第8話
文字数 2,156文字
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学校生活を送るうちに一つ気づいたことがある。
私はこんなに刺激のない退屈な毎日が、一体いつまで続くのだろうと思っていたけれど、ふと周りを見渡してみると、小さな出来事というのはそこかしこに転がっている。
例えば女子同士の会話の中に、今を生きる為の重要なヒントが隠されていたりするし、教室で騒 いでいる男子の行動には一体どのような意味があるのかな……みたいなことを考えさせられる。よく観察してみると、一人一人の動きには一貫性 があるように見える。彼らの行動理由にはちゃんと意味が存在しているのだ。将棋盤 でいう駒 のような役割をそれぞれが演 じている。まるで何か高次の存在からプログラムでもされているかのようで、それらの行動にはいつの日か人類によってAIで生成 されるはずのロボットにも理解はできないだろう。使命 ……と、言えば大げさだけれど、私にはここにいるクラスメイト全員が、何かしらの仕事をしているような錯覚 を覚える。何か見えない大きな力によって動かされているのだ。これは一体……? この世界の仕組みがどうなっているのか、まだ高校生である私には想像することすらできないが、きっとそれが大自然の不思議だった。人は生きている……。それは当たり前なことかもしれないけれど、この事実だけが現状、私に考えることが許されている唯一の真理であって、周りが決して否定はできないものだった。人は生きている、生きているんだ。AIで生成されるロボットなどではない。DNAなる命というものがそこにはあった。学校という箱に閉じ込められてはいても、ここに存在するすべての命はアフリカのサバンナに生息している動物たちと何ら変わりはなかった。生きているという意味では。
周囲の同級生たちを動物に例えてしまったことに小さな罪悪感を覚えたが、それでもロボットよりはマシなはずだ。死んでいるよりかは、生きている方がいい。こんなことを考える高校生は他にはいないだろう。
ところで、次にノートに描く為のアイディアがまったくといって浮かばなかった私は、どうすれば次のネタが出来上がるのかを考えていた。とりあえず周りを観察 していれば、向こうからネタがやってくることを期待したのは安易 だった。手を抜くことは出来ない、やはりアイディアは自分で練 らないといけなかった。
教室の隅 で、理彩が周りの女子たちと話しているのを見て、ふいに私も混ぜて貰おうと決意する。今までの自分だったらあり得ない行動だった。一人で居ることが好きだった私にとって、団体の中に割り込むなんていうことは、かつての私だったらおそらく考えられないことだ。いや、これは取材だ。こうやって、ネタは自分の足で探して手に入れるしかないのだ。
「理彩……ちょっといいかな? みんなで何の話をしているの?」
「あぁ……霞、ちょうど良かった。今、暇してる? もし退屈しているのなら、私たちの話を聞いてよ」
私は右手の親指と人差し指で小さなリングを作りOKとサインを理彩に伝える。何か面白いことでもあったのかな、これはノートに何か描けるかもしれない……。期待に胸を膨らませた私は、その話を詳しく聞こうとして、ポケットからペンとメモ帳を取り出した。
「実はね、部活であるコンクールに参加することになったんだけれど、コンクール会場に来てくれる人を集める広報 担当がお休みしているのよ。そこで、手伝ってくれる人を探そうとみんなと相談していたの……。霞の知り合いで誰か他に手伝ってくれる人はいないかな?」
「うーん、私の知り合いなんて、数が少ないからなぁ……、そんな人っていたかな。いっそのこと、そこら辺にいる暇な男子にでも頼んでみたら?」
すると理彩は少し困った表情をして、部活のメンバーと顔を見合わせた。
「私の部活って文化系じゃない? 手伝ってくれる人なんているのかな……それに内情をよく知っている人じゃないと困るんだよね。あっ、私の部活動って知ってるよね? 合唱部」
「ああ、理彩ってそういえばそうだったね。いつもトレーニングの為にグラウンドにいたから、分からなくなってたよ。確かに、合唱部だと手伝ってくれる人は限定されるかもね。要はそのコンクールに来てくれる為に、広報活動をしてくれる人を探せばいいのね?」
「そうなの……、でもそんな当てはどこにもないし……、本当に困っているのよ。何か霞に良いアイディアはないかなぁ?」
「合理主義的な私だったら、ここは放送部に頼むところだけどね。あぁ、だったらSNSに情報を載せてみるっていうのはどう?」
私がそういうと、合唱部のメンバーの一人が軽く片手を振って嬉しさをアピールしてきた。この女子生徒は他のクラスの子だ。確か名前は……水鳥翠 さんだったはず、特徴的な名前のおかげで助かった。
「それ、良いアイディアかも知れない、Twitterなんかで、呼びかけてみようか。やれば出来るじゃん、さすが思想家……。霞もコンクール会場に来てね、私たちの歌を聴いて、霞には刺激を貰って欲しいからさ」
「まあ、考えておくよ……、翠さんも頑張ってね、応援してるから」
「名前、覚えていてくれたんだね、じゃあ、霞……またね。そろそろ授業が始まっちゃうから、帰るね」
翠さんは私にそう言い残して、別の教室へと戻っていった。
学校生活を送るうちに一つ気づいたことがある。
私はこんなに刺激のない退屈な毎日が、一体いつまで続くのだろうと思っていたけれど、ふと周りを見渡してみると、小さな出来事というのはそこかしこに転がっている。
例えば女子同士の会話の中に、今を生きる為の重要なヒントが隠されていたりするし、教室で
周囲の同級生たちを動物に例えてしまったことに小さな罪悪感を覚えたが、それでもロボットよりはマシなはずだ。死んでいるよりかは、生きている方がいい。こんなことを考える高校生は他にはいないだろう。
ところで、次にノートに描く為のアイディアがまったくといって浮かばなかった私は、どうすれば次のネタが出来上がるのかを考えていた。とりあえず周りを
教室の
「理彩……ちょっといいかな? みんなで何の話をしているの?」
「あぁ……霞、ちょうど良かった。今、暇してる? もし退屈しているのなら、私たちの話を聞いてよ」
私は右手の親指と人差し指で小さなリングを作りOKとサインを理彩に伝える。何か面白いことでもあったのかな、これはノートに何か描けるかもしれない……。期待に胸を膨らませた私は、その話を詳しく聞こうとして、ポケットからペンとメモ帳を取り出した。
「実はね、部活であるコンクールに参加することになったんだけれど、コンクール会場に来てくれる人を集める
「うーん、私の知り合いなんて、数が少ないからなぁ……、そんな人っていたかな。いっそのこと、そこら辺にいる暇な男子にでも頼んでみたら?」
すると理彩は少し困った表情をして、部活のメンバーと顔を見合わせた。
「私の部活って文化系じゃない? 手伝ってくれる人なんているのかな……それに内情をよく知っている人じゃないと困るんだよね。あっ、私の部活動って知ってるよね? 合唱部」
「ああ、理彩ってそういえばそうだったね。いつもトレーニングの為にグラウンドにいたから、分からなくなってたよ。確かに、合唱部だと手伝ってくれる人は限定されるかもね。要はそのコンクールに来てくれる為に、広報活動をしてくれる人を探せばいいのね?」
「そうなの……、でもそんな当てはどこにもないし……、本当に困っているのよ。何か霞に良いアイディアはないかなぁ?」
「合理主義的な私だったら、ここは放送部に頼むところだけどね。あぁ、だったらSNSに情報を載せてみるっていうのはどう?」
私がそういうと、合唱部のメンバーの一人が軽く片手を振って嬉しさをアピールしてきた。この女子生徒は他のクラスの子だ。確か名前は……
「それ、良いアイディアかも知れない、Twitterなんかで、呼びかけてみようか。やれば出来るじゃん、さすが思想家……。霞もコンクール会場に来てね、私たちの歌を聴いて、霞には刺激を貰って欲しいからさ」
「まあ、考えておくよ……、翠さんも頑張ってね、応援してるから」
「名前、覚えていてくれたんだね、じゃあ、霞……またね。そろそろ授業が始まっちゃうから、帰るね」
翠さんは私にそう言い残して、別の教室へと戻っていった。