エピローグ

文字数 1,196文字

 人間として生きるにあたり犯してはならないこと、つまりタブーとはなんだろう。
 殺人だったり強盗だったり、それらは法律で禁じられているし、人としてあってはならないなんて考えもあるのだけど、そして勿論その考えに進んで異を唱えたいわけでもないのだけれど、しかしながらそれらをもってしてタブーとするのは、個人的には熟考の余地があると思われる。
 だってそういった罪を犯した人間だって、牢屋の中に堂々といるではないか。罪が重ければ死刑になってしまうけれど、それは死刑制度というシステムによって裁かれるわけであって。彼等彼女等を人間の枠組みに入れないというのなら別だが、そこは一般論で人間ということにして。罪を償って一般社会に貢献している人々もたくさんいるだろうし、そういう人たちを否定するのは好ましくない。犯した後にも人間として、まともに存在しているというのなら、それはタブーとは言えないんじゃあないだろうか。
 では。
 それをした後でまともな人間となれなくなることとは?
 人を騙すこと?
 ナンセンス。人は人を騙して生きている。嘘を言ったことのない人間がいるのならば教えてくれ。そいつは嘘を言ったことがないと言っているだけの嘘つきだ。
 ではでは。
 人智を超えた能力での暴走?
 これはなかなかダイナミックな案だが、しかし却下。あれだけの異常事態を引き起こしながらも、収束した翌日から通学を再開したらしいタフネスなあの子を、まともな人間ではないと誰が言えようか。そんなもの、タブーでもなんでもない。
 そしてそれは、先ほどまでの考えを早速否定するようで心苦しいが、この世に存在しないのではないだろうか。
 殺人も食人も近親相姦も強盗も薬物中毒も決めつけも失敗も裏切りも怠惰も暴力も横領も詐欺も恐喝も放火も陰口もいじめも飲酒運転も喧嘩も無知も無関心も。
 そして思想も。
 それに触れた結果、自分が思う人間であれなくなったとしても、あなたがあなたであることに何の変化もないのだから。
 どのような大罪を引き起こし、どんなに最悪な気分になっても、誰にどれだけ恨まれても。
 それでもあなたが積み重ねてきた過去は全部消えないし、あなたに有限の『今』と『これから』が残されていることは、変えようもない事実なのだから。
 何回でも、何回でもやり直せ。やり直せないなら、また新しく始めて見せればいい。
 大丈夫、時間はある。
 死なない限り、あなたは生きている。
 生きている限り、リトライできる。
 不可能があるなら、可能なことからやればいい。
 今苦しくて悲しくて泣きたいことがあっても、楽しくて嬉しくて笑いたいことだって、これからたくさんあるはずだから。
 タブーに触れたことなんてどうでもよくなるくらい、良いことだってあるはずだから。
 だからどうか、生きることを止めないで欲しい。

 あなたが今日を生きて、
 明日も笑えることを、
 心から願う。
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