第2話  またとない呪いの言葉

文字数 951文字

今日は祭りだ…
早朝に目覚めた俺はそう思った。神輿が呼んでいるようにも感じた。
それで、俺は飛び起きて箪笥の法被やら鉢巻きやら褌やらが入っている引き出しに手を伸ばした。
しかし、その伸ばしかけた手を止めた。
思い出してしまった。今日も仕事であった。しかも朝から大事な会議があるのだ。


大好きな祭りと生活に欠かせぬ仕事。どちらをとるか?
悩んだすえ、俺は祭りと仕事を両立させることにした……ワッショイ!

まずは裸になり褌をしめた。それだけで力が漲ってきた気がした……ワッショイ!
それから、スーツを着用し、その上に法被を羽織り、鉢巻きをネクタイ代わりに首に巻いた……ワッショイ!
出陣、いや出勤の準備が整った俺はキッチンに向かい、棚から酒を取り出した。
そーれそれそれ、お祭りだー!
酒を一気に喉に流し込むと家を飛び出した……ワッショイ!

途中、神社に寄って一踊りしてから駅に向かった。
駅のホームでは電車が来るまでに三踊りした。
売店で買った酒を煽って電車に乗り込むと、俺は電車の中で踊り狂った……ワッショイ!


電車から降りて会社に着くころ、俺のお祭り気分は最高潮に達していた。
一歩一歩、丁寧に踊りながら廊下を歩き、会議室に向かった。すれ違う同僚達への挨拶はもちろん
ワッショイ!
だ。
踊りながら階段を駆け上がり、会議室のドアを蹴り開けた。
俺の神輿はどこだ!
椅子に座った重役達が呆気にとられた顔で俺を見た。
江戸っ子をなめるなよ!ワッショイ!
俺は吐き捨てるようにそう言って椅子に座った。すると、女子社員が俺の前に資料を置いた。
祭りは男の世界だ!女、子供が入ってくるな!
その子を睨み付け、目の前の資料を弾き飛ばした。
君、大丈夫か?
と、発した社長は喧嘩腰だ。
てやんでい!
祭りに喧嘩は欠かせない。血の気の多い男どもがぶつかり合う世界。それが、祭りだ。
そーれそれそれ、お祭りだー!

次々と迫り来る重役達をなぎ倒し、最後に社長を張り飛ばした。
血と汗と怒号や悲鳴が祭りに花を添えた。
俺は失神している社長を担ぎ上げて、踊りまくった。
ワッショイ!ワッショイ!
担いだ社長を上下に揺らし、会社中を練り歩いた。
ワッショイ!ワッショイ!


やがて、響くパトカーや救急車のサイレンの音も、俺には祭り囃子となって聞こえ、お祭り気分を盛り上げてくれるのであった。
ワッショイ!
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