第7話 鉄格子
文字数 1,543文字
近江キアラは「ふぃぃ……」と、息を吐いた。
その横で佐原メダカは、
「ああ、なにこれ……。鉄格子の中なんだけど」
と、牢屋風の部屋に閉じ込められた今の状況を、声に出してみたのだった。
鉄格子を掴んでガシガシ揺さぶってみるが、全く動かない。張りぼてではなく、本当に鉄格子なのだ。ここは牢屋なのだ。生徒指導室だったはずでは。
「風紀委員のやる範疇越えてるじゃんか……」
唖然とするしかない。
「あ! そうだ!」
くるりとスカートをひるがえし、後ろの近江キアラの方へ向き直るメダカ。
「近江キアラ。あんたに言いたいことがある!」
まっすぐに出した右手の人差し指でキアラを指す。自分と同じ一年生なのも襟のカラーで確かめて。
「あなたは涙子さんの彼女なのかしら! 違うわよね!」
「どうしてそう思うの、メダカさん」
それに対し、ふふ、と笑むメダカ。
「それはもちろん」
「もちろん?」
「勘よ!」
ふぃぃ、とまた息を吐くキアラ。
「テンプレートな回答をありがとう」
「テンプレで悪かったわね! そうよ。わたしは直感だけで動いてるのよ!」
「そんなんじゃ早死にするわよ、メダカさん」
制服の胸のあたりに手を突っ込んで、キアラは突如、大きめの箱を取りだした。まさか胸の谷間にその大きな箱を挟んでいたとでもいうのだろうか。そんなバカな。峰不二子か。
キアラは、すたすた歩いてメダカの横をすり抜け、取り出した箱を鉄格子に『設置』する。
「これがわたしの〈サブスタンス・フェティッシュ〉よ」
鉄格子から離れ、牢屋の奥へ行きしゃがみこむキアラ。
「あーん、どぅー、とろあ! 爆発しろ!」
閃光。
炸裂音。
鼓膜が破れるんじゃないか、とメダカは思いつつ、爆風で壁に激突して倒れた。
「いたたたたたたた」
「埃まみれですね、メダカさん」
「あんたもでしょ。ごほごほ。なにそれ、爆弾?」
「爆弾以外のなんだと思いましたか」
「箱の中身はチョコレートだと思ったわ」
「正解です」
「正解?」
「わたしの〈サブスタンス・フェティッシュ〉は、チョコレート。チョコでおなかが膨れる妄想が具現化したものがわたしの〈病〉です」
「はぁ?」
「つまり、正解なんですよ、メダカさん。わたしは昨日、涙子さんをチョコレート爆弾で殺そうとしていた」
「んん?」
「わたしの〈意思〉の力がないとディスオーダー能力は発動しないので。ぶつかったときはなんともなかったでしょ。そういうことですよ」
爆風の向こう側から、金糸雀ラズリの声。
「はーい。おしまい。イラついて爆破するとか、それこそ『自爆』ですわね。使えないようなパーソナリティの能力者は、隔離施設に送られますわ。ざーんねんでしたぁ」
ふん、と鼻を鳴らすキアラ。
「お得意の〈コールドスリープ病棟〉ですか? わたし、被検体にされちゃうのかしら?」
「自暴自棄ですわね。涙子さんを独り占めしたかったんでしょうけど。あのひとはここの〈王子様〉だったの、忘れていたのかしら」
「覚えてますよーだ」
ラズリに向けて、べーっ、と舌を出すキアラ。
「なにこれ?」
異能ってやつ?
ラノベなんかに出てくる、超能力?
意味がわからない。これ、現実なのだろうか。
……そこでメダカは思いつく。
「意味がわからないけど、そもそも現実に意味なんてなかったわ」
あはは、と口を大きく開けるメダカにラズリは言う。
「現実には意味なんて存在しないなんて、佐原メダカはとんだニヒリストですわね」
その横で佐原メダカは、
「ああ、なにこれ……。鉄格子の中なんだけど」
と、牢屋風の部屋に閉じ込められた今の状況を、声に出してみたのだった。
鉄格子を掴んでガシガシ揺さぶってみるが、全く動かない。張りぼてではなく、本当に鉄格子なのだ。ここは牢屋なのだ。生徒指導室だったはずでは。
「風紀委員のやる範疇越えてるじゃんか……」
唖然とするしかない。
「あ! そうだ!」
くるりとスカートをひるがえし、後ろの近江キアラの方へ向き直るメダカ。
「近江キアラ。あんたに言いたいことがある!」
まっすぐに出した右手の人差し指でキアラを指す。自分と同じ一年生なのも襟のカラーで確かめて。
「あなたは涙子さんの彼女なのかしら! 違うわよね!」
「どうしてそう思うの、メダカさん」
それに対し、ふふ、と笑むメダカ。
「それはもちろん」
「もちろん?」
「勘よ!」
ふぃぃ、とまた息を吐くキアラ。
「テンプレートな回答をありがとう」
「テンプレで悪かったわね! そうよ。わたしは直感だけで動いてるのよ!」
「そんなんじゃ早死にするわよ、メダカさん」
制服の胸のあたりに手を突っ込んで、キアラは突如、大きめの箱を取りだした。まさか胸の谷間にその大きな箱を挟んでいたとでもいうのだろうか。そんなバカな。峰不二子か。
キアラは、すたすた歩いてメダカの横をすり抜け、取り出した箱を鉄格子に『設置』する。
「これがわたしの〈サブスタンス・フェティッシュ〉よ」
鉄格子から離れ、牢屋の奥へ行きしゃがみこむキアラ。
「あーん、どぅー、とろあ! 爆発しろ!」
閃光。
炸裂音。
鼓膜が破れるんじゃないか、とメダカは思いつつ、爆風で壁に激突して倒れた。
「いたたたたたたた」
「埃まみれですね、メダカさん」
「あんたもでしょ。ごほごほ。なにそれ、爆弾?」
「爆弾以外のなんだと思いましたか」
「箱の中身はチョコレートだと思ったわ」
「正解です」
「正解?」
「わたしの〈サブスタンス・フェティッシュ〉は、チョコレート。チョコでおなかが膨れる妄想が具現化したものがわたしの〈病〉です」
「はぁ?」
「つまり、正解なんですよ、メダカさん。わたしは昨日、涙子さんをチョコレート爆弾で殺そうとしていた」
「んん?」
「わたしの〈意思〉の力がないとディスオーダー能力は発動しないので。ぶつかったときはなんともなかったでしょ。そういうことですよ」
爆風の向こう側から、金糸雀ラズリの声。
「はーい。おしまい。イラついて爆破するとか、それこそ『自爆』ですわね。使えないようなパーソナリティの能力者は、隔離施設に送られますわ。ざーんねんでしたぁ」
ふん、と鼻を鳴らすキアラ。
「お得意の〈コールドスリープ病棟〉ですか? わたし、被検体にされちゃうのかしら?」
「自暴自棄ですわね。涙子さんを独り占めしたかったんでしょうけど。あのひとはここの〈王子様〉だったの、忘れていたのかしら」
「覚えてますよーだ」
ラズリに向けて、べーっ、と舌を出すキアラ。
「なにこれ?」
異能ってやつ?
ラノベなんかに出てくる、超能力?
意味がわからない。これ、現実なのだろうか。
……そこでメダカは思いつく。
「意味がわからないけど、そもそも現実に意味なんてなかったわ」
あはは、と口を大きく開けるメダカにラズリは言う。
「現実には意味なんて存在しないなんて、佐原メダカはとんだニヒリストですわね」