女等を人間の枠組みに入れないというのなら別だが、そこは一般論で人間ということにして。罪を償って一般社会に貢献している人々もたくさんいるだろうし、そういう人たちを否定するのは好ましくない。犯した後にも人間として、まともに存在しているというのなら、それはタブーとは言えないんじゃあないだろうか。
 では。
 それをした後でまともな人間となれなくなることとは?
 薬物中毒?
 それも一つの考えだろうが、やはりリハビリを積んで社会復帰した人も大勢いる。
 ではでは。
 人格崩壊?
 これはなかなかいい線だと思ったのだが、しかしちょっと待て。よく考えてみたらタブーを犯した結果が人格崩壊なんじゃないか。だとしたら、「それを犯すと人格が崩壊するもの」がタブーだ。
 そしてそれは、先ほどまでの考えを早速否定するようで心苦しいが、一人ひとり個人差があるんじゃないだろうか。
 殺人も食人も近親相姦も強盗も薬物中毒も決めつけも失敗も裏切りも怠惰も暴力も横領も詐欺も恐喝も放火も陰口もいじめも飲酒運転も喧嘩も無知も無関心も。
 そして思想も。
 それに触れた結果、自分が思う人間であれなくなったとき、その時初めてそれをタブーと呼ぶのではないだろうか。
 もしそうだとした場合重要になるのは、触れる前にはそれがタブーであることが明確になっていないことだ。犯して初めて、それがタブーだと分かる。
 分かった時にはもう遅い。
 前置きが長くなってしまったが、俺がこれから話す物語は、そう難しい話でもない。
 タブーの一つである、思想についての話。
 まとめてしまえば。
 人の悩みというのは、大体の場合下らないことだが、しかし本人にとってはそんな言葉で済ませられるものではない。
 今回は、ただそれだけの話だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み