第4話ー吉岡のはなしー

文字数 774文字

あ、柴田さんだ!
柴田と目が合うと手を振って、吉岡のレジに並んでくれた。
吉岡は、柴田を話すのが好きだ。バイトには夜しか入れないので、昼間のパートに出ている柴田を出会えるのはそう多くはないので、会えると運が良いと心がはずむ。
丁寧な手つきで商品をひとつずつレジに通し客に向かって頭をさげる。
「おつかれさまです」
話したいことはたくさんあるのに、何を話していいのかわからないほど心が焦ってしまう。
「げんき?」
吉岡が柴田を好む理由は、なにより話しやすさがある。いつも笑っているし、何か話したら説教ではなく励ましてくれるのだ。実家の両親に似たような感じがするので緊張しないことも大きい。
「はい。最近、寒くなりましたね」
「一気に朝晩寒くなったよね」
「体調には気を付けてくださいよ」
「本当よね。吉岡さんも若いから大丈夫かもしれないけど、無理しないでね」
手を振って挨拶をすると、今日のバイトも頑張れるような気がしてくる。
ほんの少しの会話がこんなにパワーをもっていることを、吉岡は柴田と出会って知った。

会計中にレジに返却される品物というのは、ゼロではない。
客がレジに並ばないタイミングを見て、吉岡は棚へ返却に向かった。陳列の担当に商品を渡すためである。しばらく歩くと久松が目に入った。
丸い背中を屈めて黙々と商品を並べている。声をかけると、一瞬驚いたようにして振り向いた。
吉岡は話しかけたが久松は下を向いている。話を聞いているように見えないが、吉岡が話し終わると小さな声で挨拶をした。吉岡は商品を久松に預けレジに戻った。
幸いなことに、レジは混んでおらず、今日は特売日でもなんでもないからおそらく客は少ないだろうとマネージャーが言う。
「そのとおりになるといいね」
吉岡が笑うと、バイトの杉本が「そういうことを言うと客が増えるから」と止められたが、そんなわけないよと笑っていた。
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