第12話 すこぶるご破算

文字数 1,358文字

今日は自炊をしようと思いました。

それで、自炊、で真っ先に思い浮かんだのがカレーでした。しかし、料理をしたことのない俺はカレーの作り方がわかりません。そこで、スマホで調べたり、本屋で料理の本を買ってきたりして、カレーのレシピを学びました。

とにかく、カレーにも様々な種類があります。スープカレーや黒いのやら白いのやら。果ては辛いのから甘いのまで。自分は辛いのが苦手で野菜が嫌いです。と言うか、カレー自体が嫌いなのです。

まぁ、そんな話は置いておいて、俺はスマホ片手に料理の本を読みながらカレー作りのイメトレ(イメージトレーニング)に没頭しました。あくまでもイメトレだけなのは、俺の住む会社の寮に調理器具がないからでした。
あ、それともちろん、材料もないです。


さて、しばらくして、イメトレには既に飽きていて、カレーのことすらすっかり忘れたころ、何気につけたテレビにカレーのコマーシャルが映った。水着姿でカレーを食べるアイドルに俺の目は釘付けだ。
恋人にしたいな、とかお嫁さんだったらな、とか思って空想に耽っていると、テレビに映るアイドルが
「カレーは恋人!」
と、言いながらウインクをして、皿に盛られたカレーを差し出す格好をした。画面いっぱいにカレーのドアップが映って、
いや、そんなんいらんから、さっきのアイドルを返してよ
と、思わず、身をのり出してしまい、弾みで画面にタッチをする始末。

すると、バチッ、ってなってびっくりしたら、もんどり打って後ろの棚に頭をぶつけてしまった。

一瞬、目の前が真っ暗になり、はっ、と気付いた俺はそこでなぜかカレーの真髄がなんたるかを理解したのであった。論理的にDNA観点からあれやこれやを数式に当てはめたうえ計算して、真のカレーを導き出したのだ。


それから次々と脳内にスパイスや化学調味料が降り注ぎ、生まれ持った俺のカレー魂に味を付けていきました。

そして、ついに究極のカレーが完成したのです。

ただし頭の中だけで。

要するにイメージで。

それは多分、斬新な味で、今までに類のないと思う、おおよそ宇宙一のカレーでした。

このカレーを世に広めたい……

このカレーで一儲けしたい……

と考えた俺は自分の店を持つことにしたのでした。

それにはまず店を構えなくてはなりません。だが、店を建てるとなると金銭的に厳しい。貯金残高0円(笑)

初めての挫折と高い壁。

そんな折、俺の愛読する「月刊 紙パックリサイクル戦術」に、

夢は諦めるな!

の一文が。

そうです。夢は諦めてはいけません。

そこで考えた末、店を建てずに今住んでいる寮で開業することにしました。しかし、それには会社の承諾を得ないといけません。一応、会社の寮なので。

俺は後日、会社に申請書を提出することにし、その日は上司に相談しました。



俺「あの、カレーの店を出すことにしたのですが。」

上司「あ、そう。でも、うちはアルバイト禁止だよ。ここは辞めてもらうからね。」

いや、アルバイトとかではなくて……

てか、アルバイトみたいなものですが(笑)

と、そんな俺の声は工場の機械のカシャーン、カシャーンという大きな音によって虚しく掻き消されたのであった。



そうして、俺は会社を首になり、無論、会社の寮からも追い出され、今は無一文で地べたに這いつくばって生きてます。

ちなみに次回の俺の夢は黒人になることです
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