第10話 「船幽霊」

文字数 396文字

 ……ええ……そうです。

 ……わたしは……あれから故郷の東北、岩手に帰りました……。
 もともと漁師の家に育ちましたわたしは、いまでは兄の船に載せてもらっています。

 なんですか?……。

 わたしに厳しい漁師の仕事が務まるのか、ですって……。
 いえいえ、そのへんは安心してください……。
 こんなわたしは、亡くなられた多くの方たちを供養するために、船に載せてもらっているのです。

 バケツをおくれ……。
 バケツをおくれ……と、霊たちが言ってくるのですが……。
 わたしは用意している底の抜けた木の桶を船の外へ、四方の海に投げます。
 そして、静かに念仏を唱えだすのです……。
 すると浮かばれない霊たちは、底の抜けた桶で船のなかに水を入れるのをやめて……。
 そのまま静かに、薄れていく霧とともに消えてゆくのです。

 それが……わたしに与えられた船のうえでの仕事なのです。

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