第2話 バイトの日
文字数 986文字
クラスに戻れない、と病室で佐原メダカは考えた。教師たちも考えた。
結果、空美市の北西の方角に大きな敷地を持つ巨大学校施設である、空美野学園の初等部に編入することが決まった。
メダカが前髪を、目が見えないくらい伸ばすようになったのは、その頃からだ。
高校生になって、バイトを始めた。
メダカにとって、初めてのバイト。
珈琲店の仕事だ。
「んん? ば……バイトッ! 今日はバイトの日だった!」
六限目の終わりのチャイムが鳴ったのと同時にメダカが飛び上がる。
教室中がビクっとする。
だが、小学生の頃と違い、その後のみんなの反応は、ほほえましいものだった。
「バイトに遅れたらコノコ姉さんにジュースおごることになっちゃう!」
カバンに教科書やノートを詰め込んで、席を立つ。
「先生、わたし、ちょっと急いでいるので」
「お、おう。頑張ってな、佐原」
教師のその返事を聞いていたかわからないくらい高速で、教室を飛び出す。
廊下で風紀委員の代表格、金糸雀ラズリが、
「こらー! 廊下走るのやめなさい!」
と、言うが、無視。下駄箱で靴を履き替える。
「こんな目隠し前髪で凶暴な娘がコノコお姉さまのところで働いているなんて、なーんだか、許せないのですわ」
金糸雀ラズリがそんなことを背中越しに言っているが、それも無視してメダカは、学園から出て東側にある坂道、空美坂まで走る。
珈琲やお酒の店が多いその坂の一角に、メダカがアルバイトをしている店がある。
二月。吐く息が白くなる。
空美坂まで来ると、登坂なので、ゆっくり歩く。
今日のバイトのスタート。これからがむしろ、メダカにとって一日の始まりだ。
「今日も働くわー」
こぶしを握る。気合じゅうぶん。
今日は涙子さん、来店して来るかしら。
「涙子さんのためなら、わたしは脱げる! 全裸待機おーけぃだわ!」
独り言をしてから、口を両手で覆う。
失言だ。
「これ、言っちゃダメな奴だ……。はしたない」
自分の言葉の阿呆らしさに頭を抱えるメダカは、目的地である朽葉珈琲店に到着すると、裏の勝手口から入り、再度、頭を抱えて「バカバカバカ。わたしのバカ」と、古典的にもすぎる仕方で自分を責めた。
結果、空美市の北西の方角に大きな敷地を持つ巨大学校施設である、空美野学園の初等部に編入することが決まった。
メダカが前髪を、目が見えないくらい伸ばすようになったのは、その頃からだ。
高校生になって、バイトを始めた。
メダカにとって、初めてのバイト。
珈琲店の仕事だ。
「んん? ば……バイトッ! 今日はバイトの日だった!」
六限目の終わりのチャイムが鳴ったのと同時にメダカが飛び上がる。
教室中がビクっとする。
だが、小学生の頃と違い、その後のみんなの反応は、ほほえましいものだった。
「バイトに遅れたらコノコ姉さんにジュースおごることになっちゃう!」
カバンに教科書やノートを詰め込んで、席を立つ。
「先生、わたし、ちょっと急いでいるので」
「お、おう。頑張ってな、佐原」
教師のその返事を聞いていたかわからないくらい高速で、教室を飛び出す。
廊下で風紀委員の代表格、金糸雀ラズリが、
「こらー! 廊下走るのやめなさい!」
と、言うが、無視。下駄箱で靴を履き替える。
「こんな目隠し前髪で凶暴な娘がコノコお姉さまのところで働いているなんて、なーんだか、許せないのですわ」
金糸雀ラズリがそんなことを背中越しに言っているが、それも無視してメダカは、学園から出て東側にある坂道、空美坂まで走る。
珈琲やお酒の店が多いその坂の一角に、メダカがアルバイトをしている店がある。
二月。吐く息が白くなる。
空美坂まで来ると、登坂なので、ゆっくり歩く。
今日のバイトのスタート。これからがむしろ、メダカにとって一日の始まりだ。
「今日も働くわー」
こぶしを握る。気合じゅうぶん。
今日は涙子さん、来店して来るかしら。
「涙子さんのためなら、わたしは脱げる! 全裸待機おーけぃだわ!」
独り言をしてから、口を両手で覆う。
失言だ。
「これ、言っちゃダメな奴だ……。はしたない」
自分の言葉の阿呆らしさに頭を抱えるメダカは、目的地である朽葉珈琲店に到着すると、裏の勝手口から入り、再度、頭を抱えて「バカバカバカ。わたしのバカ」と、古典的にもすぎる仕方で自分を責めた。