第2話 「忘れもの」

文字数 687文字

 このお話は、わたしが知り合いの女性の看護師さんから聞いたこと。
 とある病院での奇妙な出来事です。

 ……その看護師さんが宿直のとき。
 真夜中、院内をいつものように巡回していると、3階の洗面所のほうで老人らしき人影が顔を洗っていたそうです。
 そっと声をかけてみようと思いましたが、一瞬、目線をはずした隙に、不思議にも人影は消えていました。
 看護師さんが、おかしいなと思い洗面所に近づいてみると、すこし開いた蛇口から静かに水が流れていたようです。
 その後、看護師さんは宿直室に戻って、先輩の看護師にその話を報告してみました。
 すると、あろうことか!?
 その先輩も同じ体験をしたと話してくれたようです。

 ……なんでも、洗面所で見た老人は一ヶ月ほどまえに亡くなられた、301号室のお婆さんにそっくりだったそうです。
 そのときの看護師さんは、とても奇妙な感じがしたと言っていました。
 それは、死んだ老人が幽霊になって、わざわざ洗面所まできて顔を洗っているのが……なんだか不可解だったからです。
 わたしも、その話を聞きながら、看護師さんの言うとおり、わけがわからない話だなと思いました。
 ……しかし、翌朝になって、3階の洗面所にある空の花瓶のなかから、偶然にも301号室で亡くなられたお婆さんの「入れ歯」が出てきたのです。

 看護師さんが言うには――。
 そのお婆さんは、入れ歯をはずしてから、間違って花瓶のなかに落としてしまったんだわ……。
 きっと、なくした入れ歯を探しに、夜な夜な洗面所に来ていたのかしら、などと笑いながら話してくれました。



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