第13話
文字数 2,056文字
あの井戸はどこにあるのだろう? 進むほどに方向がわからなくなってきた。方向音痴 にも程があるよ。コンパスを持ってきたものの、古すぎて壊れてしまっていた。なんてこった。ここはアナログな方法で判断するしかない。子供のころキャンプで木の模様 などで方角を知る方法を聞いたことがある。確か、苔 の生え方……。木の幹 には北側に多く苔が生える。これは、北側が日陰になりやすく湿り気が多いためだ。それから切り株の年輪 。年輪の幅の広い方が南を向いている。これも、南側の日当たりが良いので成長が早いからだ。そして枝の伸び方。木の枝は日光を求めて南側に多く伸びる傾向がある。したがって、枝が多く伸びている方向が南だと考えられる。このような方法で方向を確認できるけれど、正確性には限界があるので、信頼できる道具としてコンパスやGPSを持って行くべきとガイドのお姉さんが言っていた……そのコンパスが壊れているんだよ、と心の中で突っ込んでも無意味だ。森のなかでWi-Fiが使えないためコンパスアプリをダウンロードすることもできず、そのうちにさらに歩き回っているうちに、ついには自分がどこにいるのか全くわからなくなってしまった。
途方に暮れていると、森の奥から不思議な光が見えた。あれは何だろう。向かってみようか。一か八かの賭けで進むと、風で木々がざわめき、その音に合わせて声が聞こえてきた。「こっちへおいで」と。幻聴 だろうか、不気味だ。普通ならここで引き返そうと思うところだが、生憎 、帰り道もわからない。仕方なくその声に従って歩いていくと、光る現場にたどり着いた。しかし、光を発していたはずのものは何もなく、古びた井戸があるだけだった。単なる目の錯覚 だったのだろうか。不思議な現象続きで疲れ果ててしまった……何やら寒気も感じる。早く祈りを済ませて家に帰ろう。ところが気づくと井戸の奥から光が集まり始めた……この現象は何。その光景を見た瞬間、心臓が激しく波打ち、普段の私の鼓動 を大きく越えていた。これは奇跡!? ついに天使が私の前に現れてくれたのだろうか?
疲労がピークに達していた私は、遂にその場で気を失ってしまった。
――
《あなたは誰? ……そう、カスミというのね。ここに何をしに来たの?》
夢の中と思われるシーンで、この声の主は誰なのだろうかと考えていた。返事をするべきか迷っていると、相手の方から言葉が続いた。
《ごめんね、カスミ。あなたは願いを叶えにここに来たようだけれど、この井戸にはその力はないの。ただ、このままではカスミがとても可哀想だから、少しだけ助けてあげるわ》
私は謎の存在にただ「ありがとう」と答えた。きっと幻を見ているのだろう。現実のようで現実ではなかったから。でも、不思議と癒された。多分、初めて会った天使なのかもしれない。そういえば、最近夢の中を彷徨 うのはこれが二度目だ。
――
意識が戻った私は、井戸の周囲を確認した。光の現象は消えており、目の前には静かな森が広がっていた。深呼吸して心を落ち着け、冷静さを保つことが家に帰る鍵 だと自分に言い聞かせた。
私は、元の道を引き返すことにして、木々の間を慎重に進んでいった。苔の生え方や枝の向きを頼りにして南へと進んだ。途中、何度も立ち止まり、周囲の音に耳を傾 けていた。風のそよぎや鳥のさえずりが、少しずつ私の心を落ち着かせてくれた。
しばらく歩いた後、小さな川にたどり着いた。川の水は澄 んでおり、私はその水を飲んで喉を潤 した。川沿いを進むことに決めて、川が下流に向かって流れているのを確認し、その方向へ歩みを続けた。やがて川は広い開けた場所に出て、そこには古びた小屋があったので、私はその小屋に向かって歩いていった。
小屋には年配の女性が住んでいて、私を見て驚いたが、すぐに温かく迎えてくれた。私は迷子になったと話し、助けを求めると、女性は優しく微笑み、「ここで少し休んでいきなさい。外はもうすぐ暗くなるわ」と言った。
感謝の気持ちでいっぱいの私は彼女と話し始めた。彼女はこの森に詳しく、帰り道を案内してくれたうえに、この森に関わる興味深い話も聞かせてくれた。
「ここは忘れられた森と呼ばれているけど、昔は信仰 を持つ人々が集まって神さまにお祈りする場所だったの。私はそれを忘れられなくて、時々お掃除しに来るのよ。それにしても、よくこんな所まで来たねえ」
その女性の話を聞いているうちに、私は眠りについた。
翌朝、私はその女性に感謝を伝え、指示された道をたどって帰宅することにした。女性は小さなお守りを手渡しながら、「これさえあれば、もう迷うことはありませんよ」と言った。……これは十字架?
そのお守りをしっかりと握りしめながら、私は森を通り抜けて家へ戻った。途中で井戸のことを思い出し、その時の体験を振り返った。あの光や声は何だったのだろうか。答えは見つからなかったものの、心の中には確信が生まれていた。それは、どんな困難にも必ず助けてくれる存在がいるということだった。
途方に暮れていると、森の奥から不思議な光が見えた。あれは何だろう。向かってみようか。一か八かの賭けで進むと、風で木々がざわめき、その音に合わせて声が聞こえてきた。「こっちへおいで」と。
疲労がピークに達していた私は、遂にその場で気を失ってしまった。
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《あなたは誰? ……そう、カスミというのね。ここに何をしに来たの?》
夢の中と思われるシーンで、この声の主は誰なのだろうかと考えていた。返事をするべきか迷っていると、相手の方から言葉が続いた。
《ごめんね、カスミ。あなたは願いを叶えにここに来たようだけれど、この井戸にはその力はないの。ただ、このままではカスミがとても可哀想だから、少しだけ助けてあげるわ》
私は謎の存在にただ「ありがとう」と答えた。きっと幻を見ているのだろう。現実のようで現実ではなかったから。でも、不思議と癒された。多分、初めて会った天使なのかもしれない。そういえば、最近夢の中を
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意識が戻った私は、井戸の周囲を確認した。光の現象は消えており、目の前には静かな森が広がっていた。深呼吸して心を落ち着け、冷静さを保つことが家に帰る
私は、元の道を引き返すことにして、木々の間を慎重に進んでいった。苔の生え方や枝の向きを頼りにして南へと進んだ。途中、何度も立ち止まり、周囲の音に耳を
しばらく歩いた後、小さな川にたどり着いた。川の水は
小屋には年配の女性が住んでいて、私を見て驚いたが、すぐに温かく迎えてくれた。私は迷子になったと話し、助けを求めると、女性は優しく微笑み、「ここで少し休んでいきなさい。外はもうすぐ暗くなるわ」と言った。
感謝の気持ちでいっぱいの私は彼女と話し始めた。彼女はこの森に詳しく、帰り道を案内してくれたうえに、この森に関わる興味深い話も聞かせてくれた。
「ここは忘れられた森と呼ばれているけど、昔は
その女性の話を聞いているうちに、私は眠りについた。
翌朝、私はその女性に感謝を伝え、指示された道をたどって帰宅することにした。女性は小さなお守りを手渡しながら、「これさえあれば、もう迷うことはありませんよ」と言った。……これは十字架?
そのお守りをしっかりと握りしめながら、私は森を通り抜けて家へ戻った。途中で井戸のことを思い出し、その時の体験を振り返った。あの光や声は何だったのだろうか。答えは見つからなかったものの、心の中には確信が生まれていた。それは、どんな困難にも必ず助けてくれる存在がいるということだった。