第13話 少女趣味

文字数 1,354文字

三年間付き合った彼女に別れを告げられた。俺の煮え切らない態度に腹を立てて去っていった彼女の後ろ姿を見たのが最後だ。

それ以来何も手につかず、ボーっとする日々を送っていた。もちろん仕事にも身が入らずにミスを連発し、今日も課長に呼ばれて小言を食らった。

それで、課長の席の前でグチグチと説教をされていた。その時である。ふと横を向いた課長の横顔が前の彼女に似ていたのだ。いや、彼女そのものだった。俺は思わず、

あゆみ……

と名前を呼んで課長の肩を掴んだ。

その驚きと怯えた課長の仕草がますます前の彼女に似てきて、興奮した俺はズボンを下ろすと課長を押し倒した。

やっぱりお前がいないと駄目なんだ……

俺は優しく囁いて課長にそっと口づけをした。



さて、会社を即座に首になり、俺はトボトボと家路を歩いていた。俺の前には犬を連れたおばさんが歩いている。

すると、鎖に繋がれて歩くその犬の後ろ姿が前の彼女のあゆみにそっくりなのであった。しっぽを振ってヨチヨチと歩く姿はまさにあゆみだ。

愛してる!

俺はズボンを下ろすと、そう叫んで犬に抱きついた。

仰天した犬は怒り、俺の腕に激しく噛みついたのだが、その痛みはサディズムであったあゆみとの思い出を一瞬にして蘇らせた。

もっと、もっと強く!痛くして!女王様!

俺は喜びに身悶えながら犬を抱きかかえると犬の鼻先に幾度も舌を這わせたのであった。



それから、警察と犬とおばさんから逃亡してきた俺は病院で手当てをしてもらった。幸いにも六針縫う程度の傷ですみました。

そして、

このままではいかん!

病院からの帰宅途中に俺は思った。

もう一度彼女を取り戻すのだ!

そう心に決めたのだった。



俺はその足で彼女の住むアパートへと向かった。

それで、彼女のアパート付近で見てしまった。仲睦まじげに寄り添って歩く彼女と見知らぬ男を。

俺はショックで崩れ落ち、その場にへたり込んだ。

いったいどんな男なんだ?

と、俺は電柱の陰から男の顔を眺めた。

別段、冴えない男であったが、その男の楽しそうな笑顔が前の彼女のあゆみと瓜二つなのであった。

そうだ……あゆみもあんな風に笑っていた……

あゆみ!と俺は叫んで走ると横にいたあゆみを押し退けて、あゆみの笑顔を思い出させたその男の手を取った。

それから、ポケットから小箱を取り出して男に渡した。実はこれは彼女の誕生日に渡すつもりでいた指輪だった。

俺と結婚してくれないか……

そう言って、純白のウェディングドレスに憧れていた俺はタキシード姿がよく似合いそうな彼を見つめた。

彼とならきっとうまくやっていける……

俺はそう確信して彼との淡い新婚生活を思い描いた。

だが、そこにあゆみが鬼の形相で割って入った。

俺はプロポーズを邪魔されたことに腹が立ち、あゆみに向かって罵った。

あっちへ行きなさい!メス豚め!

それが俺の初めてのサディズムへの目覚めであったものの、すかさずあゆみに蹴りを入れられた俺は、

やっぱり奴隷でいいわ……

と気持ち良さげに体を震わせた。

その後、あゆみと男とで交互に蹴飛ばされていった俺は気持ち良くて、

女王様!女王様!

と、のたうち回った。

俺の叫びは月夜の晩によく響き、いつしか集まった野次馬達が俺を囲んで、

ヘンタイ!ヘンタイ!

と合唱しながら石をぶつけるのであったが、それがすこぶる快感で俺は笑顔で涙を流すのだった。
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