第79話 新たな存在
文字数 2,414文字
「お手」
「ばうっ」と俺の手に前肢を載せる、アスファルト製の犬。
「おおっ、賢いね! もしかして話していること、わかるのかな」
「ばうっばうっ」とまるで返事をしているかの様子。
「君は一体なんなんだい? 本物の犬には到底見えないし」
「くぅーん?」と首をかしげる、それ。
「そうか、わからないかー。名前とかもない──みたいだね。それじゃあ、何か名前をつけてあげるよ。ないと不便だしね」
「ばうっ!」
俺は頭を悩ます。
──あ、一応確認をしておくか。
俺はステータスを開く。
──ないか。ふうっ、良かった。もしかしたらステータスの召喚の欄に何か名称が出るかと思ったけど。これ、は召喚じゃないってことだよな。いや、もうアクアみたいなのが出てくるのは勘弁してほしいから、本当に良かった。
安心した俺は、さくっと思い付きで名前をつけることにする。
「……ファルト?」
「ばうっばうっ」と特に嫌がる様子もないファルト。由来は当然、あれ。安直すぎたかと一瞬、後悔するが、他に特に思い付かず。
「そうだ、ファルト。こっちに来てくれるかな?」と、この前から気になっていた例の案件を試すことにする。
そうして向かったのは、ネカフェの裏手の荒れ地。
「自分の足先に、土をかけてくれる?」
「ばうっ」と大人しく言われた通りにするファルト。
──これは完全に意志が通じているな。
「オッケー。じゃあ、ちょっと、じっとしていてくれ」
そういうと、俺は背負っていた妖精の鍬を取り出し、振り上げる。
ファルトに当たらないように鍬を慎重に振り下ろす。
さくっ。
広がる魔法陣が、ファルトの土に覆われた足を包み込む。
……静寂が広がる。
──うーん。何も起きない、と。
俺はそれならばと、自分の足にも土をかける。この前は自制したが、こうなれば試しても良いだろう。
さくっ。
……やはり何も起きない。
「そうかそうか。動物には倍加は効かないんだろうな。草は、倍加で増えていたから対象は植物以下って所かな。うん、待てよ。とすると──ファルトは動物の括りになるって事か!? てっきりゴーレム的な物かと思っていたんだが……」と、ぶつぶつ呟く俺。ファルトがそんな俺を何故か生暖かい眼差しで眺めていた。
◆◇◆
「ぷにっと注入っ!」
俺はぷにぷにグローブを当てていた車から手を離す。
少しのタイムラグの後、ぼふっという音が聞こえそうな感じで、それは飛び出してくる。
現れたのは、金属質な見た目で、ファルトと同じ姿をした存在。言ってみれば、ファルトのメタリックバージョンだ。
「よしっ。じゃあ君はあっちの集団と一緒に壁作りに参加してくれ」
俺はあれからぷにっと注入を、色々な素材に対して行っていた。
どうやら固形物ならなんでもぷにっと注入出来るようなのだ。自動車にぷにっと注入すると、だいたい車一台で六回ぷにっと注入出来る。そして六体の「ぷにっと」が生まれてくる。
ああ、「ぷにっと」というのは、ファルト達の仮の名称だ。何もないと不便だったのだが、いい名称が何も思い浮かばず、そのままとりあえず「ぷにっと」と呼ぶことにした。
色々試して、わかったこととしては、イドの消費はやっぱり結構ある。しかし、イド・エキスカベータを使用していれば回復が追い付く範囲の量。
それをいいことに、すでに数えきれないぐらいのぷにっとが周囲で立ち働いていた。
ぷにっと注入して生まれたぷにっとは、その元の素材に準じた体をしている、みたいだ。しかし、完全にその物ではないっぽい。
ファルトがゴムみたいな弾力があるように、さっき自家用車から生まれたぷにっとは、触ると柔らかい金属といった感触がする。自動車の部品の一部なのだろう。パイプとかが浮き出しているのだが、それも少し弾力がある。
