第39話 下の道

文字数 1,520文字

 スタートしてしばらくは順調に進んでいた。腐っても首都圏内にある県。県軍の活躍で最低限の道路網は確保されている。ただ、渋滞は深刻だ。
 高速道路が閉鎖せれた影響は非常に大きいようで。こんな道まで、といった所まで渋滞していたりする。
 当然サイドカー付きなので、すり抜けられない。どうするのだろうと思っていると、ハンドルを切って、すぐに脇道に入る江奈。
 急ハンドルに、軽くサイドカーの車体が浮いてヒヤッとする。
 入り込んだのは、もとは農道かと思うような狭い道。そこをすいすいと縫うように走り続ける。
 そうして進むこと数時間、急に周りから動く車の姿が少なくなる。
「ここからダンジョンの因子の領域に入るわ。装甲トラックとか武装バイクぐらいしか通らないから、ある意味スムーズに進むけど、モンスターの湧きの警戒はよろしくね」と江奈。 
 なぜか舗装が剥がれている道路。脇には放置されたままの自転車。しかし、そこかしこに、人の気配を感じる。アクセルを吹かし、悪路を速度を上げて突き進む江奈。
 (モンスター沸くから急ぐのはわかるけど、この振動はなかなか堪える)
 時たますれ違う車両は確かに複数人の冒険者らしき人物が同乗している。ふと、なけなしの武装をした地元の一般人らしき集団がモンスターを取り囲んでタコ殴りにしているのが見える。
 ちらりと見えたモンスターはミミズのでかい物のような見た目だった。
 (ああ。命の危険はあるけど、同時に資源が取れる場所だからか。当然入り込む人たちもいるか。ダンジョンに潜るよりは心理的ハードルも低いだろうしな。そして、道路の舗装が無くなっているのは、あのモンスターのせいか)
 何か焼いている食べ物を売る屋台まで見かけた。どうやらモンスターを倒しに来ている人達向けに売っている様子。
 (たくましいなぁ、人間って)
 俺は振動にもだいぶ慣れ、サイドカーで風に吹かれながら、ちらりと見えるそれらの風景にそんなことを考えていた。
「少し迂回するわ。あれはめんどうだから」と江奈の声。
 視線の先には、大きなかがり火が見える。キャンプファイヤーのようなそれの周りでは、人影が踊っているように見える。
「あれは?」
「最近流行りのダンジョン賛美主義者ね」
「何だっけ、それ」
「ああやってダンジョンの因子の濃いところで踊っている集団よ。何でも、ダンジョンの因子を取り込むことで人類は進化する。魔眼を手にいれるとか謳ってたはずよ。代表者の男は実際魔眼を手にしたとか言ってらしいけど」
「……色んな人達がいるんだね」
「ダンジョンの活性化以来、急激に増えているらしいわ。勧誘がしつこいのよね」とこぼす江奈。
 なにやら嫌な思いでもしたようだ。
 迂回してしばらくして江奈が告げる。
「一度ダンジョンの因子のエリアを抜けるわ」
 再び路上に増え出す車両。急に揺れなくなったと思ったら、舗装された道に戻っている。
 すぐに始まる渋滞。またサイドカーは脇道に入り込み、ぐねぐねとした細い道を進み始める。

 突然の振動。ガタンという音が響く。
「敵かっ」
 思わず飛び起きる俺。どうやら、うとうとしてしまっていたらしい。
「なに寝ぼけてるの」
 江奈の呆れたような視線が刺さる。
 俺たちを運ぶバイクは、いつの間にか山道にさしかかっていた。
「どれくらい寝てた?」
「知らないわよ。でも、今日はあと少し。そしたら宿よ」
 俺は、狭いサイドカーの中で寝ていたせいでバキバキになった体を、出来る限り伸ばして解しておく。
 林道を進むバイク。その中でもぞもぞしている俺に、江奈が声をかける。
 「見えてきた。今日はあそこに泊まるわ」
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