怨１４　美しき悪魔

美しき悪魔の所業。3人の子供達を手にかけた女！
嫉妬、恨みに満ちた人生。
恋人とホステスをも焼き殺す。

動画配信サイト「タイムUP」は、世界中のユーザーが自由に動画を配信出来て、毎週毎に国別視聴ランキングが更新される。
タイムUPJAPAN ホラー部門1位にランクインしたのは 「火花が舞い落ちる闇夜の廃虚で、エレベーターから現れた悲しげな黒髪の女の謎」 だった。
この動画の反響はとても大きく、情報番組や夕方のニュースのトピックスでも取り上げられるほどだった。
専門家はトリックを暴こうとしたが、加工や細工は見つからず「本物」か「偽物」か、議論は延々と続いた。
世間を騒がせたのはその映像だけではなかった。
撮影した3人の若者達は、不法侵入、放火の罪で取り調べを受けている。
報道キャスターやコメンテーターは、若者達の想像力の欠如や常識の欠落を嘆いて、動画配信サイトにおける広告収入の是非と、表現の自由とを結びつけて議論していた。

「こんな映像を流したら、すぐに自分たちが捕まるなんて事すらも想像出来ないんですかね？」

この言葉は、テレビから呪文の如く流れ出た。
ある番組では女の正体を暴こうとした。
黒髪の女。
天空創造出版社。
過去の記事。
火。
キーワードを羅列して、見事に符合した事件を洗い出す。

「美しき悪魔の所業。3人の子供達を手にかけた女！ 嫉妬、恨みに満ちた人生。恋人とホステスをも焼き殺す」

遠い昔の記事だった。
犯人として死刑が執行された児玉詩織の当時の写真と、タイムUPに映る女の容姿が似ている事と、数日前にこの事件を担当した刑事が焼死していた事実が尚更に話題を呼んだ。
事件現場も取り上げられ、テレビに映る山道、竹藪、小さな鳥居と祠にはモザイク処理か施されてはいるものの、そこが何処なのかは近隣住民であれば直ぐに見当が付いた。

高木もそのひとりで、テレビから流れるその光景を食い入る様に見つめていた。
静子は未だ見つからない・・・。