そして、素材によって、ぷにっと達の性能に、微妙に差があるのだ。
ファルト達、アスファルト製のぷにっとは、その体の色と見た目が道路その物のため、道路に伏せるとかなり見つけづらい。
初めてファルトが本物の犬のように四つん這いになり、さらに伏せをした時は思わず二度見してしまった。よくよく見ればバレバレなのだが、ぼーとしていたら気がつかないレベルの同化っぷりに思わず感嘆してしまった。
町並みの中で、移動可能エリアで考えると、道路の占める割合というのは当然かなり高い。そういうと意味で、ファルト達は隠密行動がなかなか得意なようだ。
その特性を活かして、ファルトをリーダーに、周囲の探索へ出てもらい、水と食べ物を探してもらっている。ちょうどあちらの見える青黒い一群が、皆アスファルト生まれのぷにっとだ。
そうしていると、早速、見つけた食品を見せに来てくれる。
「おおっ! レトルトカレーじゃん! こっちはパウチされたパックご飯っ。素晴らしい組み合わせだ。ファルト、わかってるねー」と持ってきたファルトの頭をごしごし撫でる。
「ばうっ!」
──すごい、とても一人で探していた時の比じゃない効率の良さだ。惜しむらくは戦闘が苦手、というか攻撃手段がほぼないことだよな
と、俺はファルトの手や口を見ながら考える。犬のような顔をしているがその口に牙はないのだ。手足も、爪がなくてまるでぬいぐるみのよう。物を運ぶには十分だが、ぬいぐるみのような指は武器をしっかり持つのも難しい様子。
そんな俺の考えをよそに、撫でられて満足げに探索に戻るファルト。彼らを見送り、視線を移す。
あちらの一群は、自動車から生まれたぷにっと達。彼らはどうやらファルト達より力が少しだけ強いようだ。どういう仕組みでそうなのかは、よくわからない。
今現在、ネカフェの壁の補強をしてくれている彼ら。俺は始めて自動車からぷにっとを生み出したときのことを思い返して思わず苦笑してしまった。
「ばうっ」と俺の手に前肢を載せる、アスファルト製の犬。
「おおっ、賢いね! もしかして話していること、わかるのかな」
「ばうっばうっ」とまるで返事をしているかの様子。
「君は一体なんなんだい? 本物の犬には到底見えないし」
「くぅーん?」と首をかしげる、それ。
「そうか、わからないかー。名前とかもない──みたいだね。それじゃあ、何か名前をつけてあげるよ。ないと不便だしね」
「ばうっ!」
俺は頭を悩ます。
──あ、一応確認をしておくか。
俺はステータスを開く。
──ないか。ふうっ、良かった。もしかしたらステータスの召喚の欄に何か名称が出るかと思ったけど。これ、は召喚じゃないってことだよな。いや、もうアクアみたいなのが出てくるのは勘弁してほしいから、本当に良かった。
安心した俺は、さくっと思い付きで名前をつけることにする。
「……ファルト?」
「ばうっばうっ」と特に嫌がる様子もないファルト。由来は当然、あれ。安直すぎたかと一瞬、後悔するが、他に特に思い付かず。
「そうだ、ファルト。こっちに来てくれるかな?」と、この前から気になっていた例の案件を試すことにする。
そうして向かったのは、ネカフェの裏手の荒れ地。
「自分の足先に、土をかけてくれる?」
「ばうっ」と大人しく言われた通りにするファルト。
──これは完全に意志が通じているな。
「オッケー。じゃあ、ちょっと、じっとしていてくれ」
そういうと、俺は背負っていた妖精の鍬を取り出し、振り上げる。
ファルトに当たらないように鍬を慎重に振り下ろす。
さくっ。
広がる魔法陣が、ファルトの土に覆われた足を包み込む。
……静寂が広がる。
──うーん。何も起きない、と。
俺はそれならばと、自分の足にも土をかける。この前は自制したが、こうなれば試しても良いだろう。
さくっ。
……やはり何も起きない。
「そうかそうか。動物には倍加は効かないんだろうな。草は、倍加で増えていたから対象は植物以下って所かな。うん、待てよ。とすると──ファルトは動物の括りになるって事か!? てっきりゴーレム的な物かと思っていたんだが……」と、ぶつぶつ呟く俺。ファルトがそんな俺を何故か生暖かい眼差しで眺めていた。
◆◇◆
「ぷにっと注入っ!」
俺はぷにぷにグローブを当てていた車から手を離す。
少しのタイムラグの後、ぼふっという音が聞こえそうな感じで、それは飛び出してくる。
現れたのは、金属質な見た目で、ファルトと同じ姿をした存在。言ってみれば、ファルトのメタリックバージョンだ。
「よしっ。じゃあ君はあっちの集団と一緒に壁作りに参加してくれ」
俺はあれからぷにっと注入を、色々な素材に対して行っていた。
どうやら固形物ならなんでもぷにっと注入出来るようなのだ。自動車にぷにっと注入すると、だいたい車一台で六回ぷにっと注入出来る。そして六体の「ぷにっと」が生まれてくる。
ああ、「ぷにっと」というのは、ファルト達の仮の名称だ。何もないと不便だったのだが、いい名称が何も思い浮かばず、そのままとりあえず「ぷにっと」と呼ぶことにした。
色々試して、わかったこととしては、イドの消費はやっぱり結構ある。しかし、イド・エキスカベータを使用していれば回復が追い付く範囲の量。
それをいいことに、すでに数えきれないぐらいのぷにっとが周囲で立ち働いていた。
ぷにっと注入して生まれたぷにっとは、その元の素材に準じた体をしている、みたいだ。しかし、完全にその物ではないっぽい。
ファルトがゴムみたいな弾力があるように、さっき自家用車から生まれたぷにっとは、触ると柔らかい金属といった感触がする。自動車の部品の一部なのだろう。パイプとかが浮き出しているのだが、それも少し弾力がある。
そして、素材によって、ぷにっと達の性能に、微妙に差があるのだ。
ファルト達、アスファルト製のぷにっとは、その体の色と見た目が道路その物のため、道路に伏せるとかなり見つけづらい。
初めてファルトが本物の犬のように四つん這いになり、さらに伏せをした時は思わず二度見してしまった。よくよく見ればバレバレなのだが、ぼーとしていたら気がつかないレベルの同化っぷりに思わず感嘆してしまった。
町並みの中で、移動可能エリアで考えると、道路の占める割合というのは当然かなり高い。そういうと意味で、ファルト達は隠密行動がなかなか得意なようだ。
その特性を活かして、ファルトをリーダーに、周囲の探索へ出てもらい、水と食べ物を探してもらっている。ちょうどあちらの見える青黒い一群が、皆アスファルト生まれのぷにっとだ。
そうしていると、早速、見つけた食品を見せに来てくれる。
「おおっ! レトルトカレーじゃん! こっちはパウチされたパックご飯っ。素晴らしい組み合わせだ。ファルト、わかってるねー」と持ってきたファルトの頭をごしごし撫でる。
「ばうっ!」
──すごい、とても一人で探していた時の比じゃない効率の良さだ。惜しむらくは戦闘が苦手、というか攻撃手段がほぼないことだよな
と、俺はファルトの手や口を見ながら考える。犬のような顔をしているがその口に牙はないのだ。手足も、爪がなくてまるでぬいぐるみのよう。物を運ぶには十分だが、ぬいぐるみのような指は武器をしっかり持つのも難しい様子。
そんな俺の考えをよそに、撫でられて満足げに探索に戻るファルト。彼らを見送り、視線を移す。
あちらの一群は、自動車から生まれたぷにっと達。彼らはどうやらファルト達より力が少しだけ強いようだ。どういう仕組みでそうなのかは、よくわからない。
今現在、ネカフェの壁の補強をしてくれている彼ら。俺は始めて自動車からぷにっとを生み出したときのことを思い返して思わず苦笑してしまった。