コンビニ さとるのばあい

文字数 844文字

時計に目をやると、まもなく午後3時になるところだった。
そろそろ仕事を切り上げて、と考えたところで、保育園に迎えに行くのがとても億劫になり、ため息が出てしまった。
少しでいいからゆっくりと座りたい。さとるの希望はそれだけである。
小さなころから「ちゃきちゃき動きなさい」と言われてきた。そうすればそのあとの予定は楽になるということはわかっているが、それをこなすのが本当に面倒であることもよくあることである。
店の客は五月雨に来店する。一時はどのタイミングで帰るかは悩んでいたさとるも、今は時間で区切るしかない。
「男のくせに」と陰口をたたかれているのも知っているので、少しぐらい居心地が悪くなろうがどうでもよかった。
お金が稼げて、家から離れたかった。
常連が入り口をくぐるのが見えた。行きつけのスーパーでよく見る人である。
いつもと同じ煙草を選ぶのでなんとなく覚えているだけで、知り合いでもない。言われた数字の煙草を渡し、現金をもらう。
制服を脱ぎ簡単な挨拶をして店を出る。
店先ではさっきの常連が煙草を吸っていた。

車に乗り込んで、スマホを見ると保育園からメッセージが届いていた。
驚いて確認すると、こどもと同じクラスで感染症の患者が出たという連絡だった。
以前、同じクラスで感染症が出たとき、「大人は大丈夫だろう」と油断した矢先、こどもからさとると妻も罹患して、二週間ほど調子がもとに戻らないことがあった。
一家全員がかからずしのぐためには、まず今日出張から帰ってくる妻をホテルに滞在させるしかない。ママっ子のこどもが妻に抱っこをせがむのはわかりきっていたからである。
となると、さとるはすべての子どもの世話を自分がすることになる。という事実に思い至り、軽い絶望と面倒ごとは妻にすべて任せたい、ゆっくりとソファに座りたいという思いが持ち上がってきた。
とりあえず、妻にどうするか相談をしなければならない。
車のシートにもたれて、スマホを操作する。頭の片隅には、今日の晩ご飯のメニューと足らない食材のことを考えていた。
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