スーパー 山本のはなし

文字数 921文字

あ、ペコペコだ。
山本はバイトに指示を出しながら、ニックネームがついている客が目に入った。
ペコペコ。いつもペコペコと頭を下げながら人と話しているので、ペコペコ、と言われていた。
ペコペコは、おずおずと遠慮がちにカートを押してはいるが、よく商品や人にぶつかるため嫌っている店員はいた。山本は何か感情を持っているわけではないが、以前付き添いの男性に怒られているのを見て以来、なんだか気にはなっている。
早速、ペコペコが商品にぶつかった。驚いたペコペコは商品が少し崩れたのは気になったようだが、直そうとする前にカートがほかの商品にぶつかり、おろおろするばかりだった。
隣にいたバイトが舌打ちをして、商品を直しに行った。お客様向けの顔を忘れたような声で接する彼を見て、そこまで怒ることかと思いはする。だが、この店にずっといるバイトの気持ちを考えると、やむを得ないのかもしれない。

バイトが商品の陳列を整え戻ってくると、バイトに指示を出して他店舗に行くため、事務所に戻った。
事務所では、バイトの大学生が店長と仲良く話していた。メイク話で盛り上がっているようだが、山本はよくわからないのでそのまま自席につく。古い椅子が鼓膜を攻撃してくるので慌てて姿勢を正すと「山本さんってどうしてます?」と聞かれた。
虚を突かれた山本は、何をどうするのかわからないので聞き直す。
普段のメイクの話のことで、どうすれば手間をかけずかつきれいにできるかで盛り上がっているようだった。そんなこと聞かれても大した知識もなく、ただドラストに売っているものを使っている、と答えると、場はさらに盛り上がった。
どうやら、仕入れをどうするかも考えているようで、みんなどんなの使ってるんですかね、とバイトと店長が向かい合って話し出したところで事務所を出た。
これから車で一時間かかる店舗へ行くことになる。
少し風が吹いていた。気温が高いので、ただの熱風で余計に熱中症になりそうだった。急いで車に乗り込み、日焼け止めの手袋をはめる。エアコンを強風にして少し休憩していると、ペコペコが駐車場を歩いていた。
相変わらずペコペコしていて鳩みたいだな。
ペコペコの薄汚れたロングスカートが、鳩の羽根のようにはためいていた。
